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4. At least, they’re not the low.

 アテンは行動が早かった。数時間後には、面会の場が整えられていた。男性と女性がひとりずつ部屋に入ってくる。


 彼らを前に、キヨカの隣に立つのはアテン。


「女神さまと、元お付きのひとりでエフェルヘブエフという」


 茶髪の男性のことは覚えている。女神のそばにいた人だ。


「キヨカです。わたしが会った女神さまは……」


「わたくし、ノーフレアーリです」


 キヨカは怪訝に思った。記憶の中の彼女は、見間違いようもなく女神だったのに。指先を切っても、赤い血ではなく金粉がこぼれ出しそうな、とにかく人間ではない雰囲気があった。ところがこうして改めて話すと、普通にあくびをしていても驚かないお嬢さんだ。


「女神としての力を失ってしまったので、このような見た目に戻りました。いつぞや人間だったころのわたくしです」


 それは置いておいて、とノーフレアーリは頭を下げる。


「あなたに危険があったことは、遡れば、わたくしとエフェルのわがままから始まったことでした。アクエンアテンだけが責められてよいはずがありません」


「わがままって……?」


「わたくしは女神を辞めたくて、代わりに女神になりたいと願う人間を探していました。エフェルと同じ時の流れで、人間として生きたかったからです」


「え、めっちゃ愛じゃんなにそれ」


 素敵、と感極まってしまう。

 各々思うところがありほんのわずかな沈黙がその場に流れた。その中でもノーフレアーリは悲しそうにしている。


「女神の力を半分あなたに注いだのは確かですが、わたくしはいま残っているはずの力ですら使えなくなっています。キヨカを女神とする方法がわたくしにはもはやわかりません」


「ノーフレアーリさんは人間になっちゃったってこと?」


「この姿を見るに、そうでしょう」


 民衆に紛れてしまえば、どこに彼女がいるか当てるのは至難の業。


「その、女神の力って時間が経てば回復したりするんじゃ?」


「どうかしら……、わずかでも力が戻ってくればわかるはずですが、一晩以上経った今でもその感覚がありません」


 完全なる無だ、と彼女は言った。

 ソフトのダウンロードを途中でキャンセルしたからダウンロード以前の状態に戻る、といったパソコンやゲームのようにはならないようだ。


「失くなっちゃったのかぁ……。わたしも自分の体に何かある感じはしないし……」


 胸に手を置いても、以前となんら変わらない心臓の鼓動があるだけ。


「わたくしとキヨカは下級神官として過ごすことになるでしょう。どちらかに女神の力が発現するかもしれないので監視がつくと思います」


「じゃあ、追い出されて野宿とかしなくていいんですか?」


 後ろ向きな発想に目を丸くして、女性はほんわかしたものを顔に浮かべる。


「ちゃんとベッドも食事もありますよ。下級神官としてこの世界について学びましょう。生活の手助けはそちらのアクエンアテンに任せてあります」


 横を見ると銀髪の男も一瞥(いちべつ)を返して頷いた。


「僕からも。此度(こたび)は心よりお詫び申しあげます」


 茶髪のつむじが丸見えになった。

 大半はこの人たちのせいといっても力を移す途中で止められるだなんて予定外だっただろうし、それはもはや事故だ。女神は事前に意思確認をしてくれた。選択肢を与えられたうえで、異世界に来てみたい、女神になってみたいと願ったのはキヨカだ。


「傷もなく生きてるので平気です。エフェル……さんも、治してくださったんですよね? ありがとうございます」


 男は目を瞠っている。やはり初対面で名前を短縮するのは失礼だったか。


「ごめんなさい、エフェル、えぶえぶ……? さん」


 それともエベブだかヘブブだったか。


「エフェルでけっこうです」


 どちらからともなく頭を下げ合っていた。



 お辞儀の応酬を止めさせたのはアクエンアテンだった。


「問題解決には私とエフェルヘブエフが取りかかる」


 それも、罰の一部だとか。

 女神の力を失ってしまったことが、どこまで波及するのか予測もつかない。


At least, they’re not the low.

(まぁ、悪い人たちじゃない。) 

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