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序章 2


「貴様らに言っても判らぬだろうが……よらば斬るぞ!」


言葉が通じぬ者には覇気を、覇気が通じぬ愚か者には剣を持って応えよう


背に雷の結界を引いた私に、犬どもは左右に別れ横へと回る。

 そして私の喉元を狙って躊躇無く飛び付いて来た


「愚か者が!」


右の犬の口に刃を突き刺して、そのまま体を左に崩し、もう一匹の犬の頭へ突き刺した犬ごと刀を振り下ろす


振り下ろした刀は、二匹の犬を真っ二つに切り、返り血を全てを飲み込んだのち、黒い光を発しながら闇に溶けた


「……ふむ、流石は鬼狩り姫。犬では足も止められませんな」


突如響く高い位置からの声。犬や雑魚どもとは桁違いの殺気


「…………そこか!」


足を止め、12、13メートル先の建物を見る


五階建てのマンションの屋上に、一つの影


ひょろりと長い身体と手足を持つ、キザな銀ブチ眼鏡をかけた顔色の悪い男


「ほ、足を止めて下さったか。感謝感謝」


「木鳥だと!?」


木鳥は先日まで四国の川蝉に身を寄せていたはず


「そんな驚いた顔をしないで下さいよ。貴女様が盗んだ物の価値を考えれば、私が飛んで来る事も別に不思議じゃないでしょうに」


ねっとりとした声で木鳥は言い、ボストンバッグを指差す


「全く大胆極まりない。親方様は大慌てでございますよ?」


「…………」

「お手元の物をお返し下さい姫様。今ならば笑い話ですみましょうぞ」


「断る」


「ほっ。したりしたり。ならば奪うまで!」


木鳥は奇声を上げ、屋根からこちらに向かい急降下する


「……鬼狩りの姫を舐めるなよ」


否、鬼はもう狩らぬ。我が狩るのは鬼に群がり仇なす悪鬼のみ!!


「三っ! 悪行、鬼切り丸一刀!!」




ギャアアアアア!!


「な、なんだ?」


なんつー不気味な声だ。猫でも轢かれたか?


「全く……勘弁してくださいよ」


せっかく静かで人が余り来ない新興住宅地だってのに、騒がないで欲しいですね


「今日も今日とて平和に暮ら……」


ず、ず


そんな地響きにも似た、軽い音がした


その音が継続的に鳴り響き……


ズドーン


爆音と地響き、そして大量の土埃が舞う


「な、な! なぁああああ!?」


何!? テロ!? 核爆発!?!


視界を奪う土煙。悲鳴に怒声


耳を澄ませると、数十メートル先にあるマンションが崩れたとかなんとか


「………………欠陥住宅って奴か」


国は何をしているのかね!


「…………よし!」


取り敢えずラーメンを食おう。そして眠るぞ!


マンションが崩壊しようが、国が滅びようが俺には関係無いのだ


「……怪我人、いなければ良いけどな」


怪我人が居ないよう、勝手に祈らせてもらうとしよう。ナーム~




鬼切り丸の一太刀は鬼を断つ一太刀


その一太刀は、天にも届く大鬼すらも斬る


「……やはり貴女様は恐ろしい」


腰から先の身体を失った木鳥が、最後の言葉を吐く


「町中で、それも鬼切り丸を何の躊躇も無く、お振りになるとは……」


ボストンバッグを足元に置き、両腕で構えたそれは、ドクン、ドクンと脈打つ鬼の肉で出来た太刀


浅い桃色をしたその刀を握ると、蛸の吸盤の様に肌に吸い付き、身体の気を奪う


「必要とあらば何度でも振る」


そう言いながら太刀を地へ突き刺すと、鬼切り丸の肉は飛び散り、渇いた砂に降る雨の様に地面へと吸い込まれていった


「まこと……鬼……姫」


木鳥の死を確認せず、私はボストンバッグを持って再び走り出す


が……


「…………追い付かれているか」


一見何も変わらぬ風景。しかし、既に石兎の結界内に入った事を知覚する


こうなれば、もはや逃げられぬ。後は敵を切り捨て血路を開くしか……


「…………姫様」


石兎は手強い。奴を倒している間に他の者も追い付こう


そして余り考えたくは無いが、木鳥が来ていた事を思うと、他の六角達も来ているかも知れぬ


……守りきれるだろうか


「よい。我の事は気にするな」


私の感情を読んだのか、鈴のような幼子の声がボストンバッグから響く


「我をそこらに置き捨てよ。そして敵を討ち果たした後、迎えに来やれ」


「しかし姫!」


「我は大丈夫じゃ。おんしがおるでよ」


真っ直ぐで慈愛に満ちた声。姫は私を心底信頼していて下さっている


「姫……」


石兎は私より姫を優先する。その隙をつき、即座に石兎を倒せば……いや


「……駄目です姫様。例え一時でも姫様を危険に晒す訳には参りません」


例えこの身が朽ちようとも全ての敵を討ち、姫を守る。それが最善の策だ


「……おんしは愚かだのう」


「御意に」


「まったく。……時に鈴華」


「はっ」


「あそこの小屋でアホ面をしながら我らを見ている小汚い男は、おんしの知り合いかの?」


「は?」


その一声で、私は初めて私達以外の者が居る事に気付いた




「…………」


目が合った


ヤバイのと目が合ってしまった


夜の公園前で一人、肩に担いだボストンバッグへぶつぶつと語りかけている女。

 夏とは言え、これ以上ヤバイ奴が居るだろうか?


「…………」


「…………」


女は無言でこちらを見ている


仲間にしますか? 何て選択肢が出て来そうな熱い視線だ


当然俺は、いいえを選ぶ


女はしょんぼりとして去って……


「おい」


凛と響く低い声だ。その声は明らかに不機嫌と言った色を持つ


俺はわざとらしく、左右を見回す


「お前だ」


惚けると殺すよ? そんな九十年代に流行った不良漫画の台詞が似合いそうな赤く、鋭い眼光


赤?


自分の言葉に何故か疑問を覚えていると、女はゆっくりとこちらへと向かって来た


近付くにつれ、女の姿形がはっきりと現れる


「…………赤」


電灯の薄い光。その光の下で、まるでルビーを溶かして染め上げたような真っ赤な髪を持つ女は、厳かな響きを持った声で言った


「姫を預かれ」


髪より更に赤い、炎のような目で俺を睨みながら


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