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TAKAMURA  作者: 大隅スミヲ
大嶽丸
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大嶽丸

 顕明連けんみょうれんを左手に構えた大嶽丸は、篁に向かって突進してきた。

 先ほどとは動きも違えば、速さも違っていた。

 その動きは、まるで別人のようである。

 ギリギリのところで後方に飛び去って篁は大嶽丸の突進を避け、さらに斬りかかってきた顕明連を鬼切無銘で受け流した。

 力の強さも格段に違っている。先ほどまでの大嶽丸は何だったのだろうかと思えるほどであった。


「篁、はお前を生かしては返さん」


 大嶽丸の声と立烏帽子たてえぼしの声が二重になって聞こえる。

 鬼切無銘を構えた篁は、次の大嶽丸の攻撃に備えた。


 突き出された顕明連の剣先が、篁の首を狙って飛んでくる。

 篁はその剣先を鬼切無銘で弾き、攻撃に移ろうとするが、その間を与えずにさらに大嶽丸は剣を振るってきた。


 防戦一方。篁の状態は、まさにその言葉が当てはまる。

 何とか冷静に大嶽丸の攻撃をしのいでいるが、だんだんと大嶽丸の手数が増えてきているように感じられた。このままでは、大嶽丸の顕明連がいずれは身体に届いてしまう。

 篁はじりじりと押されながらも、どこかで形勢逆転が出来ないか隙をうかがっていた。


 頬に痛みを感じた。顕明連の剣先が触れていた。

 篁の頬から鮮血が飛び散る。

 そこに気を取られた。


 一瞬の隙が命取りになる。それは篁が陸奥国むつのくににいた時に、何度も感じたことだった。蝦夷えみしとの戦いでは、矢傷や刀傷を何度も負った。命を取られると感じたことも何度もあった。しかし、その戦乱の中を生き残ることが出来た。それはただ運が良かっただけだろうか。いや、違う。生き残るための知恵が、戦うためのすべがあったからだ。


 大嶽丸の持つ顕明連の剣先が、篁の喉を突こうと伸びてきていた。

 篁は目を見開き、その動きをしっかりと追っていた。

 剣先が首の皮膚に届き、皮膚が破れて血が玉のように表皮へと姿を現す。絶体絶命。

 しかし、顕明連はそれ以上は伸びない。

 すべて篁は計算していた。どの位置に身体を持って来れば、顕明連の剣先が自分の身体には届かないかということを。

 腕は大嶽丸の方が篁よりもかなり長かった。だが、可動域は狭い。篁は大嶽丸と剣を交えながら、そのことを実感していた。


 篁が腕を振るい、鬼切無銘が唸るような音を立てた。

 刃が空を斬る。

 大嶽丸は篁が苦し紛れに太刀を振ったのだと思い、唇を歪めるようにして、にやりと笑って見せた。

 だが、篁も口角を上げて笑みを浮かべる。

 その笑みに大嶽丸の顔は凍りついた。


 届かない距離のはずだった。

 しかし、篁の振った鬼切無銘の刃は大嶽丸の左の肘から先を綺麗に斬り落としていた。

 篁の太刀のつかを掴んだ手の形は見たことのない、独特な掴み方だった。この持ち方であれば、切先きっさきは大嶽丸の腕に届く。ただ、どのように力を入れれば、柄を握れるのかはわからなかった。


 丸太のように太い大嶽丸の腕が地面に転がり落ちた。


 大嶽丸が悲鳴をあげるために息を大きく吸い込む。

 しかし、口から大嶽丸の声が出るより先に、篁の鬼切無銘の刃が下から跳ね上げられた。


 夕日で真っ赤に染まった空だった。

 大嶽丸の首が飛んだ。

 それはまるで公卿たちが好む蹴鞠の鞠のようだった。


「ひぃ」


 そう声をあげたのは、篁の背後にいた鈴鹿である。

 篁が振り返ると、鈴鹿の首も転げ落ちていた。


 何ということだ。

 崩れゆく鈴鹿の身体を篁は慌てて支えた。


「言ったであろう。大嶽丸と鈴鹿は一心同体。大嶽丸を斬れば、鈴鹿を斬ったことにもなる、と」


 地面に転がった鈴鹿の首がそう喋っている。その声は立烏帽子のものであったが、立烏帽子の姿はどこにもなかった。


 まだ喋ることが出来るということは、死んではいないということなのだろうか。

 篁は鈴鹿の身体をそっと地面に寝かせると、倒れている大嶽丸の方へと目を向けた。


 大嶽丸の首は山道を転がり落ちていったのか、どこにあるのかはわからなかった。

 ただ、そこに大嶽丸の巨体が立っている。

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