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1. Slumped into an other world.

こちらまでいらしてくださりありがとうございます。


完結までの間に予告なく暴力、流血、残酷、性愛描写が出てきます。


 金色の光に縁取られた女神の指先が震えた。

 湧水の水鏡に接触している部分から波紋がいくつも広がっていく。


「……いたわ。エフェル。次の女神よ」


 閉じていた目を開くと、そこに微笑む愛しいひと。水鏡を見た。これで二人の夢が叶うのだと無意識に口角が上がる。


「女神になりませんか?」


 そう、少女に提案した。

 水がぼこりと泡とともに盛り上がる。うねりながら、人の形をとっていく。

 異世界渡りを了承した異世界人が湧水から飛び出した。女神の聖域に降り立ってからは、物珍しそうに首を回している。


「ここが、異世界?」


「アルキヘイラへようこそ、地球の少女」


「こうして女神さまが勧誘をかけて引き継ぎしてるってことは、もしわたしがイヤになるときがきたら、女神であることを辞められるってことですよね?」


「はい。あなたが次世代の女神へ力を譲渡すれば可能です」


「じゃあ、やってみます」


 引き継いで死ぬまで女神でいろというのはそうそう覚悟を決めかねるが、いつでも放棄可能なら悪くない話だ。


「ありがとうございます。ではお手をお借りしますわ」


 女神の手に少女の手が重ねられた。

 前からも後ろからも暴風に当てられているように、力に翻弄される。


「……うっ……」


 倒れこんだ少女の体を支えながら、女神は力を注ぎ続ける。彼女の器を広げながら、徐々にじょじょに。あともう少しで、半分というところ。先代から力を受け取ったときの感覚はとうに忘れてしまった。











「不届者めが! 女神さまに何をしている!!」


 乱入してきた男の手で力の流れを断ち切られた。

 衝撃で、女神も少女の体も吹き飛ぶ。女神はエフェルヘブエフが抱きとめることに成功したが、反対方向へ飛んだ少女はしたたかに床に打ちつけられた。


「ああ……なんてことを……アクエンアテン」


 女神と男が険しい顔でお互いを見合う。


「この者が女神さまを襲っていたのでは?」


「だったらエフェルが助けないわけがありません!」


 女神命の自分が女神が傷つけられる現場にいながらただ傍観しているなどありえない。いまもこうして優先して助けている。手の届く範囲にいなかった少女には悪いが。


 髪を揺らして、アクエンアテンは勢いよく振り返る。

 少女は這いつくばり、痙攣(けいれん)を起こして、呼吸もできていない。その身に余る力を宿して、器が限界まで膨張し壊れかけている。

 

 薄氷のような銀髪(アイシィ・ブロンド)をした男は己の過ちをただちに悟った。すぐさまそれを正そうと抱きしめるようにして、小柄な体を崩壊に耐えさせようと治癒の術をかけはじめる。


 細胞の破壊に術での修復が追いつかない。歯を食いしばって、額に汗を伝わせながら瞬きも忘れて最上級の術をかけ続けた。神力(しんりき)を賜る正式な儀式の外で人外の力を宿そうとした者の末路はーーとりわけ悲惨を極める。少なくとも、そう言い伝えられている。


 己の上限能力を優に超える男子の一死を以って報いんとする狂わしい姿に、エフェルヘブエフの背中に冷たいものが滑り落ちた。傑物のアクエンアテンがここまでしても、少女は命尽きかけている。


 腕の中の女神がこくりと喉を鳴らした。自分も眺めているばかりいてはいけない。やるべきことが、やれることがある。優秀な神官として一番はアクエンアテン、エフェルヘブエフが二番であっても、その差は乖離しすぎている。それでも。


「失礼します」


 女神から離れて、重症人の治癒に加わった。二人がかりで行使した成果か、峠を越えて少女の表情が穏やかになっていく。

 荒い息のなかで咳をしながら尻餅をついたように座り込む。少女のものが移ったかのようにいま震えているのはアクエンアテンだった。彼がここまで体力と気力を消耗するとは、とおののいた。


「エフェルヘブエフ。なぜ私に何も相談しなかった。事前に知らせてくれたなら私は……」


 こんな危険なことはしなかった、と息を吐く。

 聖域へ入れるのは女神と選ばれた護衛のみ。部外者がいるとなれば真っ先に凶行を疑う。疑うよう、教え込まれている。

 汗で頬に張り付く髪をどけて、彼に頭を下げた。


「すまない。……アクエンアテンに反対されると思った。とりあえず話は後にしよう、僕たちはみんな休むべきだ。その子はとくに」


 視線の先には異世界の少女が横たわっていた。身体的損傷は治癒できたものの、意識を取り戻すまでには至っていない。


「そうだな、私は動けるようになったらこの娘を運ぶ。エフェルヘブエフは女神さまを……」


 ようやく視界に入れた女神に、彼は愕然とする。


「女神さま……そのお姿は」


 常にまとう黄金色の光は消え、髪も瞳の色も変わってしまっていた。


「どうやっても力が発動しません。わたくしの女神としての力は、その少女へと分かたれたようです」


 神たる力を有してよいのはたったひとつの存在のみ。

 他へ中途半端に分け与えてしまったことで、女神であるための一切合切を失った。


Slumped into an other world.

(異世界へ。)

まずは一話をお読みくださりありがとうございます。


至らないところだらけで読みづらい部分もあるかと思われますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。

せめて後半のいちゃいちゃまでは……!

完結まで頑張って書いたので供養のつもりで上げてます。


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