後々理解する
「リザンヌ様、良かったです! お目覚めになられたのですね」
「驚かせてしまい、すまなかったわね、シア」
神様に与えられた二つの選択。
一つ目の選択では、新しい人生をやり直せるのです。若々しい肉体を手に入れ、恋だってすることができたでしょう。でもわたくしは、そちらを選びませんでした。
なぜならわたくしのモットーは“後悔しないように生きましょう”ですから。それに今、新しい人生を始める時ではないと思いました。この世界でやり残したことが、あまりにもあり過ぎます。わたくしにはこの世界で、まだまだやりたいことがありますからね。
さらにこの国の多くの国民が、わたくしにとっては、自分の子供みたいなものです。彼らが健康で長生きできて、子供を育ててくれれば、それはわたくしにとっての孫になります。こんなに沢山の孫がいるおばあちゃんなんて、わたくしだけじゃないかしら?
それにね、二十年分だけ若返った体。これは案外悪くはありません。何せアラセブ、アラ還と言われていたのが、元の世界と同じ、アラフィフまで戻れたのです。見た目はもう、一昔前に流行した美魔女ですよ。みんな実年齢と見た目のギャップに、目を丸くしています。書類上はアラセブでも実体はアラフィフ! 最高です。
その上で、この世界での生活習慣が、前世よりよかったからでしょうか。体も軽く、とっても健康です。自分の努力で勝ち得た健康。そう思うと、自信もつきますよね。何よりこれを継続すれば、体内年齢の若々しさも、キープできるのですから。
そしてわたくしが中途半端に感じた、不治と呼ばれる病だけを治す泉。
この意味を、わたくしは、後々理解することになります。
その前に。この泉、名前はお恥ずかしながら、わたくしの名を冠することになりました。つまり、「リザンヌの泉」という名に決まったのです。わたくしは別に自分の名を冠する気持ちはなかったのですが、「発見者は母上なので」と息子である国王に押し切られてしまいました。
自分の名前を、皆が当たり前のようにこれから口にするのかと思うと……少し、恥ずかしいですね。
ともかく不治と呼ばれる病だけを治す泉は「リザンヌの泉」と呼ばれるようになりました。
そしてその泉はどこにあるのかと言うと……。
あの「巨人の落とし物」と言われる岩の下で湧き出ていた水、それこそが「リザンヌの泉」だったのです。あれよ、あれよという間に水が湧き、あっという間に泉が誕生したのです。
ただ、その泉は決して大きくはありません。大勢が大挙して押し寄せ、水を汲んでしまっては、すぐに枯渇してしまうでしょう。だからこその“不治と呼ばれる病だけを治す泉”なのでしょうね。
人間の欲望とは、青天井です。欲しい、欲しいとなったら、止まらなくなってしまいます。よって“不治と呼ばれる病だけを治す泉”であることは、正解でした。
神様というのは、こういうところの塩梅が、さすがですね。
同時に。
この泉で治らない病は、治療法を見つけることができていないだけで、治す方法がある――ということにもなります。これは医療の分野の研究者を、大いに鼓舞することになりました。治療法はあるはず、諦めずに見つけよう――と。そういった研究のための財団も作ったので、この国の医療は、きっと発展してくれることでしょう。
そんなことがあった一年も終わりに近づき、ゆったりホリデーシーズンを過ごした後は、新しい年が始まります。
ヴェラヴォルン王国には多くの祝賀客が訪れ、そこに海外の王侯貴族、使節団が沢山含まれています。三百名を収容できる謁見の間に彼らは集められ、そこに現国王ミロ・マクス・ヴェラヴォルン登場し、いよいよニューイヤーの挨拶が開始しました。