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4月 入院日記 その3 週末の外泊が救いです

 


 4月23日(金) 鮮やかな青天

 

 昨日、変則的な寝方をしたので、頭が朦朧としており体調は良くない。でも今日は外泊だから気分は良いと思われる。

 最近思うのだが、感受性が鈍くなったのかしら。ナイター中継何ぞ聞いていても、もう少しワクワクしても良いと思うのだが。いや、この間は割と興奮したような。わからん、どっちかな。

 

 主治医くんの一言。


「お酒は飲まない方がいいよ」


やっぱりネ。まだ無理だろうね。いか様な寛大な親を持っていようとムリだべな。それ以外で楽しむか。

 酒を除くと食い気と女っ気。これに執着するのは致し方ない。理由何ぞ言う必要もない!黙って聞け!

 食い気と言ってもね、食欲が無いのだから御菓子類となるだろうし、太りたくないけど体重が増えないと体力も戻らないし、と、何かと難のある食い気。

 すると残りは女っ気だが……寂しい。

 


 清楚ちゃんのあの字面の文の切り方。とっても綺麗で是非真似したいのだけれど、彼女の様に上手くいかない。

 まず第一にあの子は句点も読点も使わない。読点の代りに間を開ける。

 決して独特ではないのだけれど、息使いが聞こえる様で……。

 そして一行きっちり書かずに、文が上手く収まるように書くので、当然読みやすい。何より気に入ったのは、当世の女子高生の字ではなく女性らしい繊細で綺麗な字なのだ。

 あぁ、ただ文面をパッと見ただけでこんなにも誉め称えられるなんて、清楚ちゃん、君は良い子だね。

 

 

 ここから家で日記をつけている。

 あ〜違うもんだね、気分的に。気持ちと共に全体重がどっしりと椅子に収まって落ち着いているな。病院だと食事が嫌でたまらなかったけど、家だと難なく口に入るから不思議だね。

  

 今、夕方。いつもなら夕食も済んで、やるせない気持ちでいる時間。

時々、台所からトントンと包丁で叩く、まな板の音が聞こえてくる。


「あっ、いいなぁ。家にいるんだ」


という気になる。こんな事は十六年間生きてきて、初めての心境だ。それにまな板の音が味噌のCMにある様な、速い調子で一定のリズムを持っているものに対して、トントトン、トトトンとつっかえつっかえ。いかにも切りあぐねている様子である。切る物によって異なるのだろうけど、何か母を感じられて心地良かった。

 

 こうして書いていて、いかに家庭が良いものかしみじみと感じている。一人暮らしを憧れとまでも言わないまでも、良いものだろうと思っていた。でも案外そうなったら、ノイローゼになるのではないか。

 病気になってみて自分が何と人に頼っている事かと呆然とし、入院して家庭のありがたさを知った僕は、一人暮らしに対して抵抗を感じるようになった。

 

 何と不思議な事にロッカーから TEL があった。考えてみればおかしい。僕が入院中である事は周知の彼である。電話口に出たら驚いていたのだから。それなのに TEL するとはどういう事か。母に伝言でもする気だったのか。しかし伝言向きの話でも無いし、ますますわからん。

 

 『野性を磨滅させている』我家の柴犬メイコはどういうものだろう。なるほど、飼い主に服従を誓っている様だし、言う事も聞く。小型犬であるからコントロールも簡単。飼い主の方が力が上回っているのだから。

 でも、このままで良いのか。この程度の繋がりのまま、彼女は年老いていくのか。

 随分客観的に書いているが、現状がこうなのは、飼育者としての僕の責任である。僕が手抜きをしているのだから、彼女の向上は見られない。ちっとはあの()の事も考えてやらにゃ、このまま済ませては余りに寂しい事ではないか。

 

 今は23時53分 夕方の体温36℃4




 4月30日(金) 快晴、夜曇のち晴のち雨、雨

 

 見ろ、推理小説なんか読んでるから、こんなに日付が飛んじゃうんだ。

もちろん理由はそれだけでは無いが。

 しかし、日記を書き始めて気付いたが、こんなに頭が朦朧としているなんて。考えれば無理もない。昨日から読み通しだもん。今日に至っては朝からずっとだもんね。

 そう言えばトイレに行く時、頭がクラクラして目の前がチカチカして、壁を伝歩きしたっけ。

 

 今週は情けなくも二週目にして、早や金パへの投稿を断念し、最速自己嫌悪に陥った。そしてまた金パを聞いてその素晴らしさに嘆息し、また一段と落ち込んだ週であった。

 弁解するが(ここがおかしい)、外泊から帰ってから、また病人かという落胆と、長々とかつ大々的に病室の窓を開けていた為(おそらく原因は後者)、どうも体が熱っぽく調子が悪かった。当然、手紙なぞ書ける程、頭が回らず行き詰まったまま涙を呑んで放置してしまった。あぁ、自己嫌悪。

 岳夫よ、病気なんぞ患っている暇は無い。金パは待ってくれぬぞ。暴動だ、デモだ、反対運動、いや、革命だ!

 

 以前に御題があったなぁ。

 『人生を変えるんだ』チャコ様の凛呼たる声が何と素適に聞こえた事か。いや、まだあの声は新鮮さを失っていない。

 『人生を変えるんだ』体に力が溢れ出す様だ。夢がある。少しロマンチックな雰囲気もあるが、それはそれで良い。

 『人生を変えるんだ』

 『社会の方針を変えるんだ』

 

 結構筆が続くなぁ。ここ数日書いていないから飢えていたのかな。そもそも今、嫌々ながら鉛筆を握ったのは、パックに手紙を書かねばならないのに、ちっともその気にならない自分を、ちょっと運転させて軌道に乗らせようとした為で、大分頭もその気になってきたので、先ず目的は果たせた様だ。

 ではここ数日の近況でも記そう。




 4月23日(金) 天気←忘却の彼方

 

 外泊で東京の病院から群馬に電車で帰宅。己の体力の無さ(さらに落ちた)は身に染みていたので、さほどショックは無かったけど、結構疲れた。

 母も同じ事。自分の思いやりの無さはもう腹立たしいものだったが、頭が虚ろでほんの少し深くも、母に対して気遣えなかった。

 

 この日何をしたのか定かではない。でもおそらく留守中の新聞の山を読んだと思う。そして母の言うパック終了の記事も探したのであるが、長時間に亘る調査の結果、彼女の指すそれは、幅五mm縦数cmの週刊誌の見出しであった。

 その後、食欲の無い筈だが、晩御飯その他諸々を口にし、コーヒーを飲んだ。また久し振りに触れるTVに驚嘆してみせると、妹の視線は冷たいが、成程これは Magic box に相違ないという考えを持ち、一人でベットインしたのである。

 



 4月24日(土)

 

 はたして起床は九時であった。昨晩厳しく

「八時に起きなさい」

と、たしなめた母が九時に起こしに来るとは摩訶不思議であったが、親バカが原因であろうと思われる。

 昨夜の約束通りの朝食にありつく。残念ながら『酸っぱさ激しく』のドレッシングがあまり無かったので、予定していた深さ一cm位のドレッシングにサラダを浸す事が出来なかった。その程度の食い違いは当然予想されるべきだった。ただ残念だったのは僕がそれを予想したのが、ドレッシングを手にしてからだった事だけである。

 

 朝食後、母は僕が当然眠るものと思っていたらしいが、手紙を書いた。パックに書く心算であったが、親友を思い出したので宛名は赤坂から上用賀に変わった。手紙を書き終え、その出来栄えにホレボレしていると次妹が帰って来た。それでもう一つ、今度は赤坂に向けて書く気でいたが、こっちの方は手間が掛るし頭の新鮮さも失われていたので、潔く止める。

 

 午後になったら幼馴染さんに電話を掛けようとウキウキしていると、学校帰りの元中級友の三氏が現れ、立ち話。彼らは明日見舞いに来る気でいたのだそうだ。

 彼らは僕が病気である事を少ししか信じようとはせず、僕にはその内の一人の方がずっと病人らしく見えた。彼は感情の起伏が実に激しい男で、この日は下降線の様だ。

「元気ないネ」

と尋ねる病人の僕に横合いから他が口をはさむ。

「旺文社テストの結果が悪かったから」

なるほどネ。しばらくそういう心配から遠ざかっていたので、もう忘れていた。

 彼らは学校の話題しか話さず、僕は病気と病院について力説してやった。内心幼馴染さんの事が気になっていたが、友は大切だ。ちっとも会話に加わらず

「腹が減った」

としきりに独語している不機嫌くんに相槌を打てば、皆さん空腹の為帰った。


 家に入るなり、それっとばかりに電話の前に座ると、母がまたいらぬ事を言う。思いやりが欠けるとかなんとか。と言う彼女も相当なものだが。それでも彼女は我慢している様なので、僕が大人になれば解決する。それまでの辛抱だ。

 TEL するが悲しいかな、彼女は留守。母に言わせると

「先週はテストだったそうだから、きっと遊んでるのよ」

との事。仕方ないので兼部達の予定を変更させようとしたが忙しそうで、最初の通りに

「明日(日曜午前)お邪魔するよ」

となった。

 いよいよその後何をしたか分からない。ただラジカセを病室に置いてきてしまったので、聞き溜めの為に、かなりのボリュームで、居間のステレオでレコードを聞いていた様に思う。これに関する嫌味としか思えない母の発言に、腹立たしさを感じたので、それは良く覚えている。


 午前中、小六次妹が帰ってから昼食まで。

 僕は妹とお散歩に半ば強制的に出た。近くのヤマザキパンショップが休みであったため、キムラストアー(スーパー)に行った。妹はかなりの汗をかく事となったが、小学校では陸上部副部長なのだそうだから、遠慮ない所である。僕はミニサイクルを転がし気分は良かった。

 小学校もなかなか風情のある学校になってきた。彼女は学校の傍で突然物陰に隠れた。

「だって後輩が……」

生意気な事をぬかしおる。何が恥ずかしいのか。

 キムラストアーにはお目当てのチョコスナックが無かった。それはつまり他店に探しに行かねばならぬ。

 それにしても彼女と僕のお菓子の好みの合う事。彼女の暗算では七百八十円であったがレジは六百八十円だった。百円得をした。

 その後チョコスナックを買い、自転車の横を走った彼女は顔を上気させ汗だくとなったが、それでも家につくと僕より先に買い物袋を掴んだ。天晴れ、我が妹よ! 袋をひっくり返して出てきたものを見た妹と僕は、目が合うと今更ながら言った。

「チョコのお菓子ばっかり!」

合計千円のチョコ菓子は無造作に口に入れられたが、やがて甘ったるくて止めた。

 余りにも可哀相だから

「オネイチャンにも一個やろう」

と僕が提案すると、彼女は空き箱に菓子ゴミを詰め

「これも」

と二つ重ねて長妹の机の引き出しに入れた。中学校から帰って来た彼女はお菓子に感謝し、空き箱に憤慨した。その後、次妹はもう一度長妹を引っかけ、長妹は怒ってただならぬ声で叫んだが、これには僕は一切関わっていない。


 母は中学校授業参観から帰ってくると僕らの散歩を知っていた。学校の窓から隣接する我家を見ていたそうだ。当り前だが彼女はお菓子を買いに行くと言う、そのくだらない目的は知る筈も無い。

「お兄ちゃん、アイスでも買ってくれた?」

「ううん」

「まぁ、ケチねぇ」

ウヒヒッ。実は大量のお菓子があるよ。結構くだらない事も面白くなった。

 



 4月25日(日) 午前中湿っぽい空でベストが無いと薄ら寒かったが、午後になると青空が増え、お散歩陽気になった

 

 その午前中、兼部と弓道とロッカーが来て、しょうも無い話をした。

 弓道部の新入部員が四人入ったと聞いて、非常に嬉しかった。割と愛部精神旺盛と言ったところか。とても有意義な時間だった。

 早く夜間に集まりたい。何せ彼らは相当飲める様になったそうだから。追いつかないと笑われるハメになる。

 ピタッと本当に午前中で彼らは帰った。小中学校時代の様にだらだらいる事は無くなった様だ。ここにも友人等の成長を感じられる。

 

 午後、相当口説かねばダメかと思ったが、あっさり幼馴染さんは来た。全く、よくも年頃同志、マンツーマンで何時間も話が出来たものだ。どうも彼女にとって僕は女友達と同等らしい。話題もほとんど女同志と大本は変わらない。喜ぶべきか嘆くべきか。

 特筆しておく内容は無いが、彼女は入院先の僕に

「お見舞いの手紙を書くよ」

と言ってくれた。さっきの男連中は

「どうして男なんかに」

とにべもなかったが、彼女は優しい。でも、なかなか書いてくれそうにないかな。

 彼女にあげると言っていた、グァムで貰った香水のサンプルを渡すのを、また忘れた。



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