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TAKAMURA  作者: 大隅スミヲ
百鬼夜行
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百鬼夜行

 笛の音色がどこからか聞こえてきていた。おそらく龍笛りゅうてきの音色だろう。

 どこかの屋敷で吹いている者がいるようだ。


 京内の巡邏は、夜間だけ行われているというわけではなかった。

 弾正台の役人たちは日頃から、平安京内を巡邏して京の都の治安を維持することに務めている。ただ、弾正台の役人は罪人を見つけても逮捕する権利は持っていなかった。逮捕を行う役人は別にいるのだ。それは、検非違使けびいしと呼ばれる役人たちであり、最近は弾正台よりも検非違使の方が重要視されるようになってきているとの噂もあった。

 しかし、弾正台と検非違使は仲が悪いというわけではなかった。お互いに助け合い、それぞれの役割を果たしているといえるだろう。弾正台は罪人を見つけ次第、検非違使に報告をし、報告を受けた検非違使が罪人を逮捕するのだった。

 

「弾正少忠殿、ちょっとお話が」


 篁がふたりの巡察弾正を連れて京内の見回りをしていたところ、検非違使の格好をした男が小走りに近づいてきて言った。


「何かあったのかな」

「ええ。この先の竹藪で男女の死体が」

「なんと」

「我々、検非違使だけでは心もとないので、弾正少忠殿にも立ち会ってもらえると助かります」

「わかった。参ろう」


 篁たちは検非違使の後をついて、その死体が見つかったという竹藪の中へと入っていった。

 そこは竹が鬱蒼と生えており、日の光もあまり届ぬような場所であった。


「酷いなこれは……」


 死体を見た篁は思わず顔をしかめながら言った。

 男は刃物でめった刺しにされており、女の方は腹を切り裂かれたような状態であった。


「物盗りの仕業かな」

「どうでしょう。この辺では最近、妙な噂もありますので……」

「妙な噂?」

「ええ。百鬼夜行が出るらしいんですよ」


 その言葉に篁は眉をひそめた。また、百鬼夜行か。


「近くに住む人間の話では、数日前にこの竹藪の中を百鬼夜行が歩いているのを見たという人間がいるとか」

「そうなのか」


 しかし、百鬼夜行を見た者は、現世で生きていられないはずだ。

 どうにも話が妙だな。

 篁はその検非違使の話を聞きながら、別の可能性について考えていた。


「それで、この殺されている者に誰か心当たりは」

「まだそこまでは調べきれてはいません」

「わかった。では、そちらは弾正台でやっておこう」

「そう言っていただけると、助かります」


 検非違使の男はそう言うと竹藪から出ていった。


 どうも何かおかしいな。

 何かが篁の中で引っかかっていた。


 篁は巡察弾正の一人を呼ぶと、弾正台へ走らせた。この場は弾正台で仕切る。そのためにはもう少し人数が必要だった。

 検非違使の連中は事件の解決などには、あまり興味はないだろう。やつらはどちらかといえば暴れたい連中なのだ。特に検非違使の中でも放免と呼ばれる役についている連中は、元罪人であり暴れることを得意としている。

 先ほどの検非違使の役が何なのかは聞かなかったが、あの男もどちらかといえば荒事の対処をする方が好きなのだろう。

 そう勝手に篁は考えていた。


 しばらくして、応援の巡察弾正三名を連れた藤原平がやってきた。

 篁は竹藪の中に死体があることを説明し、巡察弾正たちに身なりや顔立ちから似ている人物がこの近くにいないか聞いて回るように指示をした。


「聞いたぞ、百鬼夜行の仕業だそうだな」

「馬鹿なことを言うな、平。お前がそんな話をしてしまったら、他の者が信じてしまうだろう」

「違うというのか、篁」

「ああ、違う」

「そんなこと断言できるのか」


 どこか冷めた篁の発言に、平は食って掛かってくる。


「もちろんだ。これは殺しだよ」

「鬼やあやかしたちに殺されたのかもしれん」

「いや、それはない」

「どうして、そんなことが言い切れるのだ」


 わかるんだよ、私には。

 そう言いたかったが、篁は何も言わず口を噤んでいた。


「近くに住む者が百鬼夜行を見たと言っているのだろ」

「それは聞いた。だが、その百鬼夜行を見たというものを探しても出てこないのだ」

「百鬼夜行を見たのだから、死んでしまったのだろう」

「そうかもしれないな……」


 篁がそう言うと、平は勝ち誇ったような顔をしてみせた。


「……だが、死んだ者がどうやって百鬼夜行を見たと皆に話すんだ」

「あ……」


 矛盾を突かれてしまった平は何も言えなかった。


「さっさと犯人を見つけて、仕事を終わらそう」

「そうだな……」


 そう言うと平は竹藪の中から出て行ってしまった。

 少々やりすぎたかもしれないな。

 篁はそう思ったが、このくらいのことをしなければ平は、百鬼夜行、百鬼夜行と言い続けるだろう。このくらいが、ちょうどいいのだと思い直した。

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