お姫様たちが主人公「無能なメイド」の心を掴むのを手伝いました
こんにちは、皆さん!はじめまして、私は新人小説家です。これが私の最初の物語になります。読んでいただけたら嬉しいです。楽しんでいただけますように!
第一章:戦いの始まり
朝日がマンゴ村を穏やかに照らし、木々の隙間から差し込む光が露を帯びた葉の上で柔らかくきらめいていた。
孤児院の裏庭にそびえ立つ一本の古い桜の木の下で、金髪の青年レオンが木剣を振るっていた。
シュパッ!
風を裂く一太刀が空気を震わせ、桜の花びらがふわりと舞い上がる。
「きゃーっ! レオンお兄ちゃん、すっごくかっこいい〜!」
首に布を巻いてマントのようにした子どもが声をあげる。
木の根元には三人の子どもたちが並んで座っていた。マント姿の子、眼鏡をかけた女の子、坊主頭の少年。彼らの瞳はキラキラと輝き、兄の剣捌きを見つめていた。
その賑やかな声は、まるで朝の音楽のように、レオンの稽古に彩りを添えていた。
レオンの唇に、静かな笑みが浮かぶ。
だが、その穏やかな空気は、ある言葉で一変した。
「お兄ちゃん、明日からリナリアお姫様と一緒に旅立つんでしょ〜?」
ピキッ…
剣を振るう手が空中で止まる。レオンの指がぎゅっと木剣を握りしめ、ギシッと木が軋む音がした。
彼の表情が一瞬で険しくなる。
「……勝手なことを言うな。」
低く、しかし鋭い声。
それでも坊主頭の子は気にせず、ニヤニヤと笑ってこう言った。
「でもさ、本当のこ――」
バシャッ!
突如、背後から冷たい水が子どもたちを直撃した。
「こらああああっ! またお兄ちゃんの稽古を邪魔してるでしょッ!!」
手には空っぽのバケツ。眉をひそめて睨むのは、レオンの義妹――ミラだった。
彼女は短く切り揃えた髪と鋭い目つきが印象的な少女だった。
「レオン兄さん、気にしないで。あの子たちはまだ子どもなんだから。」
そう言いながら、ミラはレオンに近づいていく。
レオンは静かにため息をつき、優しく微笑みながら、そっと彼女の頭を撫でた。
「ありがとう、ミラ。」
「も〜っ、お兄ちゃん、今汗かいてるでしょ? やめてよっ。」
ぷいっとそっぽを向いて、頬を膨らませるミラ。
レオンはくすっと笑った。
「ごめんごめん。でも、君も汗かいてるみたいだね。何してたの?」
「村のお父さんの手伝い。隣の村に野菜を届ける準備してたの。」
「えっ、一人で運んだの? 本当に大丈夫だった?」
「もちろん大丈夫だよ!」
ミラは袖をまくって、得意げに片腕を上げて見せた。
「へへっ。」
その数分後、二人は一緒に孤児院へと戻っていった。
「じゃあ、俺、先に風呂入ってくるね。」
そう言って、レオンは浴室へと向かった。
浴室の中で、彼はゆっくりと上着を脱いだ。
まだ若いその身体――だが、胸には大きな古傷が走っていた。
鏡に映るその痕を見つめるたびに、心は過去へ引き戻される。
八歳のあの日――
彼の眼前には、今も忘れられない巨大な怪物が立ちはだかっていた。
……
入浴を終えたレオンは、階下の台所へと向かった。
香ばしいジャガイモの香りが漂い、空腹をそそる。
台所では一人の年老いた女性が、皺の刻まれた手から炎の魔法を生み出しながら料理をしていた。
彼女の名はアリアナ修道女。孤児院の母のような存在だ。
「ミラは? いつもなら一緒に料理してるはずだけど。」
レオンはそう言いながら、包丁を手に取り、ジャガイモの皮を剥き始めた。
「今日は神父さまと一緒に隣村まで行ってるよ。いつも配達に行く子が、熱を出してしまったからね。」
「ふーん……じゃあ、何時ごろ戻るのかな?」
「日が暮れる前には戻ると思うよ。ああ、それよりレオン、子どもたち呼んできておくれ。お昼ご飯、もうすぐできるから。」
時は過ぎ、青く澄んでいた空はやがてオレンジ色に染まっていった。
レオンは窓際に座り、静かな小道をぼんやりと見つめていた。
だが、やがて彼は急に立ち上がり、木剣を手に外へ飛び出した。
胸の奥に、何かがざわついていた。
落ち着かない。
──
一方その頃、森を抜ける細道では、一台の馬車がゴトゴトと揺れながら進んでいた。
ミラは神父さまと並んで後部座席に座っていた。
隣村での用事を終え、帰路についたところだった。
だが――
じっと茂みの中から二人を見つめる、獣のような光を宿す目があった。
ザッ……ザッ……ザッ……
足音が、静寂を切り裂く。
その音に、ミラの表情がこわばる。
神父さまは慌てて馬に鞭を入れ、馬車のスピードを上げた――
しかし。
「きゃああああああっ!!」
ミラの叫びが、森の奥深くに響き渡った。
その声を聞いた瞬間、レオンの体が反応する。
彼は一瞬の迷いもなく、森へと駆け込んだ。
バサッ!
木々をなぎ倒す勢いで、風のようにレオンは走る。
彼の瞳には、ただ“守るべきもの”の姿しか映っていなかった。
その頃――
エスメラリヤ王国の城では、夕日が広い部屋を照らしていた。
リナリア王女は、大きな鏡の前に座りながら、長い銀髪を丁寧に梳いていた。
鏡に映る自分の顔には、微かな微笑み。
思い浮かべているのは、あの人のことだった。
コンコンコン…
礼儀正しくノックの音が響く。
扉を開けて入ってきたのは、きちんと整えられた髪と姿勢の良い若い従者、アリヤだった。
「王女様、馬車の準備が整いました。」
「ええ。すぐに降りるわ。」
リナリアは頬を少し染めながら返事をする。
「ですが…もうすぐ日が暮れます。明朝にされたほうがよろしいのでは?」
「はあっ!?」
リナリアは鏡越しにアリヤを睨む。
「主の命令に口出しするつもり?」
「…無礼をお許しください。しかし夜道は危険でございます。」
アリヤは落ち着いた口調のまま答える。
リナリアはゆっくりと手を上げると、空中に氷の欠片を生み出した。
「黙って従いなさい。」
「……かしこまりました、王女様。」
数分後――
リナリアは豪華な馬車に乗り込んだ。
護衛の騎士二人と女騎士一人、そして御者の隣に座るアリヤと共に、馬車は静かに出発した。
森の中の三叉路に差し掛かったとき、アリヤがふと声を上げる。
「…すみません。あちらの方角から馬車の音が聞こえました。何か…異変が起きているかもしれません。」
「それ、山賊じゃないの? 危ないって!」
女騎士が警戒して叫ぶ。
「私が様子を見に行きます。」
アリヤはそう言って女騎士から剣を借り、影のように素早く森へと駆け出した。
「アリヤーっ!」
女騎士が叫ぶが、彼はもう見えない。
「もし本当に異常なら、私も見過ごせないわ。」
リナリアはそう言って、護衛の騎士から馬を借り、自らも森へと向かう。
──
その先では、神父の馬車が白い狼の群れに襲われていた。
白狼はCランクの魔獣。ミラは荷物を投げながら、必死に彼らを追い払おうとする。
だが、馬車がバランスを崩し――
ガタンッ!!
馬車が横転した。
アリヤは宙を舞い、倒れたミラと神父を抱きかかえて地面に着地する。
だが、次の瞬間――
茂みの奥から、別の白狼が飛び出す。
「きゃああっ!!」
ミラの叫び。
その直後――
シュバッ!
狼の体が空中で真っ二つに裂かれた。
レオンが立っていた。剣には魔獣の血が滴っている。
すぐに周囲を見渡し、次々と集まる狼の群れを睨みつけた。
そのとき――
気温が急激に下がる。
空気が凍り、氷が地面を這うように広がる。
カチンッ、カチンッ…
氷が狼の進行を封じるように立ち塞がる。
空から降り立つように、リナリアの姿が現れた。
その貴族のマントをなびかせながら、彼女は美しい微笑みを浮かべてレオンのもとへ駆け寄った。
「レオンっ!」
その声にレオンは振り返る。
馬から飛び降りるリナリアを、咄嗟に抱きとめる。
リナリアは迷わずレオンにしがみついた。
「…ずっと会いたかったのよ、レオン。」
レオンの顔が赤く染まる。
「ぼ、僕も…お会いできて光栄です。でも…なぜこんな時間に…?」
リナリアはレオンの瞳を見つめたまま、微笑んだままこう返す。
「理由なんて必要かしら? あなたは…私のこと、会いたくなかった?」
「そ、それは…そうじゃないけど……」
「――失礼します、王女様。」
背後からアリヤの声が割って入る。
「すぐに村へ向かわれるべきでした。ここは危険すぎます。」
「ちっ……」
リナリアは不満そうに舌打ちしながらアリヤを睨んだ。
そのとき――
グルルルル……
地鳴りのような咆哮が森に響き渡る。
大木の陰から現れたのは、巨大な白狼。
二階建ての家ほどもあるその体には、月光に輝く銀白の毛が覆いかぶさっていた。
体のあちこちには赤い紋様が光り、不気味な存在感を放っている。
「ルフォラク……Bランク魔獣!?」
レオンが思わず息を呑む。
次の瞬間、ルフォラクは太い前脚を振り上げ、レオンに向かって振り下ろした――!
「危ないっ!!」
リナリアが即座に氷の盾を形成し、レオンの前に立ちはだかる。
ゴオオオオッ!!
爪が氷の盾に激突し、無数の氷片が四方に飛び散った。
だが――
背後から、別の白狼がリナリアに飛びかかる!
「王女様!!」
アリヤが影のように駆け抜ける。
ザシュッ!!
一閃。狼の首が宙を舞う。
「警戒を怠らないでください、王女様。」
アリヤの声は冷静だが、確かな怒気を含んでいた。
リナリアは両手を高く掲げた。
空気が震え、冷気が渦を巻き始める。
「氷壁――円形のシールド!」
バキバキバキッ!!
巨大な氷の壁が地面からせり上がり、一同を取り囲むように円形の防御陣が完成する。
気温が一気に下がり、地面には白い霧が立ち込めた。
「みんな、真ん中に集まって!」
リナリアが叫ぶ。
「ここから逃げなきゃ!」
ミラは震えながら言った。
「無理だよ! 数が多すぎるし…今やあの化け物までいるんだ!」
他の子どもが叫び返す。
「大丈夫、作戦があるわ。」
リナリアは円形の結界の外れを指差す。
「レオン、あっちの道にうちの馬車が止まってる。中には――必要な物があるの。」
レオンは一瞬目を見開き、すぐにうなずいた。
「わかった。すぐ戻る!」
「私とアリヤでここを守る。急いで!」
アリヤは剣を構え、静かにレオンに言った。
「行ってください、レオン殿。」
レオンはうなずき、氷の結界の隙間をすり抜け、外へと飛び出していった。
アリヤはルフォラクの正面に立ち、鋭い目で叫んだ。
「来いよ、このクソオオカミ!」
グオオオオオオッ!!
ルフォラクが地を揺らすような咆哮を上げ、前足を振り上げる。
アリヤは跳躍し、右目を狙って剣を突き刺す!
ザシュッ!!
ルフォラクの右目から血飛沫が噴き出す!
だがその反動でアリヤは吹き飛ばされ、氷の壁に激突してしまう――!
──
その頃、レオンは馬車のもとへたどり着いた。
馬車の周囲では騎士たちが数匹の狼と激しく戦っている。
レオンは迷わず駆け込み、馬車の中を探る。
座席の裏――そこに、布に包まれた一本の剣が置かれていた。
手を伸ばすと、剣がうっすらと輝き始めた。
その瞬間――
記憶の扉が開かれる。
10年前――
燃え上がる家。血まみれの少女を抱えて泣く幼い自分。
――レオン、私を掴め。
「……誰?」
声の主はどこにもいない。
炎の向こうには何も見えない。
――泣かないで。掴んで、そして、立ち向かって。
気がつくと、浮かび上がる一本の剣があった。
少年の手がそれを握った瞬間――
現在に戻る。
レオンの瞳が静かに開かれ、彼は剣をしっかりと掴んだ。
「行くぞ…!」
剣を携え、再び森の戦場へと戻る。
──
リナリアはまだ氷の中で立っていた。
アリヤは重傷ながらもなお剣を構えていた。
レオンはその光景を遠くから見つめ、ゆっくりと剣を構える。
彼の足元に風が集まり、剣が光を帯びる。
ズゥゥン…
一気に踏み込む!
「――はあああっ!!」
ズバアアアアッ!!
剣から放たれた閃光が空気を裂き、ルフォラクの体を真っ二つに切り裂いた!
ドォオオオンッ!!
巨大な魔獣は、轟音と共に倒れた。
残された狼たちは、リーダーの死に恐れをなし、一斉に森の奥へと逃げていった。
辺りに静けさが戻る。
月明かりの中――
一人の英雄が、そこに立っていた。
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