表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/214

97.【サーシスの傷跡13 笑顔】

サーシスの傷跡編、最終話です。

 その後、一連の流れをシャル様が回復魔法をかけながら実施する。結果として、『皮の修復』も『骨の修復』も痛み無く行えることが出来た。


「アレンはん、これで『実験』は完了か?」

「そうですね……後は経過観察して、問題が無ければ完了です。残すは本番のみですね」

「本番……せやな。まだ本番があるんやな。ここで気を抜いたら、また誰かさんに怒られてまう。気を引き締めんとな」


 ミッシェルさんの言葉にミルキアーナ男爵が顔をしかめるが、特に反論はしなかった。


「なんにせよ、『実験』はこれでひと段落です。皆様、ご協力ありがとうございました!」


 この場にいる誰一人かけても『実験』は成功しなかっただろう。俺は感謝の意を込めて、その場の皆に向かって頭を下げた。


「何言っとるん。感謝するんはこっちの方やで?」

「そうですよ? アレン様のおかげで被害者達にさらなる支援が出来るんですから。まさに偉業です。誇って良いんですよ?」

「そうだな。もともとは私らの不手際のせいで拡大してしまったサーシスの被害者達だが、アレン殿のおかげで、彼女らに報いることが出来そうだ。感謝する」


 口々にお礼を言われて恥ずかしくなってしまう。


「アレン。わたくしのわがままを叶えてくださり、ありがとうございました」

「クリス……ううん」


 きっかけはクリスの願いだった。だけど……。


「もう、俺の願いでもあるんだ。あと少し。一緒に頑張ろう!」

「はい!」




 3日後、『材料』の状態を確認した。顔も指も、どこに痕があったのか分からないほど、綺麗な状態だ。これなら、被害者達に実施しても大丈夫だろう。


「ミルキアーナ男爵、ご協力頂き、ありがとうございました。『これ』、お返しします」

「礼には及ばん。先日も行ったが礼を言うのは私達の方だ。『これ』も綺麗にしてもらえたし、皆も喜ぶだろう」

「ひっ!」


 『材料』がおびえた表情を見せる。


「そういえば、『これ』には何をやらせていたんですか? 私達と同じように被害者達の家を回っているとのことでしたが、『これ』を連れて行ってもろくなことにならないと思うのですが……」


 被害者達のもとに『これ』を連れて行ってもいいことがあるとは思えなかった。むしろ、恐怖を与えてしまうだけだろう。


「ん? ああ、言ってなかったか。私達が回っている家は、正しくは遺族達の家だ」

「それって……」

「娘が帰ることが出来なかった家……だな」


 サーシスの被害者達の中には無くなってしまった娘もいる。


「……大丈夫なんですか?」

「難しいな。立ち直れそうな者もいるが、折れてしまっている者もいる。部下達に見張らせているが、自殺を図るものも多い。『これ』をおもちゃにして気晴らしさせてはいるが、心が晴れることはないだろうな……」


 家族を失う気持ちは俺には分からない。だが、心が折れてしまうほど辛い事だと想像は出来る。


「そう……ですよね。……………………あの、ミルキアーナ男爵は大丈夫ですか?」

「は? ……なんだ? 心配してくれるのか?」

「……それは……まぁ」

「……ふっ。まぁ大丈夫だと言えば嘘になるな。だが、『あれ』の管理は私の仕事だ。誰かがやらねばならぬ仕事である以上、私がやる。気遣いは無用だ」


(馬鹿か俺は……大丈夫ないわけないだろ……)


 ミルキアーナ男爵の言葉には覚悟と信念、そして責任感が宿っていた。


「変なことを聞いてしまい、申し訳ありません。そちらで私に手伝えることがあったら言ってください」

「……必要ならばそうさせてもらう。だが、貴殿には今、他にやろうとしていることがあるのだろう? アナベーラ会頭から聞いている。まずはそちらに集中しろ」

「……そうですね。はい、頑張ります」

「うむ。では、またな」


 そう言葉を残し、ミルキアーナ男爵はサーシスを連れて屋敷を後にした。




【1週間後】


 ミッシェルさんの屋敷に続々とお客さんが集まってくる。


「アナベーラ様。今日はお招きいただき、ありがとうございます」

「よう来られたな。堅苦しいんは抜きにして今日は楽しんで行ってや」

「はい!」


 お客さんはサーシスの被害にあった子供とその家族達だ。所狭しと並んだ料理やおもちゃを手に皆思い思いに楽しんでいる。


「あ、アレン様!」


 1人の女の子が俺を見つけて駆け寄ってきた。


「こんにちは、ケイミ―ちゃん。前にも言ったけど、『様』はいらないよ」

「あ、そっか。ねぇねぇ、竹とんぼ飛ばせるようになったの! 一緒に遊ぼ!」

「いいよ、行こうか」


 以前あった時、顔の半分がただれていたケイミ―ちゃんだが、今はすっかり元の顔を取り戻している。後ろでは両親が微笑ましそうにケイミ―ちゃんを見つめていた。


「あ、アレンさんだ!」


 皆が竹とんぼを飛ばしている庭に行くと、リーシアちゃんが車椅子で駆け寄ってくる。もう、車椅子の操作はお手の物のようだ。


「こんにちは、リーシアちゃん。楽しんでる?」

「うん! いま、アーネストちゃんと竹とんぼで競争してたの!」


 ちょうどその時、庭の隅からアーネストちゃんがやってきた。


「うぅ、飛ばしすぎちゃった……」


 どうやら竹とんぼを飛ばし過ぎて取りに行っていたようだ。そんな彼女の手はすっかり元通りになっている。


「飛ばし過ぎだよー」

「だってー、リーシアちゃん上手いんだもん……あ、アレンさん! こんにちは!」

「こんにちは。竹とんぼ楽しい?」

「うん! 楽しい! アレンさんが作ったんでしょ? ありがとう!」

「どういたしまして……ん?」


 俺がアーネストちゃん達と話しているとケイミ―ちゃんに腕を引っ張られた。


「どうしたの?」

「……わ、私も……みんなと……」


 他人の目を怖がっていたケイミ―ちゃんが人と関わろうとしている。そのことがたまらなく嬉しかった。俺は、アーネストちゃん達にケイミ―ちゃんを紹介する。


「皆、彼女はケイミ―ちゃん。竹とんぼで遊びたいんだって。一緒に遊んでくれるかな?」

「いいよー! 私、アーネスト。よろしくね、ケイミ―ちゃん!」

「あ、ずるい! 私、リーシア! 仲良くしてね」

「あ……うん! よろしく!」


 ケイミ―ちゃんは竹とんぼを手に皆の中に入っていた。


 3人はすぐに打ち解けたようで、一緒に竹とんぼを飛ばしている。その様子を少し離れたところで、ココちゃんが両親と一緒に見ていた。


 ココちゃんはまだしゃべることはできないようだが、両親曰く、感情を表すことが増えてきたそうだ。


 今も、飛んでいる竹とんぼを見て楽しそうにしている。


 料理のエリアでは、ライリーちゃんが美味しそうにハンバーグを食べていた。ミッシェルさんが今日のために王都から料理人を呼んだらしい。ライリーちゃんのご両親が、料理人からハンバーグの作り方を教わっている。


(ハンバーグの作り方なんて知らないからな……すでにこの世界にあって良かった)


「大成功……やな」


 皆の様子を眺めていると、ミッシェルさんに話しかけられた。


「ええ。皆、喜んでくれてよかったです」

「これを機に皆、前を向いてくれるとええんやけどな」

「……そうですね」


 出来る限りの事はしたつもりだが、被害者達の傷が完全に癒えたわけではない。辛い思いをしたという過去は変えられないし、疎遠になってしまった人との関係も簡単には戻らないだろう。それでも……。


「皆、笑ってます」

「……せやな」


 被害にあった女の子達も、その家族も、今この時だけは笑っていた。それは間違いない。なら……。


「何とかなりますよ。きっと」

「……ああ。せやな!」




 先日まで、被害者達は孤立していた。家族で支え合ってはいたが、それ以上の繋がりを持とうとすると、同情や憐みの視線にさらされてしまい、繋がりを持てずにいたそうだ。


 だが、今日、同じ境遇の人達と知り合うことが出来た。誰かが辛い目にあっても、支え合えるだけの繋がりが、今日結べたはずだ。


 これだけの人数の人が一緒に笑っていれば、きっと何とかなる。


 会場を見渡しながら、俺はそう感じた。

次回から新章です。

第3.1章としてサーシス視点の話を入れるか迷いましたが、物語が進まないため、4章に突入します!


ここまで読んで頂き、ありがとうございます!

少しでも、面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、ブックマーク、高評価を頂けると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ