16 失踪
お待たせしました第16話を更新しました。
ちょっとした事で過去に問題を残した響だったが、その後、またもや問題が……
あの時のエラー紙幣には驚いた。明奈ちゃんの家庭教師から戻ってすぐに来夢から話を聞いて背筋が凍った。まさか、あんな小さいところを見ている奴がいたとは……
しかし、ああやって何気なく行動した事で歴史を変えてしまうのか、肝に銘じなければ……
しかし、あの一件以来、来夢の姿は見ていないけど、タイムマシンにいるのか、それとも未来に戻っているのか、またとんでもない事を言って来なければ良いけど……
その時、僕の部屋の壁が開いた。なんだ、やっぱりタイムマシンに居たんだ。
そう思っていたけど、壁を開いて入って来たのは……
「響君、すまん、ちょっと訊きたい事があるんだが……」
来夢の叔父さんだった。
「どうしたんですか?」
「いや、来夢と連絡がつかなくて、君、何か知らないか?」
「えっと、未来に帰っているんじゃないんですか?」
「いや、それがタイムマシンはいつもの山中に隠してあるんだけど、姿が見当たらないんだ」
どういう事だ! 来夢がいなくなった?
「とにかくタイムマシンのところへ来てくれ」
僕と叔父さんは来夢のタイムマシンのそばに来たが、来夢のスマホがないと中へは入れないので、外から確認する。
しかし、中には居るような気配もない。そう言えば、大学の壁の中に一室作って何かやっていたな。
「ひょっとしたら大学にいるかも知れません」
「大学?」
僕が叔父さんにそう言ったら、ファスナーを使って早速北山大学理工学部の棟へ向かった。
「ここか!」
叔父さんは中央廊下から来た角の壁に不自然な扉があるのを見て言った。やっぱり見る人が見れば判るのかな……
この扉は、良くは判らないけど故障していて扉を開けずにファスナーを使った方が良いと来夢が言っていたが……
「うーん、これは壊れてるね」
「はい、来夢は故障してると言ってました」
叔父さんはファスナーを使って扉に入口を作った。
「響君、明かりを持ってるかい?」
「はい」
僕はスマホのライトを使ってファスナーで開けた入口の中へ入って行った。中は真っ暗でスマホのライトを照らしたとこだけが露に映し出された。
「来夢、いるのか! 返事をしてくれ」
叔父さんは呼び掛けるけど返事は返って来ない。ここにも居ないようだ。
「取り敢えず、僕の部屋へ戻りましょう」
僕と叔父さんはやるせなく大学を後にし、部屋に戻って来た時、そこには希美さんが居た。
「倉橋、どうかしたの?」
希美さんも何か思うところがあったのか神妙な面持ちで訊かれた。でも、来るなら連絡してくれれば良いのに、しかも、コーヒーを飲んでるし……
「来夢さんが居なくなったんです」
僕がそう言った時、叔父さんも希美さんも黙り込んでしまった。しかしその後、希美さんがファスナーを取り出した。
「タイムマシンのところへ行きましょう! 何か手掛かりがあるかも」
「しかし、来夢のスマホが無いとタイムマシンの中にも入れない」
僕がそう言った時、希美さんが急に大きな声を出した。
「そうだ! 叔父さんのスマホで来夢さんの居場所は判りませんか? 位置情報で探せますよね」
そうだ、叔父さんのスマホで来夢のスマホの位置情報が判れば、居場所が判るはず……
叔父さんはスマホで来夢の位置情報を調べているけど、しかしながら、その場所を示したのはタイムマシンの側の山の中だった。これは、何かが可笑しい……
僕達はもう一度タイムマシンの場所へ行った。
「この辺に来夢さんのスマホがあるはず」
僕は草むらを掻き分けて探したが見つからなかった。
「こ、これは……」
叔父さんは何かを見て呆然としてるように見えたが……
「どうかしたんですか?」
叔父さんは白っぽいスマホを拾って持っていた。これは確か、来夢が持っていたスマホ…… 来夢はスマホを残したまま何処へ行ったのか……
「でも、これで来夢さんのタイムマシンの中へ入れますよね」
希美さんはそう言うけど……
「入れるけど、どうするんだ?」
叔父さんは来夢が居なくなった事で、何も考えられずになっている様子だ。
「このタイムマシンに監視カメラとかは付いてないんですか?」
「まあ、防犯用のがあるはずだが」
「まずは、中に入ってそれを確認しましょう」
希美さんにそう言われ僕はスマホを操作しょうと思ったけど、これ、どうやれば良いのか判らない…… 人のスマホはよく判らないんだよね…… 僕がスマホを見ながら眉間に皺を寄せていると……
「響君、どうかしたのか」
叔父さんにそう訊かれた……
「いや、操作方法が判らなくて……」
すると叔父さんは、何やら数字を入力している。
「あの……」
「なに、どうかしたのか?」
「今、何をしたんですか?」
「パスワードの入力だ! そうしないと使えないから」
「知ってるんですか?」
「ああ」
話によると、このスマホは叔父さんが買ってあげた物らしく、パスワードは叔父さんの生年月日になっているらしい。
「でも、来夢さんはスマホを使う時そう言うのは入力していなかったと思いますけど……」
「本人が使う場合はスマホを見れば良いんだ! 角膜認証出来るからね!」
指紋認証は聞いた事があるけど、未来のスマホは最先端だな…… そう思っている時、オレンジ色の光に包まれた。これで、タイムマシンの中へ入れる。
「やっぱり、この入り方は慣れないね倉橋」
希美さんはオレンジ色の光に包まれて宙に浮いた時、身体がふわふわして酔ったように気持ち悪くなるらしい。
そんな話をしている間、叔父さんは監視カメラの映像を出していた。
「よし、これで良いはずだが……」
その時、スマホの電源が切れた。充電が切れたようだ!
「あの、これって……」
「ああ、大丈夫。十分もすれば充電出来るから」
えっ、十分? でもスマホはテーブルの上に置かれてままだけど……
「あの、充電しなくて良いんですか?」
希美さんも気になったようだけど……
「今、充電してるんだよ!」
叔父さんの意味が良く判らなかったけど、未来の世界では、所定の場所に置くだけで充電出来るらしい、しかもたったの十分で…… 便利だ!
十分後、充電は完了して監視カメラの映像が出たけど……
この画像は来夢と僕が、叔父さんに怒られているところ…… 要するに土曜日の夕方のものだ。今日は火曜日……
「これ、全部見るんですよね……」
「まあ、何か手掛かりになる物が写っているはずだからね」
「……」
いや、これは辛い! 早回しして確認するけど…… 希美さんは、ソファーのところで何やら見てるけど…… 出来れば手伝って欲しい!
「倉橋、これ!」
希美さんは何かを持って来たけど、今の僕にはそれを確認する余裕がない。そんな僕に、希美さんは頬を膨らませ、僕の服の裾を引っ張っている。まったく子供か!
「これ、日記のようなのがあるけど」
日記? 僕は映像確認を叔父さんに任せて日記らしい物を見た。
『六月二十四日土曜日、響君と二人っきりで二十世紀にタイムトラベルした。風神雷神図の屏風を……』
これは…… この文章は何か誤解を招くのでやめて欲しい。
『六月二十五日日曜日、大学の研究室でCO2分解の研究をするが失敗!……』
うーん、一応真面目な事もやっているんだな…… しかし、日記は日曜日で途切れている。月曜日の日記が無いって事は、これって……
「叔父さん、月曜日の映像を出してください」
叔父さんは、僕の言う通り月曜日の映像を出した。しばらく倍速で画像を見ていた時、来夢の姿が見えた。
「倉橋、この人」
来夢の背後にオレンジ色のパーカーを着た女が…… これは、この間博物館のバックヤードにいた女だ。来夢はその女に背後から抱きつかれたあと、前のめりに倒れたようだ。
その後、倒れた来夢を黒っぽい服を着た男が抱き抱えて、大きな木の中へ消えた……
どうやらファスナーで場所を変えたようだ。
「叔父さん!」
「うん、ファスナーでは時空を越えられない! 急ごう」
僕達は、来夢が消えた場所へ行くと大きな木の根元には、ファスナーのつまみが残っていた。あいつらファスナーのつまみを忘れて行くとは、相当急いでいたのだろう。
「響君達は下がって!」
叔父さんは、そっとつまみを下げたその先は…… 何処かの広く整備された山中だった。
「うーん、ここからタイムマシンで移動したようだな」
叔父さんはスマホで何処かへ電話している。でも、来夢の足取りはここで消えてしまった……
「ああ、判った頼む」
叔父さんはそう言ってスマホのスイッチを切った。
「これからどうしましょうか……」
僕は、為す術もなく途方に暮れていた。しかし、叔父さんは諦めてはいなかった。
「今、警備局の方でタイムスリップした機体を調査しているから待ってくれ」
「そんな事が判るんですか?」
「ああ、うちは時空管理警備局だからどの機体が、何処から何処へ移動したかは調べれば判る」
その話を訊いた時、まだ、来夢の事を追いかけられると嬉しく思った。しかも、機体が判るという事は組織のタイムマシンも判るという事?
「組織のタイムマシンの特定も出来るという事ですか」
「ああ、判ればその機体を追う事が出来る」
これは凄い! 奴等の足取りが判った事で組織のタイムマシンを確定出来る。また、来夢を探す事が出来る。
来夢、失踪…… ではなく、奴等に拐われた。しかし、タイムスリップした場所から何処の時代へ行ったのか、機体の判別も出来るらしく、来夢を追う事が出来る。早く、助け出さないと。