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第7話 冒険者ギルド

目的地の冒険者ギルドで情報収集をおこないます。

 翌日、宿で朝食を取った俺は、トマスの冒険者ギルドにやって来た。



 昨日御者の老人に聞いた通り、メイン通りで一番目立つ、王都のギルドより一回り大きいが装飾も少なく無骨な感じの建物だった。

 辺境では魔獣討伐の依頼が多いようで冒険者も多いらしく、入口に立つと中から喧騒が聞こえてきた。


 両開きになった入口の扉を開けて中に入ると、ギルド内は色々な武器を携えた冒険者で溢れていた。

 大剣を背負った者、弓と矢筒を身に付けた者など様々だが、やっぱり一番多いのは剣を腰に差した冒険者だった。杖を持ってローブを着ている魔法使いと思われる冒険者も数人だが目に入った。

 危険な依頼が多いのか熟練の冒険者が多いようで、初心者や若年の冒険者はあまり見当たらなかった。

 そんな中で、見た目は俺も剣を持った冒険者に見えなくもないかも知れない。


 建物の奥の方には食事ができるスペースがあり、こちらにも朝からエールを飲んで騒いでいる者も多数いた。

 冒険者はやはり危険な職業だからか、女性もいるが男性の比率が高いようだ。



 周りを見回しながら歩いていると、壁の前に人だかりができていた。近づいて見てみると壁には掲示スペースがあり、依頼書と思われる紙が一面に貼り付けられていた。

 依頼内容は、草刈りや溝掃除など町の中での手伝いから、薬草の採取、希少鉱物の採掘、魔獣の討伐など様々だった。


 それらの依頼書の中に、ドラゴンに関するものがないかと思い見ていったが、見つけることはできなかった。



 ギルドの受付前には冒険者の列ができていたので、少し様子を見てからにしようと考え、ギルド内食堂に行くと、ひげ面で体格の良い冒険者が1人でエールを飲んでいるのを見かけた。

 少し情報収集をしてみようかとその冒険者がいるテーブルに近づいて声をかけた。


「この席に座ってもいいかな?」


 その冒険者は俺の方をちらっと見て答えた。


「ああ、いいぞ」

「朝からエールを飲んでいるのか?」

「依頼で徹夜になったからな。さっきトマスに帰ってきたところだ。仕事のあとのエールは一段と美味いぞ」

「そうか、じゃあ俺にもう一杯をおごらせてくれ」

「ああ、遠慮なくいただこう」


 ウエイトレスを呼んでエールと果汁水を頼んだ。


「お前、見慣れない顔だな。何か聞きたいことがあるのか?」

「ああ、俺は昨日このトマスに着いたところだ」

「こんな辺境の町に何をしに来たんだ?」

「実は訳あってドラゴンについて調査しているんだが、このトマスなら何か情報があるんじゃないかと聞いたんだ」

「ドラゴン? そんな伝説上の生き物なんて、知ってるやつなんてほとんどいないんじゃないか」

「やっぱりそうか。あんたも、どんな些細な事でもいいから、何かドラゴンに関することを聞いたりしたことがないか?」

「そうだな、俺はドラゴンのことは知らないが、もしかするとギルド職員のシェリーなら知ってるかもしれない。彼女はギルドの職員になってから長いからな」

「そうなのか?」

「ああ。ただし、彼女に歳のことだけは言っちゃだめだぞ。殺されるぞ」

「それは恐ろしいな。ところで、そのシェリーってのはどこにいるんだ?」

「普段はたいてい受付にいるから、今日も受付のどこかにいるんじゃないか?」

「そうか、ありがとう。聞いてみるよ」

「くれぐれも歳のことは口にするなよ」

「ああ、気を付けておくよ」

「それから、俺が言ったことも言うなよ」


 俺は苦笑いで返した。


 ひげ面の冒険者と話しているうちに、少しずつ受付に並んでいる人数が減っていた。俺はそのひげ面の冒険者に礼を言って受付の列に並んだ。



 受付は2人の女性が対応をしており、並んでいる人数に差があった。1人は若い女性、もう1人はやや(?)年上の女性で、あきらかに若い女性に並んでいる男の冒険者が多い。若い女性は笑顔で対応しており、もう1人の女性は、淡々と冒険者の相手をしているといった感じだった。


 俺はどちらでも早く話を聞ければ良いと思い、並んでいる人数が少ない列の後ろに加わった。




 周りの様子を何気なく見渡しながら順番を待っていると、受付の女性から声を掛けられた。


「次の方どうぞ」

「ああ、俺か」

「冒険者ではないようですが、今日はどういったご用件ですか?」


 あれっ? 冒険者じゃないってそんなに俺はわかりやすいのかな? 自分では冒険者っぽく見えるかと思ったのだけどな。


「ギルド職員の、シェリーという人と話がしたいんだけど」

「確かにギルドにはシェリーはいますが、どういったご用件ですか?」

「俺の名はシゲルと言って旅の者だ。ドラゴンについて調べているんだが、シェリーという人がドラゴンのことを知っているかもしれないと聞いたものでね」

「何のためにドラゴンのことを調べているのですか?」

「うーん、まぁ一言でいえば依頼を受けたからだな」

「そうですか、シェリーは私です」

「えっ! そうなのか?」


 俺は改めてまじまじとシェリーの顔を見た。若くはないが、かといって年寄りとも思えず、年齢不詳って感じのけっこうな美人だった。

 シェリーは先ほどまでの冒険者への対応とは変わって、俺に向かって少し微笑んだ。

 俺は彼女の年齢について考えたことを悟られたのかと、先ほどのひげ面の冒険者に言われたことを思い出して、内心ドキっとした。


「受付業務が終わるまで、少し待って頂けますか?」

「分かった、向こうで飲み物でも飲んでいるよ」

「それでは後ほど声をかけますので、それまでお待ちください」


 俺はギルドの食堂に戻って、ウエイトレスにもう一度果汁水を注文した。




 しばらくするとギルド内の冒険者も少なくなり、残っているのはエールで酔って寝ている数人だけとなった。


「シゲル様、お待たせしました」


 名前を呼ばれて振り向くと、先ほどまで受付にいたシェリーが立っていた。


「席に座ってもよろしいですか?」

「どうぞ」


 シェリーはギルド職員の制服と思われる、薄い青色のブラウスに濃色のタイトなスカートという服装で、テーブルの向かい席に座った。


「それで、どういったことを聞きたいのですか?」

「ドラゴンのことを調べて旅をしているんだが、とにかく少しでも知っていることを教えてほしい」


 さすがにここでドラゴンを討伐するつもりだなんて言ったりすると、色々怪しまれても困ると思い、ドラゴンのことを調べているということで話を進めた。


「私の知っていることって、一般的に知られていることとそんなに変わりないですよ」

「何でもいいんだ」

「そうですか。このトマスの町の周辺に広がる魔境の森の中には、町から北の方向に山岳地帯があり、その中でも特に標高の高いケーテックと呼ばれている霊峰があります。アメルダスタ王国内にドラゴンがいるとすると、その霊峰の山頂でしょう。ただ、聞いた話では100年以上前に目撃されて以来、誰も見たことがありません」

「なるほど、ドラゴンを見ることができる可能性のあるのはそのケーテックの霊峰だけということか」

「もしケーテックにドラゴンがいたとしても、目撃することはほとんど不可能だと思いますよ」

「それはどうして?」

「ドラゴンは縄張り意識がとても強くて、棲み処に近づく他の生物をすべて排除すると言われています」

「つまり、ドラゴンの縄張りに入ってしまったら、生きて帰ってこれないと?」

「そういうことです。だからこの100年以上の間、目撃情報すら無いのかもしれません」

「困ったな」

「ドラゴンの情報だけでなく、ドラゴンを見る必要があるのですか?」

「そうなんだ」

「どうして、そんなにドラゴンのことが知りたいのですか?」

「いやぁ、雇い主からの指令なんだよな」

「そうですか、その雇い主様はどうしてドラゴンのことを調べているのでしょうか?」

「うーん、単なる興味から、かな?」

「でしたら、目撃できませんでしたと帰って言った方が身のためですよ。それともドラゴンを目撃できなかったら依頼に失敗したということになるのですか?」

「うん、そうだな。失敗したと言って罵倒されるかな?」

「命あってのことですよ」

「まあそうだよねぇ」

「判断されるのはあなたご自身ですから、私は無理には止めませんけど、お勧めはしません」


 お嬢様の失望した顔を思い浮かべて気が沈んだが、死んでしまってはその顔さえ見られなくなるのかと思うとまだ罵倒された方がマシかもしれないな。


「ま、ちょっと考えてみるよ」

「それが良いかと思います。それでは私はこれで」

「あっ! ちょっと待って。最後に聞きたいことが」

「はい、何でしょう?」

「今まで、過去にドラゴンを討伐したっていう話は聞いたことはないかな?」

「聞いたことはないですけど、ドラゴンの牙が王国の国宝となっているという噂は聞いたことがあるので、もしかしたら過去には討伐に成功した例があるのかもしれませんね」

「そうか、ありがとう。助かったよ」



 シェリーが席を立ち去ってから俺はしばらく1人で考えていた。

 ドラゴンの討伐って思っていた以上に難しいようだ。しかし、せっかくこんな辺境の町まで来たのに何の成果もなしで帰ったら、お嬢様になんて言われるかわからないな。それに伯爵夫人にも頼まれているから手ぶらで帰るわけにはいかないしな。


 俺は、今後どうするかを考えながら冒険者ギルドを後にした。

1話毎の話が長かったようなので、7話以降の構成を見直しました。(全15話予定→全20話予定に変更です)

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