三章 裏
私には身寄りが少なかった。両親とは私が産まれてすぐに死別し、兄弟もいない
親戚は何人かいるはずだったが、一度も会った事はない
産まれた時から一人。あの方に拾われるまで、ずっと一人
だから――
だからとは言わない
だからとは言えない
私は、自分の意思であの方に仕えているのだから
六角邸
四国は香川の最北の片田舎。そこには敷地五百坪程の、純和風な屋敷がある
立派な鬼瓦の屋根に白壁。門は鋼鉄であり大きい
庭には鯱すら飼える大きな池があり、架かる石橋は朱と金に塗られきらびやかだ
武家屋敷。
その表現が一番相応しいだろう屋敷
それが我等が主、十七代目の六角である、六角 静馬様がおわす場所
「石兎、御前に参上致しました」
十畳ほどの狭い部屋。昼間だと言うのに明かりは無く、しかし、くすんだ雰囲気は無い
「首尾はどうだ、石兎」
若いが張りは無く、凹凸も無い低い声がひざまづき頭を垂れる私を呼ぶ。
その声の間に間に女の艶声が混じるが、止む事は無い
「ええ、はい、上々ですよ。現在、五本目まで抜き終わりました」
「流石は六角衆が筆頭、石兎。仕事が早い」
「光栄のしたり」
「だが手緩いな」
「は」
「二日だ。それで残りを抜け」
「はは」
二日。鈴華は強靭な精神の持ち主だ。残り二日で全ての刀を抜くとなるとかなり強引な手を使わなければならない
「頼りしておるぞ」
「…………はい」
釘を刺された。そう言っても良いだろう
私は六角様のお姿を見ぬよう立ち上がり、部屋を退室する
部屋からは、快楽に震える女の断末魔が聞こえた