表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TAKAMURA  作者: 大隅スミヲ
朱雀門のあやかし
8/78

朱雀門のあやかし

 太刀であれば鬼をも斬ることができた。

 現世のものでなくとも、太刀は通じるはずだ。


 女が迫ってくる。

 篁は女を斬りつけるために太刀を上段に振るった。

 しかし、振り下ろした太刀に感触はなかった。


「ぬう」


 女の口から声が漏れる。

 しかし、どこにも刀傷のようなものは残されてはいなかった。


「小野篁、恨めしや」


 女はそういい、口から長い舌をにょろりと出して見せた。

 その舌の動きはどこか淫靡であり、何か人を魅了させるようなものに見えた。


「小野篁、恨めしや」


 再び女がいう。

 篁はじっとりと背中に汗をかいていた。

 矢も射ることがねば、太刀で斬ることもできぬ。

 これは困ったぞ。

 その時、ふと懐に入れてあった鬼の角のことを思い出した。

 現世のものが通用しないのであれば、現世ではないものを使ったらどうだろうか。

 閻魔は言っていた。この角があれば、獄卒との主従関係は成り立っていると。

 その言葉を信じよう。

 篁は懐に手を入れると、羅城門の鬼の角をそっと握った。


「我、召喚しせり」


 心の中でそう呟く。


 すると、雷のような音が鳴り響き、篁の影の中から巨躯が姿を現した。

 紛れもない。それは羅城門の鬼だった。


「呼んだか、篁」

「ああ、呼んだ。お前とは主従関係にあるからな。この際、口の利き方は黙認しよう」


 目の前に突然現れた鬼の姿に、女は驚きを隠せないといった表情を浮かべた。


「あれは、なんだ」

「それは私の方が知りたいぐらいだ。ただ、矢も太刀も通用しない」

「そりゃそうだろう。あれはそういう類のもんじゃねえ」

「では、どうすればよい」

「わしに任しておけ」


 鬼はそう篁に言うと雄叫びをあげた。

 その雄叫びは空気を震わせる。

 女の周りを取り囲んでいた鬼火が大きく揺れた。


「あなや」


 女の声がしたと同時に、その姿は消え去っていた。

 一体、何が起きたというのだろうか。


「まあ、こんなもんだ」


 鬼は篁の方を見ると、満足そうにいった。


「もう終わったのか」

「ああ。楽勝だ」

「すごいな、お主」

「そうだろ。すごいだろ」


 鬼は嬉しそうにいう。

 こやつ、こんな感じだったか。篁は疑問を感じていた。羅城門で戦った時のような、おどろおどろしさのようなものは、微塵も感じさせない。それに、あの独特の臭いが無くなっていた。


「名は、なんと申す」

「あ? そうだな。お前が付けろ、篁。わしは冥府や地獄では獄卒としか呼ばれておらん」

「そうか。では、羅城門にいたから、ラジョウとでも呼ぶかな」

「ほう、ラジョウか。わしはラジョウか」


 鬼はその名が気に入ったかのように連呼していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ