第1話:ゴブリンダンジョンのうた
あたしたちは、この前の定点観測の報告と、次の依頼の確認のため、ギルドにやって来ていた。
この、『なにもなかった』を原稿用紙1枚に引き伸ばして書かされる拷問.........。
誰だよ、こんな報告書作りやがったのはっ!!
とにかく、あったようななかったようなことをでっち上げた報告書を、受付のリリアに手渡しつつ.........。
「ね、次なんかいいのないの?このゴブリンダンジョンみたいのは、もうコリゴリだわ」
「そうね、今はかなり平和なのよね。だから、マリネが喜びそうな依頼は、特にないわね」
「そっかぁ.........」
「て、ことでこの報告書は確かに預かりました。今回もお疲れ様でした。しばしの休暇をゆっくり休んでね」
「ありがとう、リリア」
そう受け答えて、受付のカウンターから離れた直後のことだった。
新米パーティのメンバーらしき冒険者が、ギルドハウスに飛び込んできた。
「た、助けてくれっ。ゴ、ゴゴゴ、ゴブリンダン.........、(ゲホゲホ)」
よほど慌てて駆けつけてきたのか、息が上がっていて、まともに喋ることが出来ないようだった。
近くにいた冒険者の1人が、彼に水を渡してやる
「これ飲んで、落ち着いてから喋るんだ」
(コクコク)
(意外と素直だな、あいつ)
少しだけ感心しながら、彼が落ち着くのを待つ。
彼は受け取った水を、一気に飲み干して.........、案の定むせていた。
(ウケる。予想通りすぎるんだけど(笑))
あたしは、心の中で大笑いした。さすがに、ここで本気で大笑いできるほど、あたしは大物じゃないからね。
彼は少し落ち着き、深呼吸してから
「大変なんだっ!!ゴブリンダンジョンで、見たこともないモンスターが暴れているんだっ!!しかも、五体もいたっ!!アイツらの強さは、ゴブリンどもの比じゃない。頼む、まだ俺の仲間たちが、応援を待ちながら戦ってるんだっ!!」
彼は一息に喋りきった。
その場にいた全員の表情が、一気に青ざめた。
そして、彼は続けるの。
「このままじゃ、みんながやられちまう。みんな、俺に応援を連れてくるように、託して頑張ってるんだ!お願いだ、誰か助けてくれっ!!」
必死の形相で、彼はその場の全員に向かってお辞儀をするのだった。
(いやっ、ムリ。ムリだから。誰が自殺しにそんなとこ行くのっ!?)
多分、この場の冒険者たち全員の心が、この瞬間にひとつになったに違いない。
あたしは、そう信じている。