第3話:無謀坊やのうた
「よしっ!!早速行こうよ、みんなっ!!早く早く、支度して出発だよぉ」
遠足に行く幼稚園児の如き、阿呆がはしゃいでいる。
誰だよ、こんなのに勇者としての加護を与えたという、阿呆神は?
そう、フリスが勇者たる所以こそが、どこの誰だか知らない神のご加護らしいのである。
どうせなら、もっとメンタルの強いのにしてくれれば、と、過去に何度恨んだか数え切れない。
(さて、どうしたものかしらね。でも、流石に無視はできないか。これでも、今、ここにいる中じゃ、あたしたちのパーティの実力が一番、だしね。なんで、勇者カスのパーティは、今、この場にいらっしゃらないのかしらね。ホントの実力ナンバーワンなのに、まったく、いつも肝心な時に役に立たないんだから)
そぉーっと、残り3人に視線を向ける。
やっと、3人がこちらに、しかし、ゆったりと近づいてきた。
「やっと、来たわね。それで、どうする?阿呆は行く気よ」
「みてーだな、まったくこの阿呆は、なにも考えちゃいねーし」
シビルはあたしの後を追ってくる。
「でも、実力あるパーティで、今、動けるのは私たちしかいないですっ!!」
カルラは、いつもホントいい子よね。
可愛いわ。
「しかし、ゴブリンの5倍くらいか。まあ、この阿呆が使い物にならなくても、俺たちならなんとかなる、てくらいだけどな」
ルエリは、根拠のなさそうな自信満々で言ったわ。
あたしの目の前は、真っ暗になりかけていた。
(誰か、救世主はいないのかしら。あたしをこの場から、颯爽と助け出して欲しいわ)
と、思考放棄するあたしをおいて、フリスは新米冒険者くんと意気投合しているようだ。
完全にあれは行く気だわ。
なにか、後ろからの視線も痛いわね。そんなにあたしたちに押し付けたいのかしらね、あの受付嬢は。
そして、遠く取り囲んでいるその他の冒険者パーティの皆さんの、期待に満ち満ちた視線が、とても、とーっても、ひっじょーっに、痛いわけよ。
これはあれですか。
あれですよね。
あたしが周囲に期待されながら、首を横に振るという、一世一代の演技をかます場。
これに間違いないですよね。
一度は、断る流れですよね!?
なのに、分かってる。
分かってますよ、このお約束を実行すべきだって。
でも、あたしのメンタルは、そこまで強くなかったわ(泣)
そして、一言発するのが精一杯だったのよ。
「分かったわよ。行けばいいんでしょ?行けば!!」
世の中は、欺瞞で満ちている。
あたしが、悟った瞬間でもある。
ついに、押し付けられてしまったみたいです
可哀想な、マリネ姉さん
でも、既定路線ですから、外せないですよね