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87.【サーシスの傷跡4 甘え】

久々に暗くない話です。安心して読んでください。

 決意を固めた俺は、気が急いてしまって、とても仮眠する気にはなれない。とにかく何か行動したくて仕方がなかった。


(焦るな……落ち着け……あの子達のために俺が出来ることを考えるんだ)


 クリスが寝ているベットの横で俺はひたすら頭を働かせる。


(……ダメだ……ユリ達に手伝ってもらうとしても()()が足りない……いや、違う。もっとだ。もっと人を使うんだ)


 いつもの癖でクランフォード家の力で何とかしようとしていたが、それだけではないことに気が付いた。アナベーラ商会やブリスタ子爵家、もしかしたらミルキアーナ男爵家も力を貸してくれるかもしれない。


(……出来る! 出来るはずだ。でも……いや、いい! 因果応報さ。やってやる!)


 今後の方針について、考えがまとまった。


やるべきことが決まり、急いていた気持ちが落ち着くと、今度は疲労感が押し寄せてくる。


(……あ)


 疲労感に気付いた次の瞬間、俺は眠りに落ちた。




「お兄ちゃん! ご飯だよー」


 遠くからユリの声がする。


「お兄ちゃん! ご飯行く! ……です!」


 ユリの声に合わせてバミューダ君の声も聞こえてきた。


(ん-……まだ眠い……ん?)


 右手と頭に柔らかい物を感じる。


(右手は誰かに握られていて、頭は撫でられている? ――!?)


 自分がどういう状態でいるのかを自覚し、意識が覚醒する。


「あら、アレン。目が覚めました?」

「ク、クリス。……あぁうん。おはよう」

「おはようございます」


 どうやらクリスの方が先に起きて、ベッドに突っ伏して寝ていた俺の頭を撫でていたようだ。


「あの、アレン。1つお願いが……」


 ベッドに腰かけたクリスは恥ずかしそうな顔をする。


「先ほどの事は忘れて頂けますでしょうか?」

「ん?」

「その……先ほどは疲れていて。アレンに甘えすぎてしまいました。恥ずかしい姿をお見せしてしまって申し訳ありません。あの子達の事はミルキアーナ男爵やミッシェル会頭にお任せしましょう」


 一休みしてすっきりしたクリスは、先ほどの弱弱しい態度を恥じているようだ。俺が『何とかする』と言ったことにも責任を感じているのかもしれない。


「クリス、俺の前では気を張らないでもいいんだよ?」

「え?」

「俺達は婚約者になったんだ。もっと甘えていいんだよ?」

「アレン……ですが――」

「――それに、あの子達の事を何とかしたいと思っているのは俺も一緒さ。だから二人で……ううん、皆で何とかしよう」


 クリスにはどんな時でも品があった。それは、クリスの気高さゆえだと思っていたが、いつも気を張っていたという事だ。俺の前でくらい、もっとリラックスして欲しい。


「………………いいんですか?」

「もちろん」


 クリスが恐る恐る尋ねる。


「……本当に? 幻滅しませんか?」

「しないよ」

()、アレンが想像するよりずっとわがままですよ? 無茶なお願いしちゃいますよ?」

「大丈夫だよ」

「……………………絶対に嫌いになりませんか?」

「ならないよ。この指輪に誓って」


 俺は左手の指輪をクリスに見せた。それを見たクリスは、自分の左手の指輪を見る。


「そっか……………………。分かり……分かった。2人の時はいっぱい甘えるね」

「うん」


 俺とクリスは繋いでいた右手に左手を添えて両手を握り合った。


「あの子達のこと、何とか出来る?」

「わからない……でもやってみたいことがあるんだ」


 策はある。皆が協力してくれれば出来るはずだ。


「まずは――」

「――お兄ちゃん! いい加減にしないと怒るよ! クリス様も起きてるんでしょ!」

「お兄ちゃん……そろそろ起きて欲しい……です」


 扉の外からユリの怒鳴り声とバミューダ君の疲れ切った声が聞こえる。そういえば、ずっと声を掛けられていたような……。


「――まずは夕食を食べに行こうか」

「そ、そうですね! 行きましょう!」


 俺達は慌てて寝室を後にする。




 むくれたユリに案内されて食堂に向かうと、父さん達の他にマリーナさん達もいた。


(いないのはミッシェルさんだけかな)


 ミッシェルさんも仮眠を取ると言っていたから、色々支度しているのだろう。空いている席に座ってミッシェルさんを待っていると、マリーナさんに話しかけられる。


「アレン君、クリス様も、お疲れ様。()()大丈夫?」

「ええ、何とか。心はぎりぎりでしたが……」

「まぁ、そうなるよね……。あんまり力になれなくてごめんね?」

「いえ……。マリーナさん達は何されていたんですか?」

先生(ミッシェル様)に頼まれて雑用を色々とね。配給品の整理したり、帳簿作ったりしてたよ」

「そうですか……あの、後でお願いしたい事があります。お時間頂けますでしょうか?」

「ん? お願いしたいことって……私に?」

「はい。マリーナさんとミケーラさんに」

「ふーん。……ふふ。うん! いいよ! やってあげる。ミケーラもいいよね?」

「姉さん……はぁ。まぁいいですよ。アレン様からの依頼ならやりましょう」


 マリーナさんがやけに楽しそうに即答した。ミケーラさんはマリーナさんを呆れた眼で見つめている。俺もまさか、お願いの内容を話す前に承諾してもらえるとは思ってもみなかった。


「えっと……まだお願いの内容をお伝えしてないんですが……いいんですか?」

「え? だって話の流れ的に被害者達のためのお願いでしょ? だったら先生も手伝えっていうだろうし、ミケーラが断るわけないんだし、やるに決まってるじゃん。私だって力になりたいしね」


(この人……ほんと、お酒が絡まなければ凄い人なんだよな)


「ありがとうございます。助かります」

「どういたしまして! お礼はお酒で――」

「――それはダメです」

「早くない!?」


 マリーナさんがごねるが、ダメなものはダメだ。


「なんや、騒がしいな」

「せ、先生!」


 俺がマリーナさんと話をしていると、ミッシェルさんが食堂にやってくる。珍しく、ヴェールは外していた。


「マリーナ……あんさんまだこりてへんみたいやな?」

「そ、そそそ、そんなことないですよ? 軽い冗談ですって」

「……はぁ、まぁええわ。皆はん待たせたな。夕食にしましょ」

 

 ミッシェルさんが合図をすると、夕食が運ばれてくる。


「アレンはんもクリス様も大分顔色良くなったな。ゆっくり休めたんか?」

「ええ。()()ご配慮いただき、ありがとうございました」

「気にせんどいてぇな。明日からはユリちゃん達にも同行してもらうとはいえ、あんさんらにはまだまだ頑張ってもらわなあかん。わてに出来るせめてもの礼や」

「それなんですが――」


 俺は食事をしていた手を止めてミッシェルさんを見た。


「――ミッシェル様にお願いしたい事があります」

「ほう……」


 ミッシェルさんも手を止めて俺を見る。 


「……この状況でのお願いか。あんさんはほんに期待させてくれるな。聞かせてくれや」

「作りたい物があります。力を貸してください」

明日は朝の8時投稿予定です!

アレンが何を作るつもりなのか、期待していてください。


次回もお楽しみに!

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