第三章 修業とかぽろりとか
「修業じゃ」
魔犬を倒し、小田原から急いで逃げ出した俺達。 五日間殆ど休まず必死に移動し、ようやく着いた山梨県
「……天気が良いから富士山がよく見えるぜ」
担いだバックからする声を無視して汗を拭く
「修業じゃ」
「……あ、赤とんぼ。すっかり秋だなぁ」
「修業じゃ♪」
「可愛く言われてもやりたく無いんだよ! てか修業している場合じゃ無いだろ!?」
あれから追っ手は無く、腹が減る事以外は平穏無事に過ごして来たが、いつまた襲われるか判らない。
此処は古来から伝わる名言に則って、逃げるが勝ちなのだ
「我もそうするつもりだったのじゃが、おんしが戦える人間と判った今、
おんしを鍛えあげた方が生存率が高くなりそうじゃからの」
そう、凛の奴、この間から修業修業と煩い。
おかげで此処何日間か僅かな睡眠時間の前に腕立て伏せと腹筋をやらされる羽目になっていた
「あのね、俺は一般人ですよ? ロープレとかなら『東の洞窟には怪物が一杯出るでよ』とか何とか言ってる程度の人間ですよ?」
「あれはあれで重要じゃろ? いなければ目的地が判らぬ。そしておんしは村人Aでは無い」
「むぅ……」
確かにちょっと不思議な少年って感じではあるけど、基本はやっぱり一般へたれ人だ
「って言われても、あれ以来刀は出ないし……」
魔犬を倒した日以来、何度か召喚を試みてみたものの、刀が出る事は無かった。
それどころか刀の代わりに警察官を何度も召喚してしまう
まぁ確かに夜中、河川敷や森の中で訳の判らない事を叫んでいる奴を見掛けたら、通報の一つや二つはするだろう
「と、言うわけで、やらん!」
腹筋と腕立て伏せも回数を減らす!
「ふむ、確かに召喚は出来んかった。しかし霊峰と呼ばれる場所ならば届くかも知れぬ」
凛はバックから指だけを出し、それを指差す
「富士じゃ。さぁ剣之助よ、樹海にれっつごー、じゃ」
「殺す気か!?」
二時間後
「やって来ました富士の樹海。今日は何をするのかな、オネエサン」
「うむ。刀の召喚を自然に出来る様にする為の実験じゃよケン坊」
結局やって来てしまった富士の樹海。
まだ昼頃なのだがほのかに薄暗く、鬱々と茂る草や弱々しく立つ不気味な木々と、妙な冷気のせいで気分は下降しっぱなし
「浅いとは言え、此処は既に幻世。虚し身は現し身へと変わり、その手に届こうぞ」
何を言っているんだコイツはって感じではあるがこれほど人が来ない場所も無いだろう。
此処は凛の言う通り、生き延びる為にせめて刀だけでも呼べる様にしておきたい
「……判った」
俺は目を閉じ、深呼吸をする
「うむ。先ずは集中するのじゃ。そして刀の形を想いを温度を感じとれ」
「………………全く感じとれないのですけども」
「む……なら勢いで行くか……よし! 気合いじゃ剣之助! 猛る己の心が、その身に宿る力を呼び起こす!! さぁ、今こそ喚べい剣之助! 闇より生じ、闇を裂く紫雷纏う烏の名を!!」
「お、おっしゃー!! 行くぜ、紫雷、子烏丸一刀! 今こそ俺にその力を貸せぃ!! うおりゃあああぁぁぁぁぁ………………。」
反応が全く無い
「む。……雅が足りぬのかも?」
「紫電、子烏丸一刀!! 出て来てたもれ~」
シーン
「優しさが足りぬ」
「さぁ子烏丸。恥ずかしがらずに出て来てたも~れ~?」
シーン
「うむ、やはり無理か」
「判ってるならやらせるなよ!」
恥ずかしい事させやがって!
「すまぬ、すまぬ。しかしあれじゃな。中々上手く行かぬものじゃな……ふふ」
「今、笑ったな!」
「笑っとらんよ?」
「いーや笑った! 超馬鹿にした目で笑ったもんね!!」
「剣之助よ、それは己に自身を持たぬが為の被害妄想じゃ。
自身を持てい剣之助。おんしは我の命の恩人で勇気ある者。決して世に恥じる事無い勇者ぞ」
「そ、そうかな?」
クラゲから勇者にクラスチェンジ?
「だから笑われたぐらいでめげるで無い」
「結局笑ったんかい!」