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Re:note  作者: 惣山沙樹
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 シャワーにはまず美咲さんが入った。他の女性たちは各部屋に行って準備だ。その間、残った男どもでゆっくりしようか、と言いかけた時、瑛太がぎょっとすることを言った。


「拓真さんの死体、今の隙に調べない? 何かわかるかも」


 驚いたことに、蓮さんが同調した。


「そうだな。犯人の手がかりがあるかもしれない」

「そうですか……」


 実は俺も気になっていた。美咲さんには悪いが、今が絶好のタイミングだ。俺たち三人は拓真さんと美咲さんの部屋に行き、シーツをはがした。

 拓真さんの格好は、白いTシャツにゆるめのデニムだ。足元は茶色のサンダル。いつもラフな格好をしている人だし、ここはリゾート地だし、特に不審に思わない。

 改めて傷を確認した。素人目だが、やはり刃物で刺されたように思えた。数えてみると、五カ所。背後をとられ、一気にやられたのだろう。

 瑛太がまるでマネキンを動かすかのように、しれっとデニムのポケットに手を入れた。


「こっちは……タバコとライター」


 右の前ポケットから、青い箱のタバコと白い安物のライターが出てきた。


「後ろは……」


 鍵だった。タグがついており、「スタジオ」と書かれていた。


「蓮さん、これはどうしましょう?」

「元々は靴箱の上にあったのをオレ見たよ。後でそこに戻しておこう」


 ここで終わりかと思いきや、瑛太がデニムのボタンを外そうとするので肝が冷えた。


「いや、瑛太、さすがにそこまでは」

「ちゃんと調べないと気が済まない」


 結局、瑛太はデニムを膝までおろした。拓真さんがはいていたのは、下着ではなく、オレンジ色の派手な水着だった。蓮さんが言った。


「泳ぐ気満々だったんだろうな。特に不思議じゃない」


 さらに、瑛太が水着のポケットに手を突っ込んだ。


「ん……? 何これ……」


 瑛太の小さな手のひらにちょこんと乗ったのは……未開封のコンドームだった。


「わー! 瑛太にはまだ早い!」

「ああ、アレかぁ! 早くないよ。もうボク中学二年生なんだから。避妊したい男女が使う物でしょ?」


 蓮さんが至極真面目な声色で言った。


「病気の感染予防にもなる。男同士でも使うぞ」

「男同士……? どうやって?」

「蓮さん! 余計なこと吹き込まないでください!」

「いや、いつかは知ることだし」

「後で兄の俺が責任を持って教えます!」


 とんでもない物が出てきてしまった。いや、彼女の美咲さんと来たのだからおかしくはないのか……? しかし、俺と瑛太の部屋は彼らの隣である。仮に拓真さんが生きていて、夜に「そういうこと」に及ばれるのはいたたまれない気がした。

 長時間ここにはいられない。元通りシーツをかけて、三人でリビングに戻った。蓮さんが言った。


「コーヒーメーカー見つけたんだ。温かいもので一旦落ち着こう。瑛太くんは飲める?」

「はい、大丈夫です」

「よし、作るよ」


 綾音ちゃんが部屋から出てきて不安そうな顔をした。


「ねえ、さっき拓真さんの部屋に行ってたの……?」

「うん。美咲さんには内緒ね。刺し傷だっていうことは間違いなさそう」


 コンドームが出てきたことは、さすがに言えなかった。


「次はわたしなの。遅くなると悪いから、早めに出てくるね」

「いいって、ゆっくりしなよ。疲れてるだろうし」

「ありがとう。颯太くんは優しいね」


 好きな人からの褒め言葉。それは、何より嬉しいもののはずなのに、今の状況ではまるで喜べなかった。

 こんな事態になったのだ。綾音ちゃんに告白どころの話ではない。警察と連絡がとれて、犯人が逮捕されて。それからこの事件のほとぼりが冷めるまで、到底無理だろう。

 蓮さんに淹れてもらったコーヒーを飲み、今後の身の振り方について考えていると、瑛太がこんなことを聞いてきた。


「ねえ、男同士ってどうするの?」

「……今それ聞く?」

「だって気になるんだもん」


 俺だってネットでの知識しかないわけだが、瑛太に耳打ちしてさっと説明を済ませた。


「それって挿れられてる方は気持ちいいの……?」

「俺もよく知らないよ! この話は終わり!」


 俺たち兄弟が騒いでいるのを、蓮さんが目を細めて見ていた。


「ありがとう。こんな状況だけど、瑛太くんの存在のおかげで少し和むよ。それに、瑛太くんは度胸がある。思ったことを直接口に出してしまうところは、もう少し気を遣った方がいいけどな」

「すみません、蓮さん。俺からもよく言っておきます」


 話は島のことになった。蓮さんが言った。


「オレは去年も来たから知ってるが、この島で雨風をしのげる場所はコテージとスタジオしかない。コテージは今のところ安全だ。となると、スタジオには行かない方がいいかもな」

「確かに……俺と瑛太が回った時も、建物はありませんでした。けど、スタジオには鍵がかかっていましたし、鍵は拓真さんが持ってましたし」


 瑛太が反論してきた。


「鍵が一つとは限らないよ。犯人が出入りしている可能性はある」

「でも瑛太、外部犯の可能性は低いって」

「ボクは全ての可能性を考えてるだけ。外部犯、っていうのも捨てきってはいないんだ」


 話し込んでいるうちに、女性たちのシャワーは終わり、俺と瑛太の番になった。


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