1 気になる女の子
星空教室でUFOらしきものが目撃されて以来倉橋響のそばに謎の女の子が現れるようになりました。
星空教室のバイトに参加していた僕は倉橋響、城南高校の三年生だ。あの時のUFO騒動の事はすっかり忘れていた。しかし、最近になってたびたび僕のそばに現れて笑顔で微笑んでくる女の子がいるのは気になっていた。彼女が現れるようになったのは、今考えるとあのUFO騒動があった後、何か関係があるんだろうか? 僕は彼女と接触しようと何度か試みたが、近づくといつの間にか居なくなっている。しかも他の人には見えてないようなのだ。まったくどういう事なのか、彼女は宇宙人? それとも幽霊? まさかとは思うけど……
「ねえ君! この間、星空教室に来てたバイトの子だよね!」
僕はドキッとするような髪が長い綺麗なお姉さんに声を掛けられた。例のあの子ではないようだ。
「えっと、はい……」
確か、星空教室のあとに居酒屋に行った時もこのお姉さんが僕の隣に座っていたような……
「そんなに硬くならなくても良いよ! 私は冬野希美、大学生だよ。君は?」
「えっと、僕は……」
僕は、突然の事で顔を赤らめている……
「僕は倉橋響、高校生です」
「えっ、高校生なの?」
「はい……」
「そうか、それじゃ私はお姉さんだね!」
「あっ、はあ……」
この人はなんなんだろう……
「ねえ、倉橋って部活とかやってるの?」
えっ、倉橋……
「いえ……」
何だか、グイグイ話してくるな……
「あっ、希美!」
はあ…… また違う女性が来た。
「何このイケメン君は、ひょっとして希美の彼氏?」
えっ、ちょっと待て、何故そうなる…… こんな綺麗な人が僕の彼女なんてありえないだろう。
「もう智ちゃん違うよ! この間の星空教室で一緒にバイトしてた子で偶々会ったんだよ、ねえ!」
ねえ、と言われても…… まあそうだけど、何だか緊張する。
「へえ、そうなんだ、この間彼氏さんと別れたって落ち込んでたから、新しい彼氏さんを見つけたのかと思ったよ!」
「もう…… その話はやめて、それにそんな簡単には……」
そう言うと希美さんという女性は俯いてしまいました。うーん、まだ話は続くのかな……
「あの、僕はこれで……」
「あっ、ごめんね、私は希美の友達で水嶋智代、大学生、趣味は料理、彼氏募集中です」
えっと……
「智ちゃん、駄目だよ! 彼はまだ高校生なんだから」
「えっ、そうなの? でもそんな事を言って希美も彼の事狙っているんじゃないの! あっ、私は高校生でもイケメンなら大丈夫だよ」
この人はどういうつもりなんだろう……
「まったくなに言ってるのよ」
「あ、あの、この後バイトがあるので……」
「あっ、ごめんね倉橋! またね」
はあ…… なんとか解放された。何だか女性は苦手だ! でも、同級生のあいつお洒落なメガネが似合う神谷冬美さんはとても話しやすい、でも彼女という感じではないかな、いつも彼女の視線は感じるがただのクラスメイト、それ以上でも以下でもない。でもどうしてそう思ったんだろう。
「よお、響!」
「龍己……」
今度はこいつか……
「おまえ、相変わらず陰キャだな」
「そんな事はないと思う」
「まあ、良いけどさ! それよりゲーセン行かねえか」
「これからバイトなんだ」
「バイトって?」
「うん、鷹島先輩のところに」
「先輩のところで何すんだよ!」
「明奈ちゃんの家庭教師」
「へえ、凄いね! 俺達だって受験生なのに」
「受験って言っても北山大学だし、医学部とか農学部じゃないんだから余裕だろう! それに受験生のおまえだってゲーセンに行くんだろう余裕じゃないか」
間違ってはないよな……
「はっ、俺の場合はただの息抜きだ! まったく成績優秀な奴は良いよな、そう言えば神谷が一緒に勉強したいと言ってたぜ」
神谷さん……
「彼女は塾に行ってたんじゃ」
「まあそうなんだけど、近いうちに模試があるからじゃないのか! 良かったら俺も混ぜて欲しいけど」
「ああ、解った! 神谷さんに言っといてくれ」
「ああ、じゃあな!」
ふう…… 早く行かないと明奈ちゃんの機嫌が悪くなる。でも、ちょっと遅れそうなので彼女の好きなドーナツを買ってから行こう。
『ピンポン!』
ま、間に合ったかな……
「あら、いらっしゃい倉橋君、いつもごめんなさいね! 明奈が部屋で待ってるからお願いね」
「はい、あっ、これ……」
「あら何、ドーナツじゃない有難う」
いつものように明奈ちゃんの母親とちょっとだけ話をして彼女の部屋へ行くと、勉強もせずにスマホで音楽を聴いていた。
僕は彼女が耳に付けているイヤホンを外した。
「えっ、びっくりした! もう倉橋さん……」
イヤホンを外された事で彼女は頬を膨らませながらも顔を赤くしていた。
「明奈ちゃん、こんにちは! 先週出した課題は終わった?」
「えっと、明奈この間の課題全然解らなかったんですけど」
いや、あれは解き方を教えて同じような問題を出題したんだから解るはず……
「それは、前回僕が教えた事を覚えていないって事?」
「そんなんじゃないけど、倉橋さん怒ってる……」
「響、こいつに城南高校は無理だ!」
「誠司さん、そんなに決めつけなくても」
「もう、お兄ちゃんは入って来ないでよ」
「明奈ちゃん、もう一度一緒にやるから課題を解いてもらって良いかな」
「はーい」
返事は良いんだけど…… 僕は解き方をもう一度教えた後、課題を解くように指示をして誠司さんの部屋へ行った。誠司さんは僕の幼い頃からの先輩でいろんな事を教えてもらったり相談出来る兄貴的存在だ。
「誠司さん、この間の星空教室ですけど……」
「響、この間のバイトの彼女は可愛かっただろう!」
えっ、なんの話?
「あの娘は、おまえに気があるみたいだったからさ!」
「それより、あの時UFOはいましたよね!」
「あっ、そっちの話ね、俺は見ていないから解らないけど、まさか、おまえがUFOを信じるとはね」
「僕も信じてる訳では…… でも、あの日以来、見た事のない女の子につきまとわれているようで、それに僕の方を見て微笑んでいるんです」
「へーえ、その子は可愛いのか?」
えっ…… 確かに可愛いかな……
「いや、誠司さんその子は他の人には見えて無いみたいで……」
「それじゃ、おまえはその女の子の幽霊に取り憑かれているってことなのか!」
「いや、取り憑かれては…… それに、UFO騒ぎの後だから宇宙人とか……」
「宇宙人でも幽霊でも可愛い女の子なんだろう」
やっぱり話すんじゃなかった……
「それよりバイトの女の子と話をしていただろう」
「はい、向こうから一方的に話しかけられただけですけど……」
「おまえは興味ないのか?」
いや、僕だって女の子には興味はあるけど…… 苦手なんですよね。
「興味はあるけど、彼女は僕には合わないでしょう。それに大学生ですよ」
「そうか、でも確か大学一年だからひとつ年上なだけだ、それに向こうは興味があるみたいだぞ」
「そんな事は無いでしょう」
あんな綺麗なお姉さんは高嶺の花だ! 到底僕の手に届くことはない…… と思う。その時、明奈ちゃんが声を掛けて来た。
「倉橋さん、終わったから課題を見て!」
えっと、ちょっと早くないか…… 僕はそう思いながら彼女の部屋へ戻ってノートを見た。
「うん、出来てるかな……」
うっ、パーフェクトに出来てる! しかも、ほんの少しの間に……
「明奈ちゃん、本当はちゃんと理解してるだろう」
彼女は照れたように僕の顔を見て……
「だって明奈、倉橋さんがいると問題が普通に解けちゃうんだよね!」
うーん、彼女はたぶん成績は悪くないんだと思う。
「ここまで出来るんなら今度はテストをやってみようか」
「えっ、テスト! 明奈出来るかな……」
「明奈、おまえわざとやってるだろう! そんなに倉橋の気を引きたいのか」
誠司さんがそんな事を言うからあからさまに彼女の顔色が変わった……
「お兄ちゃんは関係ないでしょう! もう向こうに行っててよ」
「まあ、今度テストをしてみて苦手なとこを集中してやれば最強になれるかな」
「はい!」
その後、一時間くらい勉強を見てバイトは終わった。
「それじゃ明奈ちゃん、ちゃんと勉強してね!」
「うん、倉橋さんまたね!」
バイトも終わり明奈ちゃんの家を出た帰り道、背後に視線を感じる。また例の彼女が僕の事を見ている気配がする。僕が振り返えると、彼女は笑顔で微笑んで僕のことを見ていた。
「あの、この間からなんですか」
僕は彼女に話し掛けた。
「やっと、ひとりだった!」
えっ、何言ってるの?
「ひとりになるのをずっと待っていたんだ! あっ、初めまして私は来夢だよ」
「ら、来夢……?」
「うん、二十三世紀の未来から来たの!」
「何言っているんですか!」
「あっ、そうか! ごめんごめん、そうだよね、いきなり過ぎて判らないよね」
彼女はいったい何を言っているんだろう……
「未来って言うけど、どうやって来たんですか?」
「そりゃ、タイムマシンで! だって時空を超えないといけない訳だから」
時空を超える……
「君は何故、未来から来たんですか?」
「うーん、昔の事を調べてるの! つまり考古学なんだけど」
「未来の考古学者は、タイムマシンで過去へ行って調査をするってことですか?」
「うん、考古学の勉強をしてるだけ、学者じゃないよ」
なんだか胡散臭いな…… 考古学の学生が何故、僕に接触して来たのか。
「でも、タイムマシンって何処にあるんですか?」
「それはちゃんと隠してあるよ! ひょっとして見たい?」
確かに見てみたい! これは好奇心なのか…… でも、こんな事は二度と無いだろうし……
「見せてもらえるのなら」
「良いよ、こっちに来て!」
彼女はそう言って袋小路の奥へ入って行った。
「そんなところにあるんですか?」
「まさか、入口を作るから待ってて!」
「入口……?」
そう言うと、彼女はバッグの中から大きめのファスナーのつまみのような物を取り出し、壁に押し当てた。
「何をしてるんですか?」
「だから入口を作っているからちょっと待ってよ! ねえ君、彼女いないでしょう。急勝な男はモテないぞ!」
こ、こいつ、僕の何も知らないくせに……
「べ、別にそんなの必要ないです。受験生ですから」
僕は平静を装って彼女を見て言った。
「そう」
彼女はそう言いながら壁に付けたファスナーのつまみを上から下へと下げた。すると、固いはずの壁がフニャフニャになりなんとも洋服のファスナーを開けたようなそんな感じの穴が開いた。
「さあ、早くこっちへ」
「良いんですか、こんなところに穴を開けて……」
「良いから早く、閉じれば元に戻るから!」
穴へ入り、ファスナーを閉めると壁は元通りに戻っていた…… いや、壁じゃない! 反対側は大きな木の根元だった。
「これよ!」
彼女の声と共に振り返ると、そこには大きなUFOが森の木々に覆い隠されるように置かれていた。
謎の女の子は未来からやって来た来夢という女性でした。彼女は何のためにこの世界に現れたのでしょう……