第9話:いいかげんな本題のうた
「ところでな、ギルマスよ。此度の世の依頼だが、もちろん受けてくれような」
ギルマスが頭を更に低くする。
許しを得るまでは、一般人は喋ることができないのだから、仕方ない。
それを無視して喋っちゃうのは、昔からあの阿呆(勇者フリス)だけだ。
家臣の一人が発する。
「ギルマスよ、奏上を許可する」
ギルマスは、再度礼をしてから
「はっ、陛下に置かれましては、本日も壮健にて、なによりでございます」
「うむ、それで依頼の件はどうじゃ?」
「はっ、ギルド内で検討を進めましたところ、やはり、こちらに控えておる無名の月に任せるのが最良であると、結論が出ました。ギルドとしては、かの者たちを推挙いたします」
(は?なにも聞いてないよ?聞いてないですよ、ギルマス!!勝手に他人を売るんじゃないよっ!!)
怒りの籠った目で、ギルマスを睨む。
その横のリリアにも、こっそり送ってある。
なのに、リリアがそっとこちらを睨んでくる。
なぜ毎回気づくかな?
(え、なんか、このキモからお仕事頂かなきゃなの?死ぬ、あたしの生命もここまでね。みんな、後のことはお願いするわ)
必死で覚悟を決めたのに、現場(謁見の間)は何事も起きていない(汗)
(あれ?なにか認識が違う?)
本来、ギルドは独立した機関であるが故に、王国の命令を受け付けることはない。
しかし、国王様は『依頼』と言った。
国が対価を支払って、ギルドに依頼するなら、ギルドとしても、断る理由などない。
国王の視線が、あたしたちの方へ向けられる。
(イヤだ、ヤメテ。あたしをその目で見ないで)
あたしの心の叫びがこだましている。
「ギルマスはこう申しておる。無名の月の面々よ。もちろん、引き受けてくれような」
(いや、依頼の話なんて聞いてないですし。ああでも、選択肢ないよね?完全に、確実に、命令、だよね?おいっ、ギルマスも黙ってんぢゃねー)
とか、考えていると、家臣の1人がタイミングをはかっていたかのように、あたしたちの前に進みでる。
「もちろんでございます、陛下。この者たちからも、国王陛下の依頼を受けられる栄誉に、歓喜しておりますれば」
あたし達のような、下賎のものには、当然国王に直接受け応える許可など出ない。精々がギルマスまでなのだ。
故に、この家臣が、あたしたちの言葉を代理で、国王陛下に奏上してくれる、はずなのだがコイツ、あたしたちの意志を確認する気を、見せることすら放棄している。
つまり、あたし達はここまで連れ去られて、単に国王陛下からの独り言を聞かされ、その命令を引き受けさせられるだけなわけだ。
だから、こんなとこには来たくないんだよ、まったく。
「おお、そうか。それは頼もしいぞ、無名の月よ。では、頼みだがな……」
国王陛下の頼みはこうだ。
先日、ゴブリンダンジョンに、ケンタウロスが出た(あたしたちが討伐した)。
それを聞きつけた国王陛下は、突然思いついてしまった。
ケンタウロスを、城で、飼い慣らしたい、と。
その為に、王城の一角に飼育施設を増設するのだそうだ。
ご苦労さまなことである。
で、だ、ここまでくると、大抵の普通の人間になら、国王陛下がなにを望んでいるのか、自ずと分かってくる。
そう、その通りだよ。
『ケンタウロスを生け捕りにしてこい』
だとさ。
あの阿呆の友達は、やっぱりこの上なく阿呆だということが、分かった……(白目)
国王様の、あまりにも身勝手な依頼
まあ、こんなの茶番で、命令以外のなにものでもありませんよね?
あたしだって、断ることなんてできません
だって、小市民なのですもの(笑)