第14話 ロッテンへ
ロッテンの町に戻ってきます。
朝はいつものように夜明けとともに目が覚めた。寝付きが良かったのか朝の目覚めは爽快で、昨日の疲れはすっかり取れていた。
井戸で顔を洗った後、宿屋の食堂で朝食を取った。
今日の朝食は、硬めのパンとスープと卵料理だった。スープに入っていた大き目にカットされた野菜は柔らかく煮込まれていて、味が良くしみ込んでいて美味かった。卵料理は挽肉と野菜が入っていて、他の客を真似てパンに挟んで食べると、これも美味かった。
こういった冒険者が泊まるような安宿の食事にも慣れてきて、伯爵家で食べる料理とは別の楽しみも感じるようになった。
食べている間、食堂に姿を見なかったライドとキリアは、もう宿を出発したのだろう。馬車の護衛の仕事があるって言ってたからな。
宿を出てロッテンに向かうために馬車乗り場にやってくると、トマスにやってくるときに乗ったのと同じ馬車が止まっているのを見かけた。
俺がロッテン行きの馬車を探していると、不意に後ろから声をかけられた。
「おい、シゲルじゃないか」
振り向くとライドが立っていた。
「ライドか」
「馬車に乗るのか? どこまで行くんだ?」
「ロッテンに行くつもりだ」
「トマスでの用事は済んだのか?」
「ああ、霊峰も見られたし、ここでの目的は果たしたよ」
「じゃあ、俺たちが今日から護衛する馬車がロッテンにも寄るから、一緒に乗って行けばいいぞ。さあ、こっちだ」
ライドとキリアは王国から来た馬車の護衛の依頼を受けていたが、帰りの馬車も依頼に含まれており、同じ馬車に乗って王都まで帰るということだった。
帰りにもロッテン経由らしいので、同じ馬車に乗ればロッテンに行けると言われた。
さっき見た馬車は、やっぱりトマスに来るときに乗った馬車だったようだ。御者はトマスで交代するらしく、御者席にはトマスに来たときとは別の男が乗っていた。
馬車に案内されて乗り込むと、中にいたキリアが驚いていた。
「あれ? シゲルじゃない。どうしたのよ?」
ライドとキリアには、宿屋で昨夜に別れを言ったばかりだったのに、次の日に早々と会うとは思っていなかったので少し照れ臭かった。
「ロッテンに行こうと思ったら、ライドからこの馬車に乗ればいいって言われたんだ」
「そうなんだ」
心なしかキリアが嬉しそうにしているように見えた。
「ロッテンには、何かおもしろいものがあるの?」
「まぁな」
「ふぅん。シゲルのことだから、また変なもの目的なんじゃない?」
当たらずとも遠からずって感じだな。やはりキリアは鋭いな。
そんな会話を交わしているうちに他の乗客も乗り込み、間もなく馬車は定刻通りに出発した。行きに比べ帰りの方が乗客は多く、俺のほかに5人乗っていた。若い男女の2人組と他は男ばかりだった。
この馬車に8人乗ると、さすがに狭く感じるな。
俺はトマスに来るのは初めてだったので、やってくるときに周りの景色はじゅうぶん堪能した。なので、ロッテンへの戻りは、馬車の中でできるだけ目をつぶって寝て過ごすようにした。
キリアが話したそうに時々視線を向けてくるが、護衛任務の最中なのでライドにたしなめられていた。
馬車は途中で魔獣に後をつけられたようだが、結局最後まで襲ってくることはなかった。ライドとキリアはずっと周りを気にして、時々威嚇のためか、キリアが魔法を何度か放っていたが、ロッテンの町が見える場所まで来ると安心したようだった。
俺は強力な魔獣の気配がなかったので、対処はライドとキリアに任せて馬車の中で眠っていた。
ロッテンに到着したのは夕刻少し前であった。
ロッテンで俺は前回と同じ場所に泊まろうと思っていたので、覚えていた道を歩いて宿に向かった。ロッテンの町は前回と同じように、労働者や冒険者で賑わっていた。
町の中を通って宿の前にやって来ると、入口の前で前回やって来たときに受付をしていた年配の女性に会った。
「いらっしゃいませ。あれっ、お客様はこの前お泊りいただいた方ですよね。今日もご宿泊ですか?」
「ああそうだ」
「ありがとうございます」
「前回は1泊しかしていないのだけど、よく覚えていたな」
「はい、お客様の顔はまたいつ来ていただいても良いように、できるだけ覚えるようにしています。さあ、どうぞこちらに」
女性に案内されて宿に入って宿泊の手続きを終え、部屋に入って荷物を置いたのだが、ロッテンに到着して馬車から降りる際に、ライドとキリアに一緒に食事をと誘われていたので、休む暇もなくすぐに出かけることにした。
店の名前は聞いていたので、宿の女性に場所を確認して繁華街に向かった。
町の中は夕暮れで薄暗くなっていたが、繁華街はあちこちで明りを灯しており、昼間と変わらない明るさだった。
教えてもらった通り繁華街の中を歩いて行くと、店の場所はすぐに分かった。店の入口の上に大きな看板がかかっており、その看板を確認して中に入った。
人気のある店なのだろう、中はすでに多くの客で溢れかえっていた。おかげでどこのテーブルもいっぱいになっていたが、店の中を見回すと手を振っているキリアの姿が見えた。ライドも座ってこちらを見ている。
「遅くなった」
「いや、俺らも今来たとこだ」
「そんなことより、のどが渇いたから早くエールを頼もうよ」
「そうだな」
その晩はエールをたくさん飲んで、主にライドとキリアの冒険者話で盛り上がった。ライドの冒険者として活動し始めた頃の話や、キリアとの出会いとコンビ結成に至る話など、聞いていてなかなかおもしろかった。
「明日も早いし、そろそろ終いにするか」
「そうね。ライドにこれ以上飲ますと、明日は仕事どころじゃなくなるわ」
「そんなに飲んで、明日は大丈夫なのか?」
「だいじょうぶだ。エールなんて俺にとっちゃ水みたいなもんだ」
「なに言ってんの。飲み過ぎよ」
ライドは足元もおぼつかない状態で、キリアに支えられながら宿に戻って行った。
俺もずいぶん久しぶりに気分よく酒を飲んだ。毎日こんなに楽しいエールを飲めて、冒険者っていうのも悪くないかもな。でも、俺はやっぱりお嬢様が一番だけどな。