第52話:トンネルの先は鉱石の森のうた
いよいよ、トンネルの中に入りました
はたして、トンネルの先には、なにが待ち受けているのでしょうか?
では、お楽しみください(っ'~')っ
結局、あたしはやる気に満ちたフリスに引きずられるようにして、不気味なトンネルへと足を踏み入れた。
中はひんやりと湿っていて、壁からは絶えず水滴が滴り落ち、不規則な音を立てている。
「ユレノ、この先は本当に安全なんでしょうね?」
「文献によれば、危険なのは生態系そのものですの。トンネル自体に罠があるという記述はございませんでしたわ。おそらく、大丈夫かと」
「その『おそらく』ってのが、一番信用できないんだけど……」
あたしは悪態をつきながらも、双剣の柄に手をかけ、警戒レベルを一段階引き上げる。シビルが詠唱した明かりの魔法が、あたしたちの進む先をぼんやりと照らし出していた。
トンネルは、思ったよりも長い。
どれくらい歩いただろうか。あたしの集中力が切れかけた、その時だった。
「なあ、マリネ。この壁、何か描かれてないか?」
ルエリが、壁の一点を指さす。
あたしたちが近づいてみると、確かにそこには、苔と風化でほとんど消えかけた、古代の壁画のようなものが描かれていた。
「これですの!」
ユレノが、興奮したように声を上げる。
「古代文献に記されていた、『意味の解読不能な壁画』! まさか、本当に存在するなんて…」
彼女が言うには、この壁画はあまりに古く、描いた民族も、その意味も、何一つ分かっていないらしいわ。
あたしたちは、シビルの明かりを頼りに、壁に沿ってゆっくりと進んだ。壁画は、途切れ途切れに続いていた。そこには、森林に囲まれて暮らす人々の姿や、巨大な見た事のない獣と戦う勇猛な戦士たちの姿が、素朴ながらも力強いタッチで描かれている。
(へえ……。大昔にも、あたしたちみたいな冒険者がいたのかしらね)
そんなロマンを感じさせる光景が、延々と続いていた。
あたしが、その古代の営みに思いを馳せていた、その時だった。
「…マリネ、光だ」
「やった、出口だ。マリネ、早く行こう!!」
ルエリが、前方を指さし、フリスが浮かれている。
壁画が途切れたその先に、不思議な光が差し込んでいる。それは、太陽の光とは明らかに違う、虹色にまたたく、どこか人工的な光だった。
(……。出口?なにか変な光ね。これは、気を抜いてはダメなやつね)
「出口みたいね。でも、慎重に。なにか様子が変よ。なにが出てくるか分からないから、皆、気を抜かないようにね」
メンバーが、無言のまま頷く。
そして、全員で息をひそめて、ゆっくりとトンネルの出口へと近づいていった。
—
そこに広がっていたのは、森、と呼んでいいのか分からない、あまりにも幻想的な光景。
地面から生えているのは、木々ではない。水晶や瑪瑙、翡翠を思わせる、色とりどりの『鉱石の樹木』。葉の代わりに、雲母のような薄い結晶がきらめき、地面には金属質の苔が青白い光を放っている。
「うわぁ…、綺麗…」
カルラが、うっとりと呟く。フリスも、目をキラキラさせて辺りを見回していた。
風が吹くと、鉱石の葉が触れ合い、シャラシャラと涼やかな音を立てる。空気中には、その衝撃で砕けたのか、ダイヤモンドダストのように、光る粒子が舞っていた。
(なに、ここ…。信じられないくらい、美しいじゃない…)
あたしが、その光景にしばし見惚れていた、その瞬間。
「皆さん、息を止めて! その粉塵を吸い込んではいけませんの!」
ユレノの、今までになく切羽詰まった声が響き渡った。
「これは、石化の呪いを帯びた鉱物の粉塵…! 吸い込めば、肺から石になりますわ!」
「なっ…!?」
あたしたちは、慌てて口元を布で覆う。
だが、その混乱を見逃す敵が、ここにいないはずがなかった。
あたしたちが寄りかかろうとしていた、背後の巨大な水晶の塊。
その表面に、ピシリと亀裂が走る。
亀裂は、ゆっくりと左右に開き、中から、爛々と輝く爬虫類の、黄金の瞳が、あたしをじっと見つめていた。
それは、岩に擬態した、この森の捕食者だった。
なんとお、トンネルの中には壁画がありました
あれ、社会の教科書で良く見ましたよね(笑)
いい思い出です
では、また(っ'~')っ