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皆で監視するザマス

とりあえず三週間の猶予期間を設ける事になったユラルとライル。


聖女の騎士としての様子を(つぶさ)に監視するために、ユラルは枢機卿夫人アマンディーヌに側付きとして働かせて貰えないかと頼んだ。


アマンディーヌは枢機卿夫人としての務めがあり、その為に国教会バレスデン総本部に出入りしているからである。


総本部はライルが叙任を受けた大聖堂に隣接されており、聖女ルナリアはそこに居を構えている。


当然聖女の騎士達もそこが主な勤務場所であり、その様子を窺い知る事が出来る。



ユラルからの説明を受けて、アマンディーヌは言った。


「……なるほど。三週間の執行猶予ザマスね。なかなか面白そうなお話ザマスわ。もし本当にライル卿が言った通りに彼が聖女に害されなければ、これはバレスデン史上初めての快挙となるザマスわよ」


アマンディーヌの自室にて、ユラルの話を一緒に聞いていたロアンヌが心配そうに言う。


「でも……直ぐ近くで恋人が聖女に夢中になって行く姿を見なくてはならなくなるのよ?ユラルちゃんが傷つかないか心配だわ……」


ユラルは気遣ってくれるロアンヌに答えた。


「あ、そこは大丈夫だと思います。少しでも鼻の下が伸びた顔を見た瞬間、速攻で別れて二度と近付きませんから。それまでの勝手なお願いとなりますが、どうかアマンディーヌ様の側付きにして頂けないでしょうか……?」


アマンディーヌは笑顔で頷きながらユラルを見た。


「もちろんよろしいザマス。ワタクシも貴女達の賭けの結果を知りたいザマス。この際、友の会皆でライル卿の様子を見張るのはどうザマス?」


「沢山の目で監視すれば死角ナシですものね」


ロアンヌが同意するが、ユラルは遠慮がちに二人に告げる。


「わたしとしては助かるのですが、皆さまのご迷惑になるのではないでしょうか……?会員(メンバー)の中には同じく騎士の奥様もいらっしゃるのでしょう?聖女にうつつを抜かしているご主人の姿を見る事になるのでは……」


ユラルのその言葉にロアンヌが少し考えて答えた。


「では希望者を募りましょう。その方達と、私とアマンディーヌ様とで、ユラルちゃんと一緒にライル卿の言動を見張るのはどうかしら?」


「ホホホ、ライル卿の観察日記でも付けるザマス」


「いいですね、駄犬ライルの観察日記……アマンディーヌ様、ロアンヌ様、ありがとうございます!」


ユラルは快諾してくれた二人に心から感謝の意を表した。



そしてその日からさっそくアマンディーヌに伴いバレスデン総本部へと出入りする。


しかし無駄に広い総本部の中、もしかしたらそんな頻繁には聖女とその騎士達の姿が見れないのではと心配したが、アマンディーヌとロアンヌは聖女のスケジュールや行動パターンを把握しているらしく、それに添った動きをこちらもするように取り計らってくれた。


例えばお布施を払って聖女の治癒を受ける者を、専用の救済室で聖女が神聖力を用いて治療する時間には、その救済室の様子がよく見える場所で枢機卿夫人宛の郵便物の開封や確認などの仕事が出来るように配慮してくれたりするのだ。


そしてまさに今、ユラルは封書の封を切りながら、聖女の護衛の為に付いているライルの様子を盗み見ていた。


向こう側からはこちらは死角になっていて見えていないようだ。


さすがはアマンディーヌとロアンヌ。


そんな心配りもさすがである。


聖女は平民の老紳士の腰に手を当て、神聖力を注ぎ込んでいる。


医療魔術師が施す治癒魔法よりも治癒力が高いという聖女の治癒能力。


そんな姿を見ると、彼女が歴とした聖女であるのだと納得させられる。


聖女の聖騎士(パラディン)達は側で彼女の事を見守っていた。


ーーなるほど。噂以上ね。


彼らを見て、ユラルは思った。

皆一律高身長で見目が良い。美貌の聖女の周りを侍っていてもなんら遜色はなく、まるで芝居のワンシーンを見ているようだ。


その聖騎士達一人一人が聖女ルナリアの事を蕩けるような眼差しで一挙一動、どんな仕草も見逃すまいと目で追っている。


ーー想像した()()()()な光景だわね。

あら?今のってなかなかいい感じに韻を踏めていたんじゃないかしら?

でもどうして?それをリズムに乗せて言いたくなるわ。

ヘィヨォ!とか言いたくなっちゃう。


ついつい前世の記憶が引っかかり考えが脱線するユラルの目に、ルナリアがライルを呼ぶ様子が飛び込んで来た。


何やらライルに話し掛けている。


ライルは近くの棚から布らしき物を取り、それをルナリアに渡した。


「あ」


思わずユラルは小さくだが声を発してしまった。

だってルナリアがその布を受け取る時にわざと両手でライルの手に触れたのだから。


ーーアレ、わざと?絶対わざとじゃない?


ユラルはムカっとしながらも直ぐさまライルの様子を見た。


「……真顔だわ……」


ルナリアに布を渡した後、ライルはまた背後に控えていた定位置に戻る。

その時に他の聖騎士から妬ましげな視線を向けられているが、本人は意に介さず無表情であった。


その後も庭園を散歩するルナリアや祈りの為に大聖堂に向かうルナリアに付き従うライルの姿を盗み見たが、そのどれもライルは普段と変わらない様子だった。


……こっそり欠伸(あくび)をしていたり、陰で鼻くそを穿(ほじ)っていたり……


「通常モードだわ」


「え?そうなの?」


思わず呟いたユラルに隣にいたロアンヌが少し驚いた様子で言った。


「……不真面目という訳ではないと思うんですが、緊張感が足りないというか……要するにバカなんです」


「まぁ、ふふふ。でもとりあえず今日はまだ神聖力に侵されていないみたいね」


「そう……ですね……」


今日はまだ……じゃあ明日は?

ユラルの心に不安が過ぎる。


その時、ふいに大きな声で名を呼ばれた。


「ユラ!!」


自分の事をそう呼ぶのはこの世で一人しかいない。

ユラルは名を呼んだライルの方に視線を戻した。


するとライルは嬉しそうにこちらへ向かって一直線に走って来た。

相変わらず犬みたいに。


「ユラ!ホントに枢機卿夫人の付き人になったんだな!すげぇな、有言実行の女だな!」


「当たり前でしょ。ライルを見張るにはこれが一番いい方法だもの」


「あはは!さすがはユラだ」


「……見張られているのに何故嬉しそうなのかしら」


ユラルの側で二人の様子を見ていたロアンヌが不思議そうにポツリと呟いた。


「そういう奴なんです」


ユラルはそう答えておいた。


それに構わずライルは相好を崩したまま訊いてくる。


「俺、今日はもう上がりなんだ、ユラは?一緒に帰ろうぜ。ていうかユラが本部に来るんなら毎日迎えに来る」


「毎日?でも夜番とかあるんじゃないの?夜だって警護は必要なんでしょ?」


「夜番はみんながやりたがるから俺が外れたって問題はねぇだろうな。むしろライバルが減るとかなんとか言って感謝されそう」


「え?そんな軽い感じ?」


ユラルが驚いていると、ロアンヌが言った。


「ユラちゃんも今日はもう終わりでいいんじゃない?アマンディーヌ様には私からお伝えしておくわ」


「やった!ありがとうございます!!」


「なんでライルがお礼を言うのよ」


「だってユラと帰れるもん」


「もん、って可愛くないわよ?」


「クーン……」


二人のそんなやり取りを見てロアンヌは笑う。


そしてどうか、このままライルが変わらないでいて欲しいと胸の内で願ったのだった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



次回、ザマス語尾の原因が分かる?


次の更新も20時頃です。


よろしくお願いします(〃ω〃)♡


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