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第一話(一)

 雲のない快晴の下、わたし――小寺理穂は歩く。住宅街を抜けた先には、田んぼが広がっていているのが見える。その景色を見るだけで、今まで住んでいた場所よりも田舎なんだなぁと思った。坂もないし、ずっと平地で歩きやすい。

 土地勘のない道を歩くのは不安だが、買ってもらった携帯端末があるのでいざとなったら地図アプリを開けばなんとかなるだろう。文明の利器様々だ。

 歩いているものの、目的地などない。部屋の片付けも終わりかけた頃、お母さんに「ちょっと散歩でもしてきなさい」と引っ越して来たばかりの家から追い出されたのだ。

 ――できれば、家に引きこもっていたかった……。

 運動神経はあまり良い方だとは言えないが、別に散歩をするのは嫌いではない。

 普通なら知らない景色を物珍しそうに眺めながら、何処かわくわくした気持ちで歩いたのだろう。だけど、そんな余裕はわたしにはない。

 ――やっぱり、こっちに引っ越して来ても視える……。

 視界に映り込んだ一つ目の子どもに、ひいっと声が出そうになるのを何とか堪え、さっと視線を逸らした。

 近くの家の塀には尻尾が二股にわかれた猫が寝ている。それはまあ、まだ平気。

 でも、空中に漂う火の玉とか、二本足で歩く青蛙とか、明らかにいかにも「あやかし」という見た目のそれらは無理。

 そう、わたしはあやかしが視える。中学生だったある日、何のきっかけもなく、あやかしが視えるようになってしまったのだ。

 アニメとか漫画なら、普通死ぬような体験をしたとか何か特別なことがあったからあやかしが視えるようになってしまったというのが定番だろう。

 でも、まるで風邪を引いたかのように、ある日突然視えるようになった。

 周りを気にしてびくびくするようになったわたしに、両親は学校で何かあったのかと思ったらしい。

 でも、勿論何もない。学校では周りに合わせて、そこそこ上手く立ち回れていたと思う。

 だから、何と説明すれば良いのかわからなくて、わたしは口を閉ざすことしかできなくて。

 だって、あやかしが視えるようになってしまいました、なんて言ってみろ。それこそ、学校で何かあって精神的に病んでしまったと思われかねない。

 何とかあやかしを無視するように努めて――時には叫ぶこともあったが、虫がいたとかで誤魔化した――過ごしていたものの、それにも限界はあった。

 あやかしが怖くて、とんと外に遊びに行くことがなくなり、家に引きこもるようになってしまった。

 そんなわたしに、環境を変えるためにも、今住んでいる場所から離れて両親が昔通っていた高校に行くのはどうかと言われた。

 ――確かに、この土地を離れれば見えなくなるかも……。

 そう考えて、わたしは了承した。もともと転勤族なので友人も多くなければ、その土地にあまり愛着もなかった。

 そして、わたしたち家族は今日この土地に引っ越して来たのだけど……。


「ここでもあやかし視えるじゃん……」


 わたしの期待は打ち砕かれた。嘆くことしかできない。


「もうそろそろ帰ってもいいかな……」


 ここでも引きこもり生活は継続かな、なんて暗い考えで歩いていると、ひゅう、と強い風が吹いた。

 ゴミが目に入ってしまい、目を擦る。漸く違和感がなくなり、目を開けたのだが、私はそのまま目を大きく見開いた。

 なんと、風の渦が道路に落ちている砂や落ち葉を巻き込みながらこちらにやって来ているではないか!


「何これ何これ何これ!?」


 叫びながらも逃げるしかなくて、わたしは慌てて足を動かす。

 走って走って、十字路を右に曲がる。すると、なんと竜巻もこちらへ曲がって来た。


「マジですか!?」


 まるで意志のあるような動きに、ただの竜巻ではないと察する。

 ――もしかして、これもあやかし!?

 けれど、何のあやかしなのかわからないし、ゆっくりと考える余裕などわたしにはなくて。

 まっすぐ走ったり曲がったりを繰り返す。すると、同じように竜巻も付いてくる。

 もう何処を走っているのかもわからない。

 段々息も上がってきて脇腹も痛くなってきた。


「……しまった!」


 目の前は行き止まり。後ろからは竜巻が迫ってくる。どうやらゲームオーバーのようだ。

 ――もしあの竜巻に巻き込まれたら、わたしもゴミのように吹き飛ばされてしまうのだろうか……。そうなったら、上手く着地できるかなぁ……いやそれ以前の問題か。

 せめてもの抗いとしてわたしは両手で頭を抱えて蹲る。来るなら来い!

 と、その時。

 わたしの目の前に一人の男の子が現れた。その男の子は持っていた袋の中から何やらビンを取り出したかと思うと、それの蓋を開けた。


「これでも喰らえ!」


 男の子はビンの中身を旋風にぶっかけた。

 ツンとした匂いが鼻をつく。

 ――このにおいは……。

 辺りに充満したにおいは嗅いだことのあるもので。

 すると、急に旋風が消え去った。そうかと思えば、すとんと地面に何かが転がった。

 茶色の体躯に鎌のような長い爪を持ったそれがぴくぴくと痙攣している。


「今だよ、こっち」


 手を差し出されて、咄嗟にわたしはその手を掴んだ。

 ぐっと手を引かれて、その勢いのまま立ち上がる。

 男の子に引かれるがまま、わたしも走り出した。

 ……何これ、一体どういう状況!?

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