第1話:スライムさんのお悩み
「続いてのお便りです。
『はじめまして。初めてお便り送らせていただきました。始まりの街周辺で活動しています、スライムと申します。始まりの街では今日も勇者志望の方々がレベルアップのために散策しており、僕も見つけられては倒されるという毎日を送っています。彼らのレベルも低いのでそこまで痛くはないのですが、こんな毎日が続くのが嫌です。ユキトさんのアドバイスが欲しいです。』
とのメールです。」
この世界は、勇者と魔王がいる世界。でも、種族によっては友好関係を結んでいる種族もいる。
人間、魔族、犬族、猫族、天使とまぁ色とりどりの世界である。
いろんな思想や感情、派閥が渦巻く中、今この時、このラジオを聴いている間はそんなことを忘れてほしいという願いがある。
とは言うものの、リスナーからの相談にうまく返せない日も多くある。というかそんな日々ばかりである。
正直、本当にこの仕事あっているのかと疑心暗鬼ばかり。
この世界に来るまではまさか自分がラジオでDJをするなんて考えられない、というか飛躍した話だ。
「スライムさん。あなたの辛さ分かります。
単調な日々の中、自分の在り方を見つけるのが難しい。
下積みはいつまで続くか分からない。
痛みにいつまで耐えればわからない。
正当に評価されているか分からない。」
僕は話しながら、まとまらない頭の中を回し、昔の自分を思い出していた。
いつだって己の経験に当てはめる。
「私も以前、苦しみの中身体を自由に動かせない時期が実はあるんです。
それこそ何年間も。終わりの見えない。
結局その戦いで僕は負けてしまったかもしれない。
でも、今ここであなたの相談を聞くことが出来ている。
苦しみの種類は違おうとも、その痛みを分かろうとすることが出来ている。
苦しい時期というのは皆ある。大なり小なり。
その苦しみ、痛みとどう向き合うのか、その経験は必ず未来のあなたを彩るために必要になると思う。」
DJはしょせん何も解決はできない。
優しい言葉や欲しい言葉位が送れてせいぜい。
時にはこの言葉違うと思うこともあるだろう。
「もちろん逃げてもいい。
あなたが輝く場所なんてたくさんある。
それでも今の場所で戦うなら僕は全力で応援する。」
放送時間が終わり数分が経ったとき、スタッフに言われた。
「ユキトは魔王軍に対して応援しちゃったけど大丈夫?」
無論、一人間の立場だ。種族としてはダメだろう。
でもこのラジオは魔王軍だから聴けないという縛りはない。
「僕はただこのラジオを聴いてくれる方なら、種族関係なく立場関係なく助けてあげたいだけですよ。生きているうちに手を差し伸べてあげて助ける事なんて手の数折れるくらいだよ。
僕はDJとして悩みながら、助けたり楽しく過ごせる場所が作りたいだけだよ。」
ラジオごときで世界は変えれない。
でも、ラジオで何か心の足しにできるのなら…
僕は、この世界に来る前のことを思い出す。
所々ノイズが入る言葉を何とか思い出そうと…
この作品を私の青春時代を彩ったラジオSCHOOL OF LOCKのやましげ校長・やしろ教頭・スタッフ陣に捧げます。