94.【サーシスの傷跡11 再び実験】
『実験』が続きます。
属性魔法は生物に使うことは出来ない。だが、皮は生物ではない。
「わたくしの魔法でお腹の皮を頬の皮に変換してみます。そうすれば、上手くいくのではないでしょうか?」
皮が定着しない理由は、頬が皮を異物だと判断してしまって回復魔法をかけた際に取り込めていないためだ。ならば、属性魔法で頬の皮に変換してしまえば? 取り込んだ後であれば、魔法を解除しても定着するのではないだろうか。実際にはやってみないと分からない。もしかしたら解除した瞬間、剥がれ落ちてしまうかもしれない。……だが。
「やってみる価値はありそう……」
十分にそう思えた。
「凄い……凄いよクリス! いける気がする! さっそく――」
「――待ちなさい」
すぐにでも『実験』してみたかったが、母さんに止められる。
「お母さんストップよ、アレン。後1時間は休みなさい」
母さんがドクターストップみたいなことを言い出した。
「大丈夫だよ! もう何とも――」
「――アーレーン? さっきどうなったか忘れちゃったの?」
「い、いや。忘れてないけど……」
「心の傷は身体の傷と違って目に見えないけど、そう簡単には癒えないのよ。身体の元気が有り余ってるなら、トレーニングでもする?」
「休みます!」
思わず返事をしてしまう。
「せやで。休憩も取らんとこんな時間まで根詰めとったんや。ゆっくり休んだ方がええやろ。ちょうどええ時間やし、皆も呼んでお昼にしよや」
時計を見ると、確かにお昼の時間だった。
(『開発』を始めてからこんなに時間が経っているなんて……)
我ながら無我夢中だったようだ。食欲はなかったが、午後のためにもしっかり食べておく必要がある。
「そうですね……一旦、お昼にしましょう」
「よっしゃ! ミルキアーナ男爵も食べるやろ?」
「そうだな。頂くとしよう」
「ほなら、食堂に行きましょか。ほら、アレンはん、クリス様も」
「「はい!」」
皆で一緒に食堂に向かう。
食堂では、ユリ達が俺達を待っていた。
「お兄ちゃん……大丈夫?」
「お兄ちゃん……辛くない? ……です?」
俺達に気付いたユリとバミューダ君が心配してくれる。
「大丈夫だよ。心配してくれてありがと」
「……うん、本当に大丈夫みたいね。クリス様のおかげかな?」
「クリス様、さすが! ……です!」
2人とも色々察してくれた。その気遣いが今はありがたい。
「……あの、アレン様」
「ミケーラさん? ……って、どうしたんですか!?」
ミケーラさんが暗い顔で話しかけてきた。よく見ると、目が真っ赤に腫れている。
「昨日は……誠に申し訳ありませんでした!」
ミケーラさんが、地面につきそうな勢いで頭を下げた。
「へ!? え、なに……あ、あぁ! だ、大丈夫ですよ! 大丈夫ですので頭を上げてください!」
突然の事に驚いたが、昨日の夕食後の事だと気が付いた。俺はそこまで気にしていないので頭を上げて欲しかったのだが、ミケーラさんは頭を下げ続けている。
「ごめんね、アレン君。ミケーラがどうしても昨日の事を謝りたいって……」
「『開発』がどのようなものか理解せず、無責任に期待してプレッシャーをかけてしまいました。少し考えればわかることなのに……本当に申し訳ありません!」
確かに、皆の期待をプレッシャーに感じていたのは事実だ。しかし……
「大丈夫ですよ、ミケーラさん。この『開発』は、あの子達のために絶対やり遂げると自分で決めたことです。正直、辛いこともありますが、皆様からの期待をエネルギーに変えて頑張っています。だから謝らないでください」
皆の期待とか関係なく、途中でやめることは絶対に出来ないのだ。ならば、期待してもらった方が良い。
「アレン様……ありがとうございます。お心遣いに感謝致します。我々に出来ることがありましたら何なりとお申し付けください」
「うん! 頑張っちゃうよー! 何でも言ってね!」
「ありがとうございます。今でも十分助かっていますが、何かあったらお声がけしますね」
事実、マリーナさん達が竹とんぼや車いすの制作を担当してくれるから、俺は『開発』に注力できるのだ。今のままで十分に助かっている。
その後、運ばれてきた昼食を食べてから、『開発』を再開した。
(なんか……頭が軽い?)
頭にのしかかっていた重みがとれて、視界がクリアになった気がする。
(みんなに感謝だな……さてと)
「それじゃ『実験』を再開しよう。今回は、母さんが『材料』のお腹を切った後、クリスに属性魔法をかけてもらう。その後、頬を切って皮をあてて、回復魔法をかけた後、属性魔法を解除する。この流れで行ってみよう」
「「了解!(です!)」」
「ま、待て! 貴様ら……」
『材料』が騒ぎ出したが無視して『実験』をすすめる。
「母さん、クリス、準備は良い?」
「私は大丈夫よ」
「わたくしも大丈夫です」
「それじゃ、行くよ……母さん!」
午前中使っていた部分は深く切りすぎて傷跡が残ってしまったため、別の場所の皮を切る。幸いなことに、『材料』の腹は大きい。
「切れたわ。はいこれ」
「ありがとう。クリス、頼む!」
「はい!」
切り取られた皮を受け取り、クリスに合図する。クリスが皮に手をかざすと、皮が青い光に包まれる。心なしか、皮の色も濃くなった気がする。
「出来ました!」
「よし! 母さん!」
「しっ!」
短い掛け声とともに母さんが、『材料』の頬の火傷の痕を切り落とす。
「「アレン!」」
「うん!」
青く光る皮を頬にあてて回復魔法をかける。
「……どう?」
「まだわからないよ。クリス、属性魔法に違和感ある?」
「いえ、特には……あっ!」
クリスが声を上げた瞬間、皮を包んでいた青い光がはじけ飛ぶ。
「クリス! 大丈夫!?」
「……大丈夫です。少し驚いただけで……」
「どうしたの? 魔法がはじけ飛んだように見えたけど」
「ええ。属性魔法がはじかれました。皮が生物になったんです」
「――! それって――」
「――アレン!」
母さんが『材料』の頬を凝視しながら叫んだ。慌てて素材を見ると、頬の火傷の痕が消えている。
「アレンはん!」
「出来たのか!?」
部屋の隅で見ていたミッシェルさんとミルキアーナ男爵もこちらにやってきた。
「アレン……」
「……ああ」
時間が経っても頬に変化はない。あてた皮が頬の皮と同化していた。
皆が俺を見る。俺も皆を見返す。
「成功だ!」
1つ目の『実験』が完了しました!
次回も引き続き『実験』していきます。
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