第39話:楽しく手加減のうた
確か、残り一体は逃がすんでしたっけ?
ホントにやるのでしょうか
では、お楽しみください(っ'~')っ
(あと一体ね。全く、フリスさえまともならもっと楽なのに……)
あたしは、独り言でつぶやき、そして
「さあ、最後よ。気合い入れていくわよっ!!」
「「「おうっ!!」」」
メンバーの気合いを入れ直す。
そして、全員(あ、一人欠けてたか)で、ソイツと対峙する。
一番デカく、体格も桁違いにどっしりとしている。
「致命傷はダメよ。限界までダメージ入れて逃がすわ。でも、いいの貰っちゃダメよ。慎重によっ!!」
「おいおい、ムチャ言ってる自覚あんの?」
「手加減できるような相手じゃないでしょうよ」
「それなら、さっきのにしときゃよかっただろうよ」
シビル、カルラ、ルエリがそれぞれ文句を言ってる気がするけど、あたしには聞こえない。
「聞こえないわあ。さ、文句ならいくら言ってもいいから、ちゃんとやるのよ」
「「「はあーい」」」
三人の快く納得してくれた返事に満足しながら、あたしは獲物に襲いかかった。
あたしが先陣を切り、大物ケンタウロスの注意を引きつける。奴の狙いはあたし一人。好都合よ!
「カルラ、足止めお願い!」
「はいですぅ!」
あたしの叫びに、カルラが即座に応じる。彼女が呪文を唱えると、ケンタウロスの足元から無数の闇の茨が伸び、その蹄に絡みついた。巨体が動きを鈍らせる。
「ルエリ、武器を狙って!」
「言われなくてもな!」
ルエリが放つ矢が、ハンドアックスを握るケンタウロスの手首を的確に射抜く。致命傷にはほど遠いが、確実に奴の握力を奪っていく。
「シビル、あたしに強化を!」
「とっくにやってる!」
シビルの魔力が、あたしの体を駆け巡る。よし、これで役者は揃った!
あたしは、動きの鈍ったケンタウロスの側面へと回り込み、双剣を振るう。狙いは、急所を外した胴体や太腿。あえて浅く、しかし無数の傷を刻みつけていく。
「グオオッ!」
ケンタウロスが怒りの咆哮を上げ、闇の茨を力任せに引きちぎった。そして、狙いをあたしから、後方のカルラへと変更する!
(まずいっ!)
あたしが前に出ようとするよりも速く、シビルが一歩前に出て、杖を地面に突き立てる。
「聖なる障壁!」
カルラの目の前に、半透明の光の壁が出現し、ケンタウロスの突進を寸でのところで防いだ。壁に激突した衝撃で、あたりが揺れる。
「今だ、マリネ!」
シビルの叫び。あたしはその一瞬を見逃さない。
がら空きになったケンタウロスの背後から、渾身の力を込めた双剣の斬撃を、交差させるように叩き込んだ!
「ギャアアアアッ!」
さすがに堪えたのか、ケンタウロスは背中から血を流し、初めて怯んだように後ずさる。その目に、闘志よりも恐怖の色が浮かぶのが見えた。
(よし、そろそろね…!)
あたしは、わざと追撃の手を緩める。
その隙を突き、ケンタウロスはあたしたちに背を向け、一目散に山の奥へと逃げ出した。
「逃げるわよ!ルエリ、追跡の矢を!みんな、距離を保って追うよ!見失うんじゃないわよ!」
あたしの号令一下、『無名の月』の、本当の戦いが始まった。
目論見通り、ダメージ与えて逃がしてしまいましたよ
これで、巣まで案内してくれればいいのですがね
では、また(っ'~')っ