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遠い山への帰り道

作者: おいらもぐ


冬の気配が山を包み、冷たい風が吹き始める頃、僕は山を下りることにした。家族が待つ巣穴に、冬を越せるだけの食べ物を持ち帰るためだ。

不安もあったが、今年生まれた小さな子どもたちの顔を思い浮かべると、力が湧いてくるのを感じた。


山道を抜け、見知らぬ世界へと足を踏み入れると、辺りに漂う異様な臭いと車の轟音が耳を刺した。僕が生まれ育った静かな山の空気とはまるで違う、無機質な世界だった。冷たいアスファルトの道路にそっと足を置くと、固く冷たい地面がじわりと足先に伝わり、僕は思わず身震いした。


それでも、子どもたちのために食べ物を持ち帰らなければならない。僕は不安を抑え、少しずつ前へと進んだ。


ふと顔を上げると、遠くに僕たちの山が見えた。柔らかな土の匂い、どっしりとした木々、巣穴で待つ家族の温もりが思い浮かび、胸が少しだけ温かくなった。きっと巣穴の中で、母タヌキが小さな子どもたちを抱きしめ、僕の無事な帰りを信じて待っているはずだ。


「帰らなきゃ…」そう心でつぶやき、山を目指して一歩を踏み出したその瞬間、眩しい光が視界を覆い、鋭い音が空気を引き裂いた。体が重くなり、僕は冷たい地面に倒れ込む。


ぼんやりとした意識の中で、僕は山の方角をじっと見つめた。最後に見上げたその山は、いつもと変わらず静かにそこにある。「帰りたい…」と心の中でつぶやいたけれど、視界は次第にぼやけ、夜の暗さに溶け込んでいった。


頭の中に浮かぶのは、巣穴で寄り添う小さな子どもたちの鳴き声と、それを見守る彼女の優しい眼差し。僕が戻れなくても、春が来れば、子どもたちは元気に山の中を駆け回るだろう。その日を信じ、僕は静かに遠い山を見つめながら、意識を手放した。


山は静かに、変わらずそこにある。春が訪れる日まで、きっと僕の家族を見守り続けてくれるだろう。


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