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5. The council.

 アルキヘイラの世界のはじまりにあったのは神だとも女神だとも言われている。どちらが正しいだとかどちらの性も具有しているだとか、神学において討論は絶えない。ともかく性別を超越した存在であった。神の時空へと昇る際に、アルキヘイラの住人であるひとりの乙女を、神に等しい地位へと召し上げた。世界を愛する者として。


 長い時を過ごしたその少女は限りある人の身を懐かしみ、女神の座を降りることを決め次にふさわしい少女を選び、後釜に据え置いた。こうして代替わりする女神たちに守られ、アルキヘイラの中でも大神殿を包括するダスクベール国の歴史は積み重ねられてきた。


 ダスクベール国の中央よりやや北西方に位置する大神殿に女神はおわした。女神に仕える(はふり)の上官が集められ評議員会が開かれる。

 大神殿を取り仕切る七名の評議員がものものしく揃う。


「昨夜のうちに、みなさまには神官アクエンアテンからの報告をお伝えしました」


 一番年若い男が議会の進行を買って出て議会は始まった。


「その報告とやらはまことなのだろうな、カーリッド」


「然り」


 棺桶に片足突っ込んでいそうな最年長のスオテプエエトが胡乱げにしていた。他の議員もぼそぼそ呟いている。


「女神さまの神力(しんりき)は消え失せたとか」


「その場にいたのは」


「女神さま、上級神官エフェルヘブエフ、同じくアクエンアテン。それと、女神さまが異世界から呼び寄せたという少女です」


「名は。歳は」


「歳は10代半ばと見られますが、あとはわかりませぬ。目が覚めたら聞き出せましょう。

 というのも、我々が寝耳に水だった通り、女神さまはこちらに知らせぬまま儀式も通さずに異世界人を次代の女神さまへ据えるおつもりだったようで。途中で阻んだアクエンアテンにより異世界人はほとんど絶命しかけ、なんとか治癒術が間に合ったとか。それっきりです」


 誰もが口を閉ざした。女神の力を失った世界の行く末を知る者はこの場にいない。いくら歳を重ねていようとも、この世界より年上はいないのだから。


「女神さま付きだったアクエンアテンに異世界人の意識が戻り次第いきさつを聞き出すよう指示しておりますので、また明日」


「それはそうと “the Deity(ザ・デイティー・) Day(デイ)” は如何(いかん)とする」


 二ヶ月前から準備を始めていた、毎年催す記念日。今代女神の就任日を祝う祭りはあと一ヶ月に迫ろうとしていた。


「髪と瞳の色が変わってらっしゃいますのでなにか被り物を用意いたします。お披露目を短時間で済ませ他を近くまで寄せさせなければ凌げましょう。女神生誕祭(ザ・デイティー・デイ)を催すに当たって大きな支障はありますまい」


 各々の発言は途切れ、議会はお開きといった雰囲気を漂わせる。

 評議員会の紅一点が手を上げた。


「あたくしが異世界の少女の身柄を預かっても?」


 血縁でさえも贔屓はしない彼女への周囲からの信頼は厚い。


「シュクラさまにでしたら、お願いいたしたく」


 許可を出したのはカーリッドだった。


「ではみなさま。あたくしの義理の息子をいじめるのはおよしくださいませね。あの子はこの件の被害者ですわ」


 うちの子たちに手を出すな、と笑みを深めた。











 キヨカとの面会を終えて、エフェルヘブエフは護衛対象の女神と渡りを歩いていた。


「キヨさまはだいじょうぶでしょうか」


 取り乱すこともなく、泣くことすらしなかった。事態を飲み込めていないのか、帰れぬ世界に未練はないのか。衣食住を与えられることには喜んでいた。単純だとか、前向きという言葉では片付けられない。問題から目を逸らしているのだとすれば、現実をつきつけるのはあまりにも酷だ。教えるにしても時期を見定めてから。


「わたくしたちでだいじょうぶにしてあげるしかないわ」


 彼女をこの世界に呼び出したのは女神ひとりの力ではあるが、それを話し合って決めたのはふたりだ。エフェルヘブエフがそっと頷いた。

 道の先に、老人ふたりが角で待ち構えている。評議員会の会合の帰りであろう。ひとりが口を開く。


「残念です、女神さま……いえ、ノーフレアーリさま」


「迷惑をかけることは謝ります、アンムフト、ラネフェアブ」


 名前を呼ばれただけの女神の返事に、老人たちはしぶしぶ頭を下げる。ふたりはエフェルヘブエフが下級神官のころからの養育者であり後見人だった。


「お前がついていながら」


「……はい」


「心労を取り除いてさしあげるようにと言い聞かせておったが、このような行動に出るなど」


「物事の道理をできうる限り教えたつもりだった。しょせんは親なし子ということか」


 養父の怒りにエフェルヘブエフは声を失う。彼らはずっと自分を大切にしていてくれていると思っていた人たちだ。投げつけられた言葉は精神を引き裂く。身震いしそうになった。




「おやめなさい。なんということを言うのです」


 擁護するべき養い親たちが子に責任をなすりつけるような真似をしている。幸いにも、ノーフレアーリはエフェルヘブエフの味方でい続けた。


「エフェル、行きましょう」


「……はい」


 親とも慕った人物から詰られ責められるほどの罪を、エフェルは犯したのだ。受け止め、真面目に反省したのならまた褒めてもらえるだろうか。それでエフェルヘブエフは、かつてのように喜べると思えなかった。


The council.

(評議会)

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