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聖女とパッパラパラディンズ

それは、総本部と大聖堂を見学したいとバレスデンを訪れたアマンディーヌの友人を迎えた時に起こった。



元伯爵家の令嬢であったアマンディーヌの古くからの友人だという、四十代前半くらいのその女性をアマンディーヌやロアンヌと共に、ユラルは総本部のエントランスで出迎えた。


そしてその時ふいに背後から声を掛けられたのだ。


「まぁオクちゃんの奥さんではありませんこと?」


ーーオクちゃんのオクさん?


また韻を踏んだようだなと思ったユラルが声のした方を振り向くと、そこには聖女ルナリアと彼女を守る聖騎士達が立っていた。


そしていきなり、聖女ルナリアはアマンディーヌを見て嬉しそうに笑みを浮かべながら小走りで近付いて来る。


ーーゲッ


ユラルは思わず心の中で声を上げた。


「ルナリア様っ!そのように走られては危のうございます!」


「聖女様っ!私が抱いてお運び致しますから!」


「お待ち下さいルナリア様っ」


聖女付きの聖騎士(パラディン)達が口々にそう言いながらルナリアを追いかける。

その最後尾にのろのろとやる気無さげについて来るライルと目が合った。


ーーぷっ


ライルはユラルと目が合った途端にパッと表情が明るくなった。

気の所為か千切れんばかりにシッポを振る幻覚が見える。

思わずユラルは笑ってしまった。

本当に昔飼っていた犬みたいだ。



聖女ルナリアはアマンディーヌの前までやって来てころころと鈴を転がすような可愛らしい声で話しかけてきた。


「お久しぶりね!元気にしていた?オクちゃんとは毎日何度も会うけど、奥さんにはなかなか会えないから寂しいわ」


アマンディーヌはもうかれこれひと月は夫であるオクレール枢機卿とは会っていない。


何気に自分は毎日会っているのだというアピールなのだろうか。


アマンディーヌは淑女の笑みを貼り付けて丁寧な対応をした。


「ご無沙汰しておりますルナリア様。おかげさまで元気にしておりますわ。ルナリア様もお変わりないご様子で何よりでゴザーマス」


「おかげさまで元気よ。皆が良くしてくれるから毎日楽しく暮らしているわ」


「さようでゴザーマスか。それは何よりザマス」


ルナリアはアマンディーヌの側にいるユラルやロアンヌをチラリと見て、言った。


「奥さんには同性のお友達が沢山居て羨ましいわ。わたしの周りには見ての通り殿方ばかりだから……少しだけ寂しく感じるの」


ルナリアのその言葉を聞き、側にいる聖騎士達がこれまた口々に言った。


「お可哀想なルナリア様っ……」


「でも貴女様には我々がおります!我々がお慰めいたしますゆえ!」


「あぁ……もの憂げなルナリア様もお美しい……!」


「この世の至宝だ!」



……なんだこれは?なんの茶番だ?


ユラルは思わず半目のジト目になって、聖女と聖騎士(パラディン)達を睨め付けた。


その聖騎士たちの声を受け、ルナリアは皆に言う。


「ありがとう。わたしの騎士たち。みんな優しいのね」


「ルナリア様っ……!」


「我が君っ!」


「みんな、これからもわたしの側に居てね」


「「「「「もちろんですっ!モチロンデス~」」」」」



ーーん?一人不協和音がいるぞ?


テノールやバリトンボイスが響く中、明らかに棒読みの小声がユラルの耳に届いた。


聖騎士達の一番後ろで耳を穿(ほじ)りながらライルが発したものだった。


いつもならバカだろコイツと思う態度だが、この時ばかりはおかしくてたまらない。


ルナリアも他の聖騎士達も自分たちの世界に浸っていて、ライルの様子は眼中にないようだった。


ルナリアはアマンディーヌに向き直り、こう告げた。


「わたしは幸せ者だわ。みんなにこんなに慕われて♡」


「ヨカッタザマスワネー」


アマンディーヌもライルに負けず劣らずの見事な棒読みとなっている。


「じゃあそろそろわたしは失礼しますね。みんな、お部屋に戻ったらお茶にしましょう♪」


「「「「「ハイ喜んで!ハイヨロコンデ~」」」」」


ーー誰もあの不協和音は気にならないのかしら?

天然聖女とパッパラパラディン達ね。


と、ルナリアや聖騎士達と共に去って行くライルを見送りながらユラルは思った。


最後尾のライルが振り返り、ユラルに向けて小さく手を振った。

ユラルも小さく振り返す。


その様子を他所に、アマンディーヌの友人である女性がポツリと呟いた。


「……思っていた以上に異質な状況だわ」


バレスデン外部の者からすれば、そして信仰心に凝り固まっていない者から見れば当然、異常でおかしな光景なのだろう。


そう思ったユラルの隣で、ロアンヌがユラルに言った。


「ライル卿……彼は本当に、聖女の力が及ばない人物なのかもしれないわ……」



願望の込められたその声に、ユラルもそう願いたい気持ちでいっぱいだった。




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