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99.【王都2 モーリス王子の政策】

「クリス様のおっしゃる通り、謁見まで数日かかります。その間は王宮の近くの宿を確保しておりますので、そちらでおくつろぎください」

「お気遣い頂き、ありがとうございます」


 謁見前の数日間は王都を楽しめそうだ。


「平民の方をお招きする上で、当然の配慮です。まぁ、モーリス受け売りですが」

「モーリス王子が?」

「ええ。モーリスの主な方針として『優秀な平民を取り立てて国の役にやってもらう』という方針がありまして、最近、平民が登城する機会が増えております。ですが、謁見までの間、王都の宿で待機して頂くのは、平民の方に負担になると、モーリスが『登城する平民』専用の宿を作ったのですよ」

「それは……ずいぶん思い切った方針ですね」

「そうですね。当初は『モーリス王子は王族としての誇りを失われた』とか『王都が穢されてしまう』とかさんざん言われていましたが、いざ、政策が始まると、取り立てられた平民達のおかげで、経済が豊かになり、今では恩恵を受けている貴族も多いんです。まぁそのせいで次期国王にモーリスをという声が高まってしまい、別の問題が発生しているのですが……」


 出る杭は打たれる。国王の椅子が1つしかない以上、有力な候補は協力してつぶされるだろう。父さんやミッシェルさんが危惧していた、王子達の勢力争いだ。


(色々大変そうだな。……それにしても、モーリス王子って9歳だよな? 優秀過ぎない? 発想も()()だし、まさか……)


 幼いながらも優秀と名高いモーリス王子。その政策はこの世界では斬新な物でも、元日本人の俺にとってなじみやすい物だ。


(……確証はないけど、モーリス王子自身、もしくはその周りに転生者がいると思っておいた方が良いな)


「見えてきました。あちらが、『登城する平民』専用の宿です。宿にはモーリスがこだわった『露天風呂』もありますので、ぜひご堪能下さい」


(……いや、モーリス王子自身が転生者だな。確証はないけど……)


 それまで不安でしかなかったモーリス王子との謁見が少しだけ楽しみになった。




 宿に着くとさっそく部屋に案内される。案内された部屋が2人部屋だったので、それぞれ別れて部屋に入った。部屋割りは父さんと母さん、クリスとユリ、そして俺とバミューダ君だ。


「お兄ちゃん、クリス様と同じ部屋じゃなくていいの?」

「ユリ様!?」


 ユリがニヤニヤしながら聞いてきた。後ろではクリスがうろたえている


「ダメに決まってるだろ。ブリスタ子爵に殺される」

「えー責任取ればいいんじゃないの?」

「いいわけあるか!」

「あははは」


 ユリは冗談で言っているのだろうが、後ろのクリスが、湯気が出そうなほど顔を真っ赤にしているからやめて欲しい。


「それじゃ、クリス様。晩御飯の時間までお兄ちゃんの事でも盛り上がりましょう!」

「え? え?」


 ユリに連れられてクリスも部屋に入って行った。


「まったく……。俺達も部屋に行こうか」

「はい……です」


 部屋について荷物を置いて一息つく。割り当てられた部屋は、高級感を醸し出してはいるが、過度に装飾品があるわけでもなく、平民の俺達でも十分に落ち着ける空間となっていた。


(これもモーリス王子の趣向かな)


「さてと……晩御飯までバミューダ君は何かしたいことある?」

「えっと……ミーナ様に手紙書きたい……です」


 ブリスタ子爵邸やミッシェルさんのお屋敷でもバミューダ君はミーナ様と手紙のやり取りをしていた。


「お、いいね。それじゃ俺は……散歩でもしてこようかな」


 特にやりたいことが思い浮かばなかったので、周囲を散策することにした。


「1人で大丈夫? ……です?」

「そんなに遠くには行かないから大丈夫だよ。一応父さん達には声かけて行くね」

「分かった……です。いってらっしゃい……です」

「行ってきます」


 父さん達に声をかけてから宿の外に向かう。


「あら? アレン様? どうされたんですか?」


 宿の入口でシャル様に声を掛けられた。


「少し時間があるので、この辺りを散策しようかなと」

「お一人で、ですか? クリス様は?」

「クリスは……ユリに捕まっています」


 俺の話で盛り上がると言っていたので、声をかけるのが憚られたのだ。


「そうですか……それでは、アレン様。私と一緒に散策しませんか?」

「え?」

「いけません! シャル様!」


 シャル様からの提案にターニャさんが反応する


「いい加減、護衛を休ませてあげてください。昨日から――え? あ、いえ。そういうわけでは……ですが……」


 ターニャさんが耳に手を当てて喋り出した。


「はぁ……暗くなるまでなら大丈夫だそうです」

「ありがとう。()()にもお礼を言っておいてね」


 どうやら護衛の方と連絡をしていたようだ。


「というわけですので、行きましょう。アレン様」


 護衛の方とターニャさんの許可を得たシャル様が歩き出そうとする。


「ま、待ってください!」

「? どうかされたのですか?」

「いや、私とシャル様が散策って……いいんですか?」


 俺はクリス様と正式に婚約している身だ。そんな俺がシャル様と散策したら、それは、醜聞になってしまう。特に王族であるシャル様の醜聞は大問題だ。そう思ったのだが……。


「大丈夫です。ターニャも一緒ですから。それに、今更ですよ」

「へ?」

「私がクランフォード商会の従業員面接を受けたことは情報に敏い者なら知っています。また、今回の『整形』の件では、正式に私がアレン様の後ろ盾になっています。これで私とアレンの繋がりに気付けない愚か者はいません。しかし、アレン様はクリス様と正式に婚約を結んでおり、今回の登城に際して、クリス様を同伴させています。見識ある者なら、私とアレン様が男女の仲ではなく、ビジネスパートナーであることは分かるでしょう」

「な、なるほど……?」


 シャル様が自信満々で言い切るため、思わずうなずいてしまった。


(俺が『婚約者を同伴させた上堂々と浮気するクズ野郎』な可能性もあるとおもうんだけど……まぁいいか)


「ですので、行きましょう、アレン様。少し歩きたい気分なんです」

「分かりました」


 そうして、俺はシャル様と一緒に歩き出した。

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