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TAKAMURA  作者: 大隅スミヲ
地獄の沙汰
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地獄の沙汰

 翌日、篁の姿は陰陽寮にあった。陰陽寮は大内裏の待賢門たいけんもんより西に向かったところ、中務省なかつかさしょうの隣に存在していた。

 篁が陰陽寮の中へと入っていくと、来ることを予知していたかのように刀岐浄浜が篁のことを出迎えた。


「これはこれは、小野篁様。ようこそ、陰陽寮へ」

「久しいな、浄浜殿」

「本日はどのようなご用件で」

「ちょっとしたことを聞きに参った」

「ここでは何ですから、奥の間へ」


 そういって、篁は浄浜に陰陽寮の奥にある部屋へと通された。

 陰陽寮で働く者たちは、陰陽師、陰陽博士、天文博士、暦博士などといった役の人間がおり、朝廷での位は高くないものの、重要視されている職であるということは確かだった。


「狗の話ですかな」


 まるで篁の心を読んだかのように浄浜が言った。

 陰陽師は読心術も使うのだろうか。一瞬、篁はそう思ったが、巡察弾正の話では浄浜が一度は狗神騒ぎに関係していたということであったため、弾正台の人間である篁が訪ねてくるとすれば狗神の話であろうということは安易に予測できることであった。


「いかにも、狗のことだ」

「弾正台も大変ですな」


 浄浜は、ほほほと笑いながら言う。


「失礼。笑いごとではございませんね」

「浄浜殿は狗神の姿を見たことは」

「ありませんね。声すらも聞いたこともありませんよ」

「では、牛飼童の件は」

「あれは悪い気の流れに当たってしまった童を助けてあげただけですよ。そこに狗神とやらが関与しているかどうかなどは、私にはわかりません」

「そうでしたか」


 篁はそっと息を吐いた。

 今回の件に浄浜は首を突っ込んできているというわけではないようだ。

 浄浜が関係しているのであれば、この仕事は面倒なことになると思っていただけに、篁は少し安心をした。


「ですが、狗神というのは本当にいるのでしょうか、篁殿」

「私は存じませぬ。だから、このように調べてまわっているのです」

「そうでしたか。失礼しました」


 浄浜は何を知っているのだろうか。それとも何も知らないのだろうか。

 篁は疑念に囚われそうになっていた。


「陰陽道において、狗神というものは存在するのでしょうか」

「いえ。陰陽道にそのような邪悪なものの存在はありませんね。どちらかといえば、狗神は土着信仰のあるものではないでしょうか」

「そうですか。とりあえず、狗神の噂話については、もう少し弾正台で調べたいと思っております」

「わかりました。もし陰陽寮がご協力できることがあれば、いつでもお声がけください」


 篁は陰陽寮を出た後、妙な感覚を覚えていた。

 もっと食いついてくるかと思ったのだが、意外とあっさりと浄浜は引いて見せた。

 考えすぎかもしれないが、これは何か裏があるのではないかとも思える。

 狗神と陰陽師。この関係はなんだ。

 閻魔は狗神は地獄から逃げ出した狗頭の羅刹だと説明していた。

 それを誰かが狗神と呼び、信仰しはじめたのだろうか。

 羅刹という鬼を神格化して、神と崇める。こんな危険な行為があってもいいのだろうか。

 色々と考えながら歩いているうちに、大内裏を待賢門から抜けて、東大宮大路へと辿りついていた。

 たしか、この先に牛飼童が失神した場所があるはずだ。

 篁はその現場も見ておこうと考えて、足をのばした。

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