二章 裏
目覚めた時、私はまず手足の不自由を感じた
「…………ここは」
次に疑問だ。此処は何処なのか……
おそらく部屋。それも窓一つ光一つ無い部屋だ。 一寸先も見えやしない
「…………」
何故、私はこの場所に居るのか。闇に目を慣らしつつ、それを考える
私は……
「…………負けた」
そう、私は負けたのだ
八度回目の召喚の時に、刀の召喚を失敗し、その影響から血を吐き、膝をついてしまった私に、石兎達は一斉に襲い掛かった
抵抗し、暴れる私を奴らはいとも簡単に抑え、意識を奪う
『鬼狩りの姫も、剣がなければ気が強いだけのか弱い女性ですな』
気を失う直前に聞いた、木鳥の私を嘲笑う声が今も耳に残る
と、なれば今、この現状は奴らに捕らえられていると考えて良いだろう
成る程、この手足の不自由は術式による束縛か
「…………くそ!」
沸き上がる屈辱と怒り
姫様に必ず戻ると言っておきながらこのような不覚をとってしまうとは
奥歯を強く噛み締め、屈辱に耐えていると、ギィっと木か何かが床に擦れる音がした
それと同時に部屋が明るくなる。部屋内にある蝋燭が一斉に燃だしたのだ
「お目覚めですか、鬼狩り姫」
蝋燭の明かりの中、木と鉄の枠で出来た扉の前に浮かぶ白い男
「石兎っ! ぐぅ!?」
我を忘れ、石兎へ飛び掛かろうとする私の手足を激痛が襲う
「いけませんよ姫。今、貴女の身体には封身の秘術を施しております。無理に動けは細胞が壊れ、その美しい四肢が崩れ落ちましょうぞ」
封身の秘術。その言葉を受け、身体を見る
今の私は一糸纏わぬ裸体であり、その身体、胸、腹部、腕、足には隠形の術文が施されていた
そしてこの術文は私には解けぬ程に強い
「……ゲスが!」
「勘違いしないで下さいね。私は貴女様を辱めるつもりなどありません。ですが、貴女様は危険過ぎます故、このような対応をさせて頂きました」石兎は芝居掛かった風にそう言い、慇懃に頭を下げた
「ふん。貴様はそうでも私を犯したがっている者は居よう。私は敗北したのだ、どのようにされても構わぬ」
死は元より覚悟の上。屈辱も耐えよう
なればこの身体を毒にして、一匹でも多く悪鬼共を道連れにする
「……本当に恐ろしいお方ですね貴女様は。貴女様こそ真の羅刹。
ですが心配しないで下さい貴女にはこの石兎以外触れさせません」
「……どういう事だ?」
「勿論、その美しき身体を汚す事も致しません。私が望むのは貴女様に眠る刀のみ」
「っ!? 貴様!!」
「私達が得た鬼。その半身たる刀。返して貰いますよ、鬼狩り姫」
そう言い、石兎は私の下腹部へ軽く触れる
「貴様っ! ぬ!? う、うぁ!」
ズブズブと石兎の手が、私の身体へ入ってゆく
気持ち悪い、圧迫される
汚されている。私は今、身体を犯されているのだ
私はそれを強く感じ、歯を噛み締めて石兎を睨む
「……申し訳ございません姫。一刀、最初の一刀だけは強引に奪い盗らなくてはなりません」
「奪い……盗るだと?」
何を言っている。刀は私の中に眠るとは言え、私の身体にある訳では無い
私の精神。その海に眠るのだ
「無駄な事を」
「残念ですが」
無駄ではございません
石兎は言葉と共に、私の身体から手を抜く
「うん? ……あ」
瞬間的に悟った
今、私は大切な私の一部を失ったのだと
「あ、あぁ」
涙が溢れる
「あぁああ」
「お許し下さい……とは言いません。いつか、またいつか相見える時は、どうか私をお殺し下さい」
石兎は再び私の身体に手を入れ
「ああ!」
私の一部を完全に抜き出した