第二話(二)
豆腐小僧がお礼をして去った後、みんなで一服していた。
わたしは果実水を一口飲んで話す。
「治療するって何かイメージと違ったかも」
「病院みたいな感じだと思った?」
「うん」
「僕に専門知識なんてないよ。そもそもやっぱり人間とあやかしだと治癒力も全然違うしね。僕ができるのはちょっとした傷の手当てと橘を使った料理をふるまうだけさ」
「それだけでも十分凄いと思うけど……。井伊くんは、どうしてあやかしの怪我を治しているの?」
果実水を飲みながら、わたしはふと、疑問に思ったことを口にした。
「じーちゃんがやっていたのをずっと見ていたからね。橘を使ったレシピが書かれたノートが残っているんだ。もともと料理をするのが好きだったし。それに、怪我をしたあやかしがいたら治療するようにっていうのが先祖代々の教えでね。なんでも、昔々にあやかしに助けられたんだって」
「そうなんだ」
「井伊さんはあやかしに襲われたことはある?」
「追いかけられたことならあるけど……」
過去のことを思い出す。この土地にやって来た時も、鎌鼬に追いかけられた。あやかしは視えるわたしたちの反応を見て、面白がっているようだった。
反応が面白いから追い掛け回す。その時は怖くて考える余裕がなかったけれど、今思うとまるで子どもみたいだなと思う。
「僕も何度も襲われたことがあるんだ。でも、中には助けてくれるあやかしもいた。草石もそうさ。僕が困っていたら助けてくれるんだ」
ね、と井伊くんが言えば、草石は照れくさそうにぷいっと顔を逸らした。
「まあ、路久に何かあったら美味しいものが食べられなくなるしな」
「照れているなぁ」
「照れているねぇ」
「う、五月蠅いぞお前たち!」
草石が尻尾で床を叩いた。それが単なる照れ隠しだとわかっているので、くすくすとわたしたちは笑う。
「あやかしには僕もお世話になっているってこと。だから、もし弱っていたり困っていたりしたら助けたいって思うんだ。あやかしにも良い奴と悪い奴がいる。それは人間と変わらないなって思って。あやかしであろうと人であろうと、助けたいと思ったら助ける。それが僕の信条さ」
はっきりと井伊くんがそう告げた。
わたしも、誰かが困っていたら助けたいとは思う。でも、井伊くんのように誰に対しても優しくできるだろうか。
――わたしも井伊くんみたいになれたらいいのに。でも、きっとわたしには真似できそうもない……。
暗い気持ちが胸の中に渦巻く。
真っ直ぐなその瞳が羨ましい。あまりにも眩しくて、わたしは逃げるようにそっと目を伏せた。