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まだ、わたしが一番?

お読みいただきありがとうございます!

次の日もまた次の日も、ユラルは枢機卿夫人アマンディーヌの付き人として大陸国教会バレスデン総本部に通っていた。


枢機卿夫人友の会からも数名、監視に参加してくれている。

中には自身の夫も聖騎士だというメンバーも居たが、皆ライルが本当に聖女の神聖力に打ち勝てるのかどうか、その興味が勝つらしく共に監視を行っていた。


一日中交代で誰かが必ず目を光らせている。


時にはユラル自身も監視をし、そうでない時はアマンディーヌの仕事の手伝いをする。


そして夕刻になり、定時上がりのライルが迎えに来て一緒に帰る……そんな日々がもう一週間続いていた。


ーー……アレ?


今日も一緒に帰路に就くライルの顔を、ユラルはまじまじと見つめた。


「ん、何?なんだ?」


ライルの様子は今までと全く変わらない。



ーーひょっとして無理してるとか?



ユラルは鎌を掛けてみる事にした。


同じく聖騎士の妻で夫を害された会員(メンバー)に聞いたのだが、聖女に夢中になり始めると聖女トークが止まらなくなるらしいのだ。

いかに聖女が素晴らしいか、愛らしいか、優れているかをこれでもかというくらいに語って聞かせたがるのだそうだ。


「ユラルちゃん、聖女の侵食度を測るなら、彼の前で聖女の事を誉めてみるといいわよ?害されれば害されるほど、聖女トークが止まらないからね」


と、辟易(ウンザリ)とした様子でそのメンバーは教えてくれた。


ーーライルも聖女を褒め称えるのかしら?


「ねぇライル。聖女サマって本当にお美しい方よね」


「うーん……そうかぁ?確かにべっぴんなんだろうけど、俺の好みじゃねぇからなぁ」


「……ライルなんてどうせ胸が大きければいいんでしょ……」


「違うぞ!好きになったユラがたまたま胸が大きかっただけだぞ!俺はユラがまな板の頃からお前の事好きだったんだからなっ」


「大声で恥ずかしい事言わないでっ」


「でもきっと、ユラならちっぱいも好きになるんだろうな」


「…………」


ユラルはアルカイックスマイルでライルの腕を抓り上げた。


(イッテ)ェッ!?」


ーー公道でなんて事いうんだ。

でも……まだわたしの事が一番好きでいてくれているみたい。



ユラルはほっとしていた。



◇◇◇◇◇



その次の日。


ユラルはロアンヌと一緒に買い物に出ていた。


友の会の会合のお茶菓子の一つを買い求める為だ。


道すがら歩きながら、ユラルは前々から気になっていた事をロアンヌに訊いてみる事にした。


「あの、以前から気になっていたのですが、アマンディーヌ様は何故、語尾に“ザマス”をお付けになるのですか?」


「ふふ。やっぱり気になるわよね」


「ええ…不思議とアマンディーヌ様に似合ってらっしゃるから余計に気になって……」


ロアンヌは道行きの方向を真っ直ぐ見ながら答えてくれた。


「アマンディーヌ様ご自身から聞いたの、“ザマス”は旦那様であるオクレール枢機卿に対する当てつけだと」


「当てつけ?」


「枢機卿も、聖女ルナリア様と接する内にどんどん変わっていかれたそうなの。元はとても夫婦仲の良いお二人だったそうなんだけど……やはり枢機卿といえど、神聖力が上回る聖女の影響を受けてしまわれたのね。日に日に変わってゆく夫に対して、アマンディーヌ様はご自分の存在を忘れさせない為に注意を引こうと様々な事をされたそうよ」


「特徴ある語尾もその一つだと……」


ユラルがそう言うとロアンヌは眉尻を下げなら言った。


「そう。最初に“ザマス”を付けた時に枢機卿は『お前なんだそれは』と言って大笑いされたそうなの。それ以来、アマンディーヌ様は夫婦の会話には必ず“ザマス”口調で話したそうなの。それがいつしか……」


「癖になったと」


「ふふ、そうらしいわ」


「今でも……オクレール枢機卿は夫人のザマス口調に笑ってらっしゃるのでしょうか……?」


「……今ではもう、ほとんど会話をなさっておられないそうよ。枢機卿が聖女の側を離れてはならないと、本部で寝泊まりをされているからお屋敷にも戻られないそうなの。本部で顔を合わせても、事務的な会話のみ」


「そんな……酷い……」


「私の夫もね、ライルさんと同じく聖女付きの聖騎士だったのよ」


「え、そうなんですか?でも今はもういらっしゃいませんよね?お辞めになったのですか……?」


ロアンヌはずっと前を向いて歩いている。

だけどどこか遠くを見るような目をしていた。


「馬車の事故に巻き込まれてね。大怪我をして呆気なく……最期に言い残した言葉が『愛してる……』だったんですって。事故の前には聖女に傾倒していたから、きっと彼女に対しての愛の告白だったのでしょうね……」


「そんな……」


違うと信じたい。


最期の瞬間には正気に戻って、妻であるロアンヌさんの事を想ってその言葉を遺したのだと、ユラルはそう信じたかった。



聖女の神聖力は恐ろしい。


でももっと恐ろしいのは誰もそれに異を唱えない事だ。


神聖なる聖女の力なのだから仕方ない、聖女を守る騎士なのだから聖女が一番になるのは当然の事と、皆がそれを受け入れている事だ。



ユラルはここにきて思った。


聖女の力に負ける気がしないと言ったライルは実は凄いのではないかと。


神聖力を恐れない、受け入れる気がない、屈するつもりがない……そんな事を言うライルがただ単にバカなのだと思っていたが、そう思える事自体がとても稀有な事なのではないかとユラルは思った。



なんだか、無性にライルに会いたかった。


会って、絶対負けないで欲しいと言いたい。


無理だと決めつけて監視をするのではなく、

彼の側で応援したいという気持ちになった。



だからユラルは、夕方になりいつものように迎えに来てくれたライルの胸に思わず飛び込んでしまったのだ。


今日も変わらずにいてくれたライルに、

ユラルは初めて感謝の気持ちを伝えた。



「ライル、わたしの為に頑張ってくれてありがとう」


「ユラ?」


ライルはきょとんとしていたが、ユラルは構わず頭を撫でた。


ライルは昔からユラルに頭を撫でられるのが好きだから。



だからまぁ……嬉しくなって調子に乗ったライルに無茶苦茶ディープなキスをされたのは……仕方ない事だろう。


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