表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/19

第ニ章 北への道

「んで、北って具体的には何処だ?」


公園から数百メートル歩き、肩の重さに少し慣れて来た頃、俺はボストンバッグに話し掛ける


「越後じゃ」


「えちご? 奈良だったか?」


確か日本史でやったような……


「新潟じゃ」


「新潟……新潟!?」


新潟ってお米の新潟か!


「めっちゃ遠いじゃ無いっすか!? 乗り物が無きゃ何日も掛かるぞ!」


「そうでも無かろう。京から此処まで来るのに二日と掛かっておらん。距離は後半分も無かろうて二日でゆけるじゃろ?」


「いや行けませんよ! 神奈川ですよ此処!?」


思わず敬語になった俺に凛は妖艶な声で囁く


「男じゃろおんし。我におんしの男を見せてみい」「うるせ~ちびっ子! 無理なものは無理だ!」


「む。我がこんなにもサービスをしてやってると言うのに、不甲斐ない男じゃの!」


「何処にサービスがあったんだよ!」


「我におんしの勇を見せるチャンスを与えてやったろうに! 男子の誉れぞ!!」


「な~にが男子の誉れだよ! こちとらガキに声色使われて喜ぶ変態じゃ無いんだっての!」


「我は貴様より遥か年上じゃ!」


「何を~、……ん?」


十メートル近く離れた一軒家の陰から、僅かな光が洩れた。

 まるで蛍の様に小さい光


「あれは……携帯!?」


「ひっ!?」


俺の声に驚いたのか、女と思われる短い悲鳴が聞こえ、次にパタパタと走り去る音が響いた


「……ヤバイな」


あれは恐らく、この新興住宅地に住む数少ない住人の一人であろう。

 警察か何かを呼んだ可能性が高い


怪しげな男を調べ、ボストンバッグを開けたら少女が入っていた……。

 何ともぞっとしないシチュエーションだ


「逃げるぞ」


「む、ぬ、ぬおお!?」


バッグを両手で持ち、全速力で走る


「お、おんし、ぶつぶつ言っていた割には中々早いのう! しかしまだまだじゃな。これでは越後まで六、七日は掛かってしまうぞ?」


「口を閉じてろ! 舌噛むぞ!!」


それに受け答えしている余裕も今は無い!


俺はとにかく必死に足を動かし続けた




「ハァ、ハァ、ハァ……此処まで来れば」


十分の全速力疾走。此処まで走れた自分を褒めてやりたいです


「こら、止まるで無い! まだ半里も進んではおらぬぞ」


「む、無理を言うなよ」


卒業してから一度も走った事が無いってのに


「……今の男衆は不甲斐ないのう。我が若かりし頃には、重き鎧を纏った武者共が日が落ち、また昇る間に十里、十五里と駆けとったものよ」


どこか遠い声で、昔を懐かしむかの様に凛は言う


「…………ちぇ、何が昔だよ。どうせ時代劇か何かだろ?」


そう言いながら俺はバッグを担ぎ直す


「今の男共の気合い見せてやるよ」


舐められっぱなしってのもアレだしな


「む? うむ! その意気や良し!! 我が見ておる、しかと駆けい!」


「おうよ!!」


俺は力強く地を蹴り飛ばし、走り出した―――


――そして座り込んだ


「す……みま…………せん。い、今の……男衆共は……んくっ、ゴホッゴホッ! ふぅ、はぁ……く、クズです」


ですが十五分。あれから十五分走った自分を出来れば褒めてあげて下さい


「不甲斐ない!」


ボストンバッグは怒りの声をあげて下さいました


「ひ、酷い……鬼だ」


「いかにも我は鬼だ。しかし今は角無しじゃ。おんしらとそうは変わるまい」


「い、いや。滲み出ている。サディストと言う名の角が……」


この歳で末恐ろしいガキんちょだ


「我はどちらかと言えばマゾぞ? サドの頼光とは気が合ったものじゃ」


「……凛のご両親に一度会ってみたくなったよ」


どういう教育をしてんだ本当


「……そういや親とか心配しているんじゃ無いのか?」


そもそも何で北に行くのかすら判らない


「親などおぬよ。強いて家族と呼ぶのなら今は鈴華だけじゃ」


凛は淡々と話す。その声には悲しさや、寂しさは無い。ただ事実を話している、そんな声


「……そうか」


悪かった。そんな意味の無い謝罪は出来ない


だから俺は立ち上がり、また走り出した


「凛の言う通り俺は不甲斐無いし、無理は出来ないが……」


なるべく早く新潟に行ってやるよ


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ