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駄犬はとにかく結婚したい

いつもありがとうございます!

この時、ライルは待ち合わせ場所でいつものように恋人のユラルが来るのを待っていた。


十歳から一緒にいたユラル。


時々変な事を言うが優しくて可愛いユラルの事が好きになったのはいつ頃からだったか。


ーー思えば釘バットを持った姿を見た時から惚れていたのかもしれない。


下町にもこのバレスデンにもユラルのような女の子はそうそういない。


風変わりな発想も、

ころころとよく変わる愛くるしい表情も、

自分だけに見せるはにかみながら笑う仕草も全てが愛おしい。全てが大好きだった。


だけど相手は男爵家の令嬢。


俺の嫁さんはユラしか考えられねぇ、なんてどれだけ勝手に思っていてもこの国の貴族院は貴族の子女と平民の婚姻はそれなりの条件でないと認めていないという。


ではその“それなりの条件”とは?


それは平民であったとしても、文官や武官などで取り立てられ、功績を上げて認められる事が、そのそれなりの条件となるそうだ。


ライルはバカだが幸い腕っ節の強さと運動神経は並外れて良かった。


それを活かして武官…騎士になると決めたのは十四歳の時だ。


そしてバレスデン聖騎士団に騎士見習いとして入団し寮に入る許可を、ユラルの父であり引き取って育ててくれた恩人でもあるクロド男爵から得る事が出来た。


その時にライルは男爵に頼んだのだ、


「必ず立派な騎士になりますからユラルを俺の嫁さんにくださいっ」と。


ライルが口が悪くてバカだが善人で何よりもユラルを大切にしている事を知っていた男爵は、結婚自体に反対はしないと言った。


だがやはり貴族院を認めさせる功績や肩書きが必要だと言われ、それをなんとか出来るのならいつでもユラルを迎えに来いと男爵は言ってくれたのだった。


ただし式までは絶対に一線を超えるなと釘を刺されたが。


ーーッシャアアッ!!


その言質を取って以来、ライルはがむしゃらに頑張った。


騎士見習いとしての鍛錬はもちろん、先輩騎士達の使いっ走りや便所掃除などの下働きも「このクソがっ!今に見ていやがれっ」と思いながら懸命にこなした。


そしてようやく準騎士になれたのが十五歳の時。

当時のライルは迷った。


このまま正騎士になるまで待つか、このタイミングでユラルに告白するか……ユラルが自分の事をどう思っているのかは分からないが、こちらの気持ちを伝えて自覚させておく必要はあるのではないだろうか。


ーーいやいや、男爵との約束があるしなぁ。

でも男爵は騎士になったら構わないと言ってたよな、準騎士だって騎士は騎士だろ?


さてどうするものかと思っていたら、隣町の子爵家の令息がバレスデン大聖堂に来た際に、たまたま見かけたユラルに一目惚れをした……とかいう話を耳にした。


ーー迷ってる場合じゃねぇっ


そしてその話を聞いた日にライルは速攻でユラルに好きだと告げ、二人は付き合う事になったのであった。

その時に将来の約束なんかもしちゃったりなんかして。


ーーいやぁまさかユラも俺の事が好きだったとはなぁ♪

俺たちソーシソーアイってヤツじゃん♪


ライルは天にも昇る気持ちになった。

とにかくユラルが好きで好きで堪らない。


一緒にいるとついキスをしてしまう。

男爵との約束があるから抑えてはいるが、つい舌を入れちゃうし胸も揉んでしまう。


ーー……一線は超えてないからオッケーだ☆


ライルはとにかく早くユラルと結婚したかった。

結婚して一緒に暮らしたい。


そうすればいつでも一緒にいられる。

昔みたいに一つ屋根の下で面白おかしく。


あの日下男達の前で家族だと言ってくれたユラルと本当の家族になりたいのだ。

それは家族を早くに亡くしたライルのささやかな夢でもあった。


そして……ライルに結婚を焦らせる要因がもう一つある。


以前ユラルに一目惚れしたとかいう隣町の何とかという子爵家のボンボン……そいつが性懲りもなくユラルを狙って縁談の申し込みをしようとしているらしいとユラルの姉の旦那に聞いたのだ。


一介のぺーぺー騎士と子爵家の令息。

いくら男爵はユラルとの結婚は構わないと言ってくれたとしても、より条件のいい結婚相手が見つかったら、天秤に掛けるまでもなくそっちを取るのではないか……。


ーーヤバい。


ライルは焦った。


正騎士試験にパス出来て、正騎士にはなれたが、まだ貴族の子女と結婚出来るほどの肩書きも功績も持ててはいない。


自分はこんなに努力してるのに、向こうは同じ貴族というだけでなんの苦労もなく家を通してユラルに求婚出来る……。

なんて不公平な世の中なんだろう。



ーー……不公平さは、ガキの頃から嫌というほど思い知らされてきただろ。


不貞腐れていても仕方ない。


そんなものの為にユラルを諦めてたまるか。


何か手はないか。


今すぐに身分をものともしない肩書きを得る方法……。


ライルがあまり良くない頭で懸命に考えているその時、

聖女と聖女の聖騎士(パラディン)達の姿が見えた。



ーー聖女の騎士……!



バレスデン聖騎士団の中でも聖女だけに仕える特別な騎士たち。

遠く他国にまでその名を知らしめるという。


ーーえ、アレなら一発オッケーなんじゃね?



聖女付きの騎士なら給金も破格だと聞くし、

存在自体がビッグネームだ。



ーーいやでもユラが聖女の騎士にだけは絶対なるなって言ってたしなぁ……

なんでも聖女の力のせいで頭がおかしくなるとか?

聖女に骨抜きにされるとかなんとか?



ライルは腕を組んで考えた。



ーー聖女の騎士になったらユラより聖女の方を好きになるって?


ライルは頭の中で聖女の姿を思い浮かべた。


確かに人形みたいに綺麗な女だ。

金色の髪に陶器のような白い肌。

大陸国教会が認める聖女達の中でも群を抜く美貌だと聞く。


だが、


ーー全っ然ソソられねぇ。



どれだけ綺麗な女だろうがユラルじゃない女など、ライルにはその他大勢、そこら辺に生えてる雑草と一緒だった。


その一方ユラルの破壊力ときたら!


ーーいい匂いがするし優しいし可愛いし面白いし胸がでけぇ。

聖女はつるぺたじゃねぇか。


ライルはしばらく考えて、こう思った。


ーー何も問題なくね?

何をどうしてもユラより好きになるなんて、あり得なくね?

イヤでもやっぱりユラが嫌がるし怒るだろうしなぁ……また釘バットくん三号で追いかけられたら怖ぇしなぁ。



うーん…うーんと考える事しばらく。



ライルはやはり、こう結論付けた。



ーー聖女の騎士になるのをユラが嫌がる訳は、俺が聖女に絆される事を心配してるからだろ?

なら全く問題はない、俺は絶っっ対に大丈夫だ!!

聖女の力だかなんだか知らねぇが、俺の心ん中はユラでいっぱいだからなっ!!



そしてライルは勝負に出た。


聖女の聖騎士という肩書きを得て、ユラルを嫁に迎える。


叙任式が済んだら速攻でユラルにプロポーズをする!!


そして貴族院のヤツらに婚姻誓約書を叩きつけてやる!!



ーーでもやっぱりユラが怖いから当日までナイショにしとこ☆



ライルはこうして聖女付きの聖騎士に志願した。


そして叙任式を終え、その日の夕刻にユラルにプロポーズをする為に待ち合わせをした。


懐に婚約指輪を忍ばせて。


いつもの待ち合わせ場所の公園のベンチに座り、ユラルが来るのを今か今かと待ち侘びる。


その時、近くで足音が聞こえた。


聞き馴染みのある足運びのリズム。


ユラルの足音だ。


しかしその足音に紛れて何かを引き摺る変な音も聞こえた。


「ユラ?」


不思議に思ってライルが振り向くと、そこにはやはりユラルの姿があった。


ゆっくりとした足取りでこちらへ向かって来る。


「ユラ!……ユ、ユラ……?」


ライルはユラルが手にしている物を見て顔が青褪める。


それはそうだろう。


ユラルの手には、あの釘バットくん三号が握られているのだから。


その釘バットを地面に付けて引き摺りながら近付いて来る。


「ユ…ユラルさんっ?」



慄くライルに、ユラルは満面の笑みを貼り付けその名を呼んだ。



「ラ~イ~ル゛~」



誤字脱字報告ありがとうございます!

多くて申し訳ないです!

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― 新着の感想 ―
[一言] あ~(笑) 駄犬君が焦る理由もあったというわけか(笑) ……でもこれ、典型的な『俺だけは大丈夫』フラグなんだよなぁ(笑)  駄犬君の明日はどっちだ(笑)
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