勇者の加護
「おい!西の勇者ぁああ!お前あんま調子乗ってんじゃねえぞ!ちょっと角が生えたからって勝てるとでも思ってるのかぁ!?」
何度も剣を振るい、衝撃波を放つ東の勇者。
「くそっ!避けてんじゃねええ!!!」
怒号とともに剣を振り続ける。俺が軽々と躱してるのが気に食わないんだろうな。
「あのメイドはいねえし、この飛ぶ斬撃はこの剣の能力だ!魔力切れなんて期待するな!きひひ!」
通りで何発も何発も撃ってくるわけだ。
「この斬撃が当たりさえすればお前なんて!!」
「そうだな、このまま避けてても埒があかないもんな」
一気に東の勇者の元へ詰め寄る。
「きひ!死ねぇえええ!!」
剣を振るい衝撃波を撃ってくる。両腕を体の前でクロスさせ無理やり突っ切る。
「なっ!!」
やはりというべきか半角である程度、力が戻った俺の防御力は奴の衝撃波を耐え抜いた。少しばかり両腕が切れてしまっているが、ここまで近づいたら関係ない。随分と驚いた顔してるな。
「ごはっ!」
加減なしの本気の一撃。先ほどの姫がやられそうになった件の怒りも拳に乗せ、腹に向け振りぬく。
「大事な剣なのによかったのか?こんなに簡単に手離して」
「くそがっ!!ごふっ」
かなりの距離吹き飛び、拳を食らった衝撃で剣を手放す東の勇者。すかさず剣を拾う。
ガンジとやらは一撃であの世往きだったが流石は勇者か?血を吐き出してはいるがまだやれそうだ。
「くそっ、くそっ、くそおおおおおおおおおおお!!!」
がむしゃらに突っ込んでくる勇者。連打をさばき隙のできた顔面に拳を叩き込む。
「ごぁっ!!」
鼻っ柱にいれたからか、鼻を抑えながらこちらを凄い目で睨んでくる。
「お前、何をした?なんでそんなに強くなった?」
「ちゃんと話せるじゃないか」
「黙れ!何故いきなり強くなったんだ!」
あまりに強烈な攻撃を二発食らっているからな、話をして回復したいんだろうな。まあいい。
「いきなり強くなったわけじゃない。元から俺は強い」
「いや!確かに先ほどより段違いに強くなっているだろうが!それとも演技で腹まで貫かれたのか!?」
面倒くさいがしっかり説明してやるか。戦意が無くなった方が楽だしな。
「弱体化しててな、お前らに殺されかけたら、この角が半分戻って力も少し戻ったのさ」
「つ、つまりお前はまだ実力の半分だって言いたいのか!?」
「半分じゃあない。今で2割程度だ」
「嘘だ…」
「嘘じゃない」
戦意喪失したか?
「勇、者様!」
その時勇者の連れの女が転移で現れた。
「キアラ!よかったこいつを一緒…に。お前その傷!」
「ごめんな、さい。あのメイド化け物だったの。早く逃げなきゃ!」
満身創痍といった状態だな。ところどころから血を流し、あげく腕は折れている。
「転移が使えるんだっけか、その女。悪いなっ!」
女の気絶を狙うべく飛び掛かる。
「くそがあああ!」
勇者が阻む。
「キアラァア!転移の準備してろ!俺が食い止める!!!」
「それをさせないってのは分るよ、なっ!」
蹴りを入れ勇者を吹き飛ばす。逃がしたら面倒そうだしな。
「ぐっ!こんな、ところで…俺には野望が…ある!!」
勇者が魔力を込め始めた。魔法は使えないと思ったら使えるのか。
「がああああああああああああ!!!!!俺はこんなところで終わらねええええええええ!!!」
起き上がった勇者が光に包まれ、長い長髪が逆立っている。なんだ?随分と神々しいな。まったく似合わない。
「リドウ、気を付けて!あれは勇者の加護、あの状態では能力レベルは倍になると聞いてます!」
物陰に隠れていた姫が間髪入れず説明を入れてくれる。なるほど、問題ないとは思うが気を抜かず対処しよう。
「魔王様!」
「シャゼルか」
「はっ、すみません女を逃がしてしまい…」
「いや、あの手練れの女をよく追い詰めた」
「はっ」
よし、これであいつらの勝ち目はより薄くなったな。
「俺は勇者なんだあああああああああ!!!」
がむしゃらにこちらに飛び掛かって攻撃してくる勇者。
「くっ!攻撃が、重い!?」
そのまま吹き飛ばされてしまう。
「私もいるぞ!」
シャゼルが隙をつき勇者の背後から攻撃を入れる。
「うらぁああああああ!!」
「くっ!そん、なっ!」
不利な体勢からシャゼルの攻撃を返し、シャゼルも吹き飛ばす勇者。すぐにキアラの元へ走り出す。
「おいおい、勇者の加護強すぎるな…」
「魔王様、転移で逃げようとしてます!ここは私がっ」
逃がすわけには…いや、待てよ。うん、やっぱりだ。
「シャゼル!いい、逃がそう」
「…?はい」
キアラの元へたどりついた勇者たちが大声でこちらに話しかけてくる。
「次は絶対にお前ら殺してやるからな!!!」
「メイドも!次は負けないし!!」
シュンッ!勇者たちが消える。
「リドウ!よかった、無事で…」
すぐに姫が駆け寄ってくる。
「しかし魔王様、なぜ逃がしたのですか?」
「ああ、気づかないか?」
「…?」
「あー!また角がなくなってます!」
シャゼルとの問答の中、姫がそれに気づき驚いた表情で声をあげる。
「そういえば体が重く感じると思ったら…私の力、元に戻っていますね…」
「あぁ、俺も倒れる前に戻っている」
角がいきなり消えた理由は謎だが、あのままやっていたら場合によってやられていたのはこちらだったかもしれない。
「奴らは取り逃がしたが目的の剣は取り返したし、エルフたちも無事だ」
「そうですね!鍛冶職人のおじいさんも喜びますね!」
「とりあえ伸びたエルフたちを保護しますか?」
「だな…」
剣を打ってもらうのにとんだ遠回りだがなんとか達成だ。
しかし、あの勇者と女。なんとかやり過ごせたが危なかった。次はもっと鍛えてくることが予想できる。
早急に角の戻し方を探らねばならない。
兎にも角にもこれで装備を見繕ってもらえるな。その次は火山の魔物だ!
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