二章 5
ジジジジジジジ
虫が集まる夜の電灯が出す不快音。刃も柄も黒い刀から、妖気の様な紫雷が沸き立つ
「…………」
始めて見る刀。異様な事態
だが、何故か刀は良く手に馴染み、懐かしさを感じさせた
「……久しぶり、小烏丸」
ブーンと刀が震える
「っ! 挨拶は後じゃ、振るえ、剣之助!!」
「ああ」
大口を開け、喉元を目指し飛び掛かる魔犬。
その速度は普通の犬を遥かに越えている
自然に、ごくごく自然に身体が動いた。流れる剣跡、左から右へ一本の紫線が走る
「ギッ!」
牙をかわした俺を飛び越え、地へと着地する魔犬
「うむ、見事じゃ!」
凛の賛辞と共に魔犬の頭は上半分が切り落ちる
「…………ありがとな、小烏丸」
シュっと煙の様に大気に溶け、消える小烏丸。そして……
ドサ
犬が倒れる音
「………………」
殺したんだな、俺は
「……魔犬は望まぬ生を受け、その生が尽きる時まで利用される憐れな獣よ。死してようやく自由になれるのじゃ
剣之助。生物を殺したその痛み、忘れる必要は無い。だが、死んだ者の念を心に残してはいかんぞ。おんしは生きておるのじゃから」
……。ありがとな、凛
「…………しっかし、何だったんだあの刀!? てか、マジで眠っていた能力が目覚めやがったな俺!」
「我は確信しておったぞコヤツならやれると」
「嘘つけ!」
軽口で自分をごまかす。ごまかさなければ、この身体の震えは止まりそうに無い
……怖い。刀や魔剣が、じゃない
余りにも現実的では無いここ何日間の異常に、不可解な自分自身。
その二つに対し、この期に及んでも、何の違和感を抱かない事が、凄く怖かった
「……この刀は小烏丸。鈴華が持つ刀の中で、最も身体への負担が掛からぬ物じゃ。
恐らく我の身を案じた鈴華が、おんしに残したものじゃろう。そして我を救おうとするおんしの強い精神に、刀が応えた。
……今の我には力なき故、このような推測しか出来ぬ。……すまぬの剣之助、おんしの不安を晴らしてやれぬ」
凛は、すまなそうにそう言い、俺の前に来る
そして、俺の顔を見上げて言った
「助かったぞ、剣之助。ありがとう」
子供らしい、満面の笑顔で