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90.【サーシスの傷跡7 竹とんぼ】

 屋敷に戻ると、ミケーラさんが出迎えてくれた。


「皆様、おかえりなさいませ。ご帰宅そうそうで申し訳ないのですが、姉がアレン様を呼んでおります。恐れ入りますが、一緒に来て頂けますでしょうか?」

「分かりました。行きます」


 ミケーラさんに案内されて屋敷の奥に向かう。奥の部屋では、マリーナさんが『竹とんぼ』とにらめっこをしていた。


「マリーナさん、ただいま帰りました」

「おーアレン君、お帰りー。帰宅してそうそう悪いね」

「今日はユリとバミューダ君が頑張ってくれたから、大丈夫ですよ。それより、どうしたんですか?」

「いやぁ、とりあえず、『竹とんぼ』のサンプル品をアレン君に言われた通りに作ったんだけど……これであってる? これが飛ぶイメージがわかないんだけど……」


 マリーナさんが訝し気に竹とんぼを見ている。


「ここ羽根なんだよね? 言われた通り丈夫にしたからどうやっても羽ばたけないよ? クリス様にお願いして『属性』魔法でもかければ飛ぶかもしれないけど、それじゃ長続きしないし、量産なんて絶対無理だよ?」


 この世界で飛ぶものと言ったら鳥や虫だ。『飛ぶ=羽ばたく』と思うのも無理はない。


(というか、『属性』魔法!? クリス使えるの? あ、休憩室の扉を固定していた魔法か!)


 『属性』魔法について色々聞きたかったが、我慢する。


(後でクリスに聞けばいいしね。それよりも……)


「魔法は使いませんよ。これはこうするんです」


 マリーナさんからサンプル品を受け取って両手で構える。マリーナさんとミケーラさんの視線を感じながら、俺は竹とんぼを飛ばした。


「「おおぉぉー!!!」」


 2人が歓声を上げる。


「凄い凄い凄い! 飛んだ! 確かに飛んだよ!」

「これは面白い! 空を飛ぶおもちゃなんて世界初ですよ!」

「アレン君! 私にもやらせて!」

「わ、私もやりたいです」


 マリーナさんは俺から竹とんぼを受け取ると、俺と同じように飛ばした。


「飛んだ! 飛んだよミケーラ!」

「次、私! 私にやらせてください!」


 こんなに興奮したミケーラさんは初めて見る。マリーナさんから竹とんぼを受け取ったミケーラさんも同じように飛ばした。


「これ……凄く簡単に飛ばせますね。ゆっくり降りてくる様がまた何とも……」

「次私ね! 今度は思いっきり飛ばしてみよう!」


 ミケーラさんが思案している横でマリーナさんが思いっきり竹とんぼを飛ばす。


「バキッ!」

「「あ!!」」


 竹とんぼから嫌な音がしたと思ったら、羽根と持ち手のつなぎ目が折れてしまっていた。


「ご、ごめん! ここ、丈夫にって言われてたのに……強度が足りなかったみたい」

「捩じる力がかかりますからね……つなぎ方に工夫が必要かもしれません。設計から見直しましょう」

「そうだね……量産する前に分かって良かった。アレン君、もうちょっと待ってね」

「もちろんです。よろしくお願いします」


 むしろ、1回目のサンプル品で飛ばせただけで大したものだと思う。ユリが分かりやすい設計図を書いてくれて、マリーナさん達がその通りに作ってくれたおかげだろう。


「羽根の部分ですが、後ろ側にもう少し丸みを持たせてもらえますか? その方が飛びやすいんです」

「こんな感じ?」

「そうです。それで後ろは薄くして……」

「なるほど……だいたいわかった! これで作ってみるね」

「ありがとうございます。もうすぐ夕食ですし、今日はこれくらいにして食堂に行きましょうか」

「そうだね! 行こ―!」


 ミケーラさん達と共に食堂に向かうと、ちょうど食堂の方からユリとバミューダ君がやってきた。


「あ、お兄ちゃん! 丁度いい所に!」

「お兄ちゃん、もうすぐ夕食……です。食堂行こう……です」


 どうやら俺達を呼びに来てくれたらしい。入れ違いにならなくてよかった。


「ありがとう! 一緒に行こうか」

「うん! 早くいこー」


 ユリに急かされて食堂に向かう。食堂に着くと俺達以外の人はすでに席についていた。


「すみません、お待たせしました」

「かまへんよ。そんなことより、開発具合はどんな感じや?」

「はい! 『竹とんぼ』のサンプル品を見せて頂きましたがいい感じでした。強度不足の問題はありましたが、ちゃんと飛びましたよ」

「ほんまか!? そら凄いな」

「え!? あの形で飛んだの?」


 設計図を書いたユリも驚いた顔をしている。


「どうやって飛ぶの? 見てみたい!」

「さっきも言ったけどサンプル品は強度不足で壊れちゃったんだ。明日一緒に見てみようか」

「うん!」

「わても気になるよって明日帰ってきたら皆で見よか。それで? 『車椅子』の方はどうなん?」


 ミッシェルさんの質問にミケーラさんが答えた。


「現在、サンプル品をアナベーラ商会のテスターの方達に確認して頂いている所です。終わり次第、アレン様にお見せできるかと」

「なるほど、ご苦労さん。よく一日で作ってくれたな」

「姉に発破かけ続けましたから」

「……ほんに酒が入らな優秀なんやけどなぁ」

「それは言いっこなしです」


 確認し忘れていたが、『車椅子』も順調なようだ。これで1つ目と2つ目は間に合うだろう。問題は3つ目だ。


「アレンはん、頼まれとった()()は、明後日には来るそうや。その翌日にはシャル様も来て下さるらしいで」

「ありがとうございます!」

「それで……間に合うんか?」

「……正直、分かりません。でもやります」

「……せやな。分かった! ()()が来次第、あんさんは3つ目の開発に専念しぃな。他の準備はわてらで何とかしたる」

「すみません。よろしくお願いします」


 1週間後に、被害者達を()()集めて、今回開発したものをお披露目する予定となっていた。そのためには、何としても3つ目を完成させる必要がある。


(絶対間に合わせてみせる! そのためには……やってやるさ!)


 被害者達のため、そしてクリスのために、絶対にやり遂げることを俺は心に誓った。

クリスの属性魔法については次回で語られます。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます!

少しでも、面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、ブックマーク、高評価を頂けると嬉しいです!

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