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TAKAMURA  作者: 大隅スミヲ
朱雀門のあやかし
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朱雀門のあやかし

 大内裏だいだいりで立て続けに三人が死んだ。

 そんな話を小野篁のもとへ持ってきたのは、藤原ふじわらのたいらであった。

 平は篁とは同じく弾正少忠であり、年も近いことからよく共に盃を交わしたりする仲だった。


「偶然ではないか、それは」

「いや、そうでもないらしいぞ」

「なんだ、その言い方は。まるで物の怪でも出たかのような」


 篁は笑いながら盃を唇へと持っていく。

 肴は梨と柿を干したものである。


「その通りだ、篁」

「なにがだ」

「物の怪だよ」

「馬鹿を言うな」


 篁はそう言ったが、平があまりにも真剣な顔つきでいうため、盃を持った手を止めた。


「なにが出たというのだ」

「鬼火を見たそうな」

「そんなものを見たからと言って、人は死ぬわけがなかろう」

「なんじゃ、鬼火を見たことがあるといった口ぶりだな、篁」

「いや、そうではないが……」


 篁は口ごもり、それをごまかすように酒の入った盃を唇に当てた。

 冥府で閻魔と酒を飲み交わした。

 その話を篁は誰にも言ってはいなかった。

 もし、誰かに言ったとしても誰も信じることは無いだろう。

 妙な噂をたてられても困るのは自分である。そのことを篁はよくわかっていた。


「これは内舎人うどねり藤原ふじわらの岳守おかもり殿から聞いた話だ」


 内舎人とは、天皇の身辺警護などを務める役職であり、普段より大内裏や内裏を出入りしている藤原岳守からの話となれば信ぴょう性は高かった。


「岳守はその鬼火を見たというのか」

「いや、それは違う。もし岳守殿が見ていれば、岳守も死んでいるであろうよ」

「ふむ」


 あまり納得ができないといった感じで篁は返事をする。

 そもそも鬼火を見たぐらいで人は死なない。それは篁自身が経験していることだからわかっていた。


 大内裏で鬼火が出たとするのであれば、あやかしか物の怪のたぐいが大内裏に忍び込んで悪さをしているということになるだろう。

 もしそれが事実だとしても、篁にはどうすることもできなかった。


 篁は大内裏に出入りできるような身分ではないのだ。弾正少忠という役職は、朝廷の下級役人である。同じ下級役人であっても内舎人のような天皇の身辺警護を務めるような役職でなければ、大内裏に入ることは許されないのである。


「のう平よ、大内裏で起きたことは大内裏で始末する。我々、弾正少忠が知ったところで何もできないであろう」

「まあ、そうじゃな」

「大内裏で起きたことであればな……」


 篁は何の気なしに呟くようにいった。

 まさか、この呟きがその後で自分の身に降りかかる事となるとは思いもせずに。

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