第一話(二)
男の子に連れてこられたのは小さなお社がある神社だった。
石段に腰掛けて、わたしは息を整える。
「ここまで来れば大丈夫」
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
ここに来て漸く目の前の男の子をわたしはまじまじと見た。
同い年、くらいだろうか。さらさらの黒髪に精悍な顔つきをしている。
ぱちりと男の子と目が合った。男の子は不思議そうに首を傾げながらも言葉を紡いだ。
「君、この辺りじゃ見ない顔だね」
「わたし、今日引っ越して来たばかりなので……」
「そうだったんだ。だからか……」
「え?」
「同い年ぐらいであやかしが視える子なんてこの辺りにいないはずなのになぁと思って」
「……あなたもあやかしが視えるんですか?」
「視えるよ」
ドキドキしながら訊ねたのだが、わたしの心境とは裏腹に、男の子はあっけからんと自身もあやかしが視えることを認めた。
「……さっきのってやっぱりあやかしなんですか?」
「鎌鼬っていうあやかしだよ」
「かまいたち……」
「そう。その名の通り鎌を持った鼬のあやかしさ。鼬は鼻が利くから、においが強いものはあまり好きじゃないんだ」
「だから、お酢を掛けたんですね」
「そういうこと」
にっと男の子が笑う。さっき鎌鼬にぶっかけたお酢は今は男の子が持っている買い物袋の中に仕舞われていた。
「僕、井伊路久。この春高一になるんだ。君は?」
「わたしは小寺理穂と言います。わたしも高一になります」
「同い年じゃん。よし、じゃあ敬語はなしで」
「わかり、……うん、わかった」
それにしても、とわたしは息を吐く。
「さっきは吹き飛ばされるんじゃないかと思って構えちゃった」
「吹き飛ばされるかはわからないけど、人を切りつけることはあるみたい。刃物で切られたような傷ができるけど、不思議なことに血は出ないんだって。何でも血を吸われるからで、鎌鼬は生き血を吸うために人を襲うとかいう伝承もあるらしいよ」
「うわぁ……」
生き血を吸われる……うん、想像するのはやめておこう。
切られなくてよかったと切実に思った。
「井伊くんってあやかしに詳しいんだね」
「うーん、まあ、家にそれ関係の本があったからね。自己防衛のためにもいろいろと知識はつけているよ」
そう言われたわたしは、鳩が豆鉄砲を食ったかのような表情になっていたと思う。
「家にあやかしについての本があるの?」
「うん。僕の家、昔からじーちゃんがあやかしの治療とかをやっていて、よくあやかしがやって来るんだ。じーちゃんは亡くなったけど、僕もそれに倣ってあやかしの治療をしているってわけ」
「あやかしがやって来るんだ……」
「気になる?」
気にならないといえば嘘になる。
こくりとわたしは頷いた。
「それなら、うちに来なよ」
「え……でも……」
「気になるんでしょ?」
「気に……なる」
それなら行こうと言われて、わたしは頷いてしまった。いやだって、この機会を逃したらあやかしのことを聞くことができなくなると思ったから。
わたしは井伊くんと一緒に歩き出した。