それぞれの断罪、贖罪、やり直しの始まり② 友の会のメンバーとその夫達
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法案が議会を通るまで一年を有すると予測されるが、
婚姻の解消…つまり離婚を認める法を定めると女王デルフィータがアマンディーヌに約束したという。
大陸国教会と袂を分かった今、宗教上の倫理を理由に無理な婚姻継続に国民が縛られる必要はないと女王は考えたそうだ。
「法が改定され宣布、施行されるまでの一年の間に今後の事をゆっくり考えればよいとアマンディーヌ様は仰ったわ」
皆にそう告げたのはロアンヌだ。
彼女はアマンディーヌからその事を皆に伝えるように頼まれ、こうして友の会のメンバーを前にして告げているという訳なのだ。
アマンディーヌは今、王都にいる。
夫であるオクレール元枢機卿が、大枢機卿として聖女の魅了魔法使用を長年に渡り放置した罪を問われた。
オクレール元枢機卿本人にそのつもりはなくとも、人心を操る術を持つ“危険人物”をその庇護下に置いていた為に、いずれ国家転覆の機を図っていたのではないかと見做されても致し方ない。
聖女ルナリアの力により正常な判断を奪われていたとしても、その咎を免れるのは難しい事なのだと聞く。
アマンディーヌはとりあえずはまだ、その彼の妻として幽閉先の館に身を寄せているという。
そしてそこで、ルナリアの洗脳が解けたオクレール元枢機卿と夫婦として向き合い、今後の事を話し合うのだそうだ。
蔑ろにされた時期が長ければ長いほど、その蟠りが消えるのは難しいだろう。
アマンディーヌもこの一年をかけて自らの答えを出すつもりでいるらしいと、ロアンヌから聞かされた。
「……………」
友の会のメンバーが皆、それを自身にも置き換えて考えているようだ。
聖女付きの騎士の洗脳は皆、勅使の大東賢人により解かれた。
そのついでに大東はそれぞれの騎士の深層心理に触れて、洗脳に至る要因も探ってくれたそうだ。
そしてその事はもちろん、彼らの被害者である夫人たちに知らされた。
当然、その理由を知りたくない者も中にはいる。
なので大東は任意で、夫人自身が望むのならと言う形で教えてくれたのだ。
ある夫人は、離縁が許されるのならやり直す気はないのだから最初から理由など知らずとも良いと突っぱねた。
またある夫人は、洗脳を許した理由が夫の聖女への元々の恋慕であったと知りショックを受けたが、薄々はそうではないかと思っていたのでその事実を受け入れて離縁を選択した。
とくに精神的な弱みもない状態であったのにも関わらずいとも簡単に洗脳を許した夫を持つ夫人もまた同様であった。
だって自分たちの夫と同じように聖女の近くに居たライルは、ユラルへの揺るぎない想いでルナリアの力を跳ね除けていたのだ。
その姿を目の当たりにしていたのだから当然だろう。
しかし中には、洗脳から解かれてすぐに妻の元へと駆け付けてスライディング土下座をした司祭も居たらしい。
東方人である大東に「土下座がなっとらん!」
と言われて何度も土下座のやり直しをさせられていたそうだが、
その司祭の洗脳の理由が子どもの頃から二十年以上共に暮らした愛猫を失った喪失感につけ入れられたものだと知った夫人は、呆れながらも往復ビンタを一日二発。
それを蔑ろにされた二年間分毎日受けるという罰を夫が受け入れた事により、やり直す事を選んだ夫婦もいた。
そしてライルと同じ聖騎士だった一人の男。
彼は洗脳が解け、自身が自らの手で遠ざけ傷つけた大切な妻に今さら合わせる顔が無いと、聖騎士団を辞めて一人バレスデンを後にしたそうだ。
最愛だった筈の妻に対し、取り返しがつかない過ちを犯した事への謝罪と、幼い頃から両親に愛されず不遇な身の上であった自分を励まし、これまで支えてくれた感謝の気持ちを込めた手紙を残して。
手紙を託されたロアンヌからそれを受け取り、読み終えた彼の妻は大粒の涙を流して泣き崩れたという。
夫が洗脳された理由が、愛してくれなかった両親を事故で同時に無くした動揺につけ込まれたものだと知り、彼女は更に涙した。
そして泣いて泣いて泣き尽くした後、今度は怒りが込み上げて来たのだという。
洗脳される程心が弱っている時にこそ、妻である自分を頼って欲しかった。
それなのに洗脳が解けた途端に妻を蔑ろにし続けた事実に耐えられず勝手に身を引いた。
「許して貰えなくて当然だ?私の新しい人生が幸多きものである事を祈っている?どうか愚かな自分の事は忘れて欲しい?……どこまでも勝手なんだからっ!!」
その夫人の心の叫びを、友の会皆で受け止めた。
そしてユラルがすっ……と専用のケースに入ったアレを手渡す。
それは新しく作ったばかりの釘バットくん四号であった。
「これを持って、直接本人の前で振り回してやりましょう。見た目だけでもインパクト大、馬鹿な男の躾にはもってこいです。そしてご自分の気持ちを洗いざらいぶち撒けて、相手の気持ちも全部吐かせて怒ってやりましょう。全てはそこから、その後ご夫婦としてどうするかを考えればいいのではないでしょうか?」
ユラルはそう言って、夫人の背中をトンと押した。
他の友の会のメンバーも皆大きく頷いている。
やり直すもやり直さないも、あとは二人でじっくりとことん話し合えばいい。
ロアンヌはこうなる事も予見して、その元騎士の行き先を聞き出しておいてくれたという。
そうして皆に背中を押され、夫人は釘バットくん四号を携えて夫の元へと向かった。
それぞれの夫婦にそれぞれの選択がある。
全て一律に皆が幸せになれる、
そんな理想的な結末が無理な事は分かっている。
だけど離縁を選んだ夫人にも、
もう一度やり直す事を選択した夫人にも、
その先に幸せな将来が待っていると信じたいユラルであった。
一方でユラルにはどうしても気になる事が残っていた。
ーー大東さんはお願いを聞き入れて下さるかしら……。
ユラルはまだバレスデンに留まっている大東を訪ねた。
案内された部屋に行くと、そこにはユラルから譲られた釘バットくん三号をうっとりとした目で眺める大東が居た。
「あの、大東さん……」
「あ、其ちはこの芸術作品の製作者のご令嬢でゴザったな」
大東はユラルを見て相好を崩した。
「はい。フレイヤ男爵家のユラルと申します。今日は大東さんにお願いがあって参りました」
「ほほう。何用でゴザルかな?」
「あの……つかぬ事をお尋ねしますが、大東さんは過去に亡くなった方の考えていた事とかもお分かりになったりしますか?」
「既に亡くなった者の心理を覗く事は流石の某にも無理でゴザルよ」
「そ、そうですよね……「まぁ正確に、一字一句間違えずには、という意味でゴザルがな」
「へっ?」
ユラルの返事に被せて告げられた言葉に驚いて思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「故人が最期に身に着けていた物や、故人の遺髪などがあれば、そこから残留思念を辿る事は出来るでゴザル」
「ほ、本当ですかっ!?」
「本当でゴザル。して、某にその思念を拾って欲しい御仁がいるでゴザルか?」
「居るんでゴザル!是非にお願いいたします!」
必死に食いつくユラルを、大東は興味深そうに見て告げた。
「ほー、珍しい。其ちの魂はあれだな、ここではない世界からやって来たものでゴザルな」
「え?何か仰いましたか?」
よく聞き取れなかったユラルが聞き返すと、大東は首を横に振った。
「いや、何でもゴザらんよ。其ちには素晴らしい物を貰ったしな、よかろう。某で良ければ力になるでゴザルよ」
「ありがとうございますでゴザル!」
ユラルは深々と頭を下げた。
こうしてユラルは、
どんな結果でもいいから真実が知りたいとロアンヌが予てより願っていた、
彼女の亡き夫の最期の言葉の真意を
大東に調べて貰う事としたのであった。




