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二章 3

一直線に俺達の元へ掛けて来る黒犬。

 俺は小石が敷き詰められて走り難い城下道に苦労しながら、必死に逃げた


「は、速い! 速いぞあの犬!?」


犬は凄まじく速く、俺達と犬の間にあった20メートル近い距離はグングンと縮み、犬の餌にありつけた獣の様に爛々と輝く双眼と、しっかり目が合ってしまう


「めっちゃ怖わ!? あいつの目、めっちゃ怖いぞ!!」


その強い眼光に足がガクガクと震え、腰は砕けそうになる


「しっかりせい! 前を見て走らんか!!」


俺の恐怖を晴らす、凛の鋭い叱咤の声


「あ、ああ!」


犬を見ながら走るのは止め、俺は逃げる事に専念した


「奴の目は何色じゃったか!?」


「は? ……み、緑だった!!」


不気味に光る緑目。あんな目は見たことが無い


「ならば奴はまだ我の存在に感づいておらぬ。あの場に残っていたおんしの匂いを追って来たのじゃろう。なれば……」


凛は言葉を区切り


「やはり奴を倒せい、剣之助!」


と無茶な事を言いました


「む、無理に決まってるだろ! 人間は武器を持ってなければ野生動物に勝つ事は難しんだぞ! 昔、偉い空手家の人が言ってたんだぞ!!」


「なれば今こそおんしの封印されし力を開放するのじゃ!」


「んな都合の良い力はねぇよ!!」


「ほんに不甲斐男じゃなあんしは!! 二十過ぎて何も取り柄が無い男なぞ厳しい現代社会では通じんぞ!!」



「あ! 言っちゃった! 遂に禁句を言っちゃった! もうやだ、引きこもっちゃうぞ俺!!」


ホームレスで引き篭り。新しいな。ドラマ化するかも……


「ガアウ!!」


「うわっ!?」


吠え声に振り返ると、犬は俺の直ぐ後ろまで迫っていた。

 後、僅かな数秒足らずで追いつかれてしまう距離


「ちくしょう!」


俺は自分の荷物を犬に向けて放り投げた。

 犬はバックをかわす為僅かに足を遅らせたが、直ぐに体勢を整えて追跡をする


だが、その間に俺も撃退の準備を整えていた


「……動物相手に気は進まないけどよ」


俺の右手には、溢れんばかりの石つぶて。

 走りながら強引に拾った為、指がじわりと痛む


「石、投げさせてもらうぜ?」


「……当たるかのう」


「ば、馬鹿にするな! 俺は中学ん頃、南ちゃんを甲子園へ連れて行くのは自分だと信じていた男だぜ!!」


若気の至りだった……


「……そうか、それは良かったのう。ちなみに我は新田の妹の方が好きじゃったよ」


「あ、気が合いますね。実は俺も」


「良いから早く投げぃ」


「お前が話を振ったんじゃないか!」


そう言いながら石を犬に向け、投げる。

 加減はしているが、当たれば……


「当たらぬのう」


「…………」


犬は軽く右に避け、見事紙一重でかわしやがった


「まだまだ~!」


次は強めに投げる。だがその石も軽いステップであっさりかわす黒犬


「当たらねぇ! 当たる気がしねぇ!!」


何度となく投げる石は、掠りもせず、黒犬の追跡を若干遅くするだけだ。 しかし、振り向き投げる俺も当然足は遅くなる為、距離は拡がらない


そしていよいよ石が尽きかけた時、凛が呟く


「……おんしでは無理じゃな、かような無茶を頼み、すまんかった。

 我を下ろせ剣之助。このままでは逃げ切るどころかおんしが食い殺されてしまうわ」


その言葉に俺への責めは無い。そうする事が一番良いと言う響きと気遣いがある


そんな言葉を聞いてしまったら当然


「はいそうですねって訳にはいかないだろ!」


俺は完全に振り返り、黒犬と対峙する


俺の覚悟が伝わったのかドーベルマンの身体にブルドックの様な低い鼻を持つ黒犬は口を開け、長い二本の上牙を剥き出しにした


「こ、来いよこのやろう」


生まれて始めて受ける明確な敵意を前に、俺の声は震え、身体は緊張で硬くなる


だけど!


「俺に任せろ!」


「剣之助……よし、一蓮托生じゃ剣之助! 我の身、おんしにお頼み申す!!」


「おうよ!」


たまには姫様を救う役ってのも悪く無いだろ俺!



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