第17話 岩山へ
魔法剣の試し切りをしつつ岩山へ向かいます。
翌朝、俺はいつも愛用していた剣を収納鞄に入れ、昨日買った魔法剣を腰に差して出かけた。今日は魔法剣の試し切りをするつもりだった。
昨日、町中の探索時に食料品やら必要なものは買い揃えていたので、今朝も屋台で朝食を取り、ついでに昼食に食べられそうな料理も買って冒険者ギルドに向かった。
昨日と同じくらい朝早くギルドに行ったので、今日もギルド内は冒険者で溢れかえっていた。ギルドの中に入り、昨日会ったエリとセーラを探して冒険者たちを見渡していると、後ろから声をかけられた。
「シゲル、おはよう」
「ああ、おはよう」
エリとセーラが並んで立っていた。2人とも美人で背が高く、男だらけの冒険者ギルドの中で女性2人が並んでいるのはけっこう目立つ。エリは金属製の胸当てと肩当てをつけ左手には金属製のバックル、そして膝までの革のブーツを履いて両手剣を背負っていた。セーラは革製の鎧を身に付けて、同じく革のブーツを履いて、背中には弓と矢筒を装備していた。
2人ともBランクだと言ってたから、このギルドでも有名なんだろう。さっきから俺に、周りの冒険者たちからの視線が刺さっていた。
「ちゃんとギルドに指名依頼をしてくれてたようね」
「約束したからな」
「昨日の話と依頼票でだいたいのことは分かったけど、どうする? このまま東の岩山に向かう?」
「いや、目的地までのルートと計画を確認してから出発しよう」
「分かった。それじゃぁ奥で話そう」
俺とエリ、セーラの3人で飲食スペースに移動し、ルートと計画および日程を確認した。周辺の大まかな地図は昨日道具屋で買っていたので、その地図をテーブルに広げて打ち合わせた。
それにしても、ここでも周りの冒険者から見られている圧を感じた。俺はお嬢様のことしか気にしないから、この2人のことはどうでもいいのだが、妙に居心地の悪さがあった。
3人で歩いてロッテンの町を出てからしばらくは、街道を使ってそのまま東に向かった。街道の途中での分かれ道で岩山の方向に向かったが、ほとんど道がない草原の中をしばらく歩くと、地面から岩がむき出しになっている場所に出た。道らしき跡に沿って岩の間を縫うように登っていき、道から逸れないように注意しながらほとんど岩の斜面を登って行った。
ごつごつとした岩肌にはあまり草木は生えないようで、シダのような植物やコケが所々に生えていた。ほとんど日陰もない場所で、周りには隠れるような遮蔽物もない。
この岩山には、サラマンダーという大きなトカゲのような魔獣がいて、岩に擬態して近づいてくる生き物に突然火を吐いてくるので以外に厄介だ。擬態しているのを見破りさえすれば、強い魔獣ではないのでそれほど苦労せずに倒すことはできる。
俺は昨日買った魔法剣を試すのにちょうど良い練習相手だと、サラマンダーを見つける度に魔法剣で切りかかっていった。
何度か繰り返すうちに、この魔法剣の性質や使い方が分かってきた。
まず、身体強化は身体にかけずに剣だけに意識すれば、剣だけ魔力を帯びた状態にできることが分かった。剣をそのままの状態で使用するのと比べ、魔力を流した剣の切れ味が圧倒的に良い。切っているという感覚がなく、振り回しているだけで切れてたという感じだ。
使っているうちに、この切れ味が楽しくて仕方がなくなってきた。もっと強い魔獣に試してみたい。
そんな俺の様子を、エリとセーラはあきれたように見ていた。
「これ、依頼の内に警護っていうのは全然入ってないわよね。本当に道案内だけよね」
「本当、私たち必要なくない?」
そんな2人のやり取りを聞いて俺は、すかさずフォローを入れた。
「2人に来てもらって本当に助かってるぞ」
「あなた、けっこう腕が立つのね。それに、その収納鞄は反則じゃない。そんなに何でも入れられる収納鞄って見たことないんだけど」
さっきから俺が倒したサラマンダーを片っ端から収納鞄に放り込んでいたので、さすがに普通じゃないって気が付いたようだ。
それからもぶつぶつと文句を言ってくるエリとセーラをなだめながら、目的の岩山に向けて進んで行った。
しばらくサラマンダーを見つけては狩っていく行動を繰り返しながら岩山を登っていくと、少し平坦になった場所に出た。
「このあたりで休憩にしましょ」
エリの提案で、ここで昼食を取ることにした。
エリとセーラは周囲の警戒をしながら休憩の準備を始め、それぞれの鞄から携帯食と水筒を取り出した。
「昼食にと思って屋台で買ってきたんだが、食べないか?」
俺は収納鞄から、今朝買ったパンに肉と野菜をはさんでソースをかけた食べ物を、取り出した。
それは1つずつ紙袋で包んでおり、歩きながらでも食べやすいように包装されていた。
「何それ!」
「信じられない。普通は動きの邪魔にならないように荷物をできるだけ減らして来るものでしょう」
「そんな収納鞄持ってるなんて、うらやましい」
なんか彼女たちの本音が聞こえたが、そこは聞いてないふりをした。
「いらないのか?」
「「いるに決まってるでしょ!」」
見事に2人がハモった。
女性にはちょっと多いかなと思いつつ2つずつ渡したら、奪い取るように持っていかれた。
「美味しい!」
硬めのパンに、濃い目の味付けをして焼いた肉を何枚か薄く切ってのせ、その上に大きめにカットした野菜をのせてソースをかけ、その上に硬めのパンでサンドしているその食べ物は、温めても美味しそうだが、ソースが濃い味付けだからか冷めても美味い。
「町の外でこんな食事ができるなんて思ってもいなかったわ」
エリとセーラは2つずつ渡したのに、あっという間に完食してしまった。
さらに、食後に俺の特製ハーブ茶をふるまったら、すごく喜ばれた。