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79.【ブリスタ子爵2 上に立つ者】

「いやー皆さん、お騒がせして申し訳ない。こちらは私の妻、マリアだ」

「マリア=ブリスタと申します。娘がいつもお世話になっています」


 マリア様が俺達に頭を下げる。


「こちらこそ、クリス様にはいつもお世話になっております。私は――」

「――あ、ご挨拶なら全て聞いておりました。こちらに録画してますので大丈夫ですよ」


 マリア様は手に持ったビデオカメラのようなものを指差して言った。


(録画! 今録画って言った!)


「お母様……初対面の方を勝手に撮るのはおやめください。失礼です」

「大丈夫よ。ちゃんとクリスしか撮ってないわ」

「そういう問題ではありません!」


 昨日からクリスさんのキャラが崩壊している気がする。


(まぁ、そういう一面も可愛いんだけど……)


「ブリスタ子爵夫人。そちらの魔道具は『ビートルカメラ』ですか?」

「さすがはルーク殿。その通りです」


(『ビートルカメラ』? 『ビデオカメラ』ではなく?)


「商人で『ビートルカメラ』を知らない者はいませんよ。200年前の天才発明家、クライス=ミューランが開発して大流行した映像保存の魔道具ですよね? 王都では割とよく見かける物だとか」

「ええ。対になっているビートルデッキを使えばいつでも可愛いクリスが見れる優れものです。特に今日はとてもいい表情を撮ることができました」


 マリア様はとてもいい笑顔を浮かべて言った。


「本当に……とてもいい表情でした。この家を出た時とは比べ物にならないほど……」

「お母様……」

「あの時の貴女(クリス)は見ていられなかった……あの変態(サーシス)に迫られて怖かったはずなのに、私達に気を使って、無理して笑っていた貴女はね……」


 身を守るためとはいえ、見ず知らずの男に嫁ぐのだ。ミッシェルさんの勧めがあったとしても不安は大きかったのだろう。


「……皆さんには感謝しております。特にアレン様。貴方様のおかげでクリスは以前のように……いいえ、それ以上に笑うことができるようになりました。本当にありがとうございます」

「ああ。サーシスから守るだけでなく、心まで救ってくれた。本当に感謝している。ありがとう」


 マリア様だけでなく、ブリスタ子爵まで頭を下げた。


「ブリスタ子爵! 頭をあげてください!」

「アレン殿。今、私は子爵としてではなく、クリスの親として君に礼を言いたいのだ。子爵としてふさわしくない行動だと理解しているが、どうか受け取ってくれ」


 ブリスタ子爵は頭を上げる様子がない。思わず父さんを頼りたくなったが、ここは俺が答えるべきだろう。


「……承知しました。お礼を受け取ります。ですが、私もクリスさんには色々お世話になっております。あまり、気にされないでください」


 クリスさんがいなかったら、ミーナ様を雇うことはなかっただろう。バミューダ君も義弟になっていなかったはずだ。そんなこと、今となっては想像できない。


 俺がお礼を受け取ったことで、ブリスタ子爵とマリア様はようやく頭を上げてくれる。


「そう言ってもらえると嬉しいよ。話には聞いていたが、本当にしっかりしているな。そんな君がクリスの婚約者になってくれたら私達も安心できるというものだ」

「――! では――」

「――だが、その前に一つだけ聞かせてくれ」


 ブリスタ子爵の顔つきが変わった。先ほどまでの暖かい雰囲気はどこにもなく、その視線には鋭さを感じる。


「クリスは侯爵家からも妾にと望まれた子だ。君と婚約したとしても、クリスを手に入れたいと思う輩は多いだろう。もしかしたら、サーシスより過激なことをしてくる輩もいるかもしれない。それでも、君はクリスを守ると誓えるか?」


 ブリスタ子爵はまっすぐ俺を見つめていた。その視線からは、鋭さは感じる物の、圧力は感じない。


(そうか……ブリスタ子爵は心配しているんだ。クリスさんの事をだけじゃなくて、俺の事まで……)


 ならば、俺は正直に答えるべきだろう。


「私一人の力では難しいでしょう」


 ブリスタ子爵が驚いた表情を浮かべる。


「実際、サーシスの件は私一人では、対処しきれませんでした」


 母さんにミッシェルさん、そしてシャル様が助けてくれなければ、俺は死んでいたかもしれない。


「私一人の力など、ちっぽけなものです。ですが、私はそれを自覚しています」


 自分が未熟であることを、俺は知っている。そして、人は一人では生きていけない事も知っている。


「いざという時、私は周りの人を頼ります。もちろん、私が一方的に頼るだけではありません。お互いがお互いを頼り、助け合う。そういう関係性を築いてきたつもりです」


 身の回りの誰かが自分一人で解決できない問題を抱えている時、俺達は皆で対処に当たるだろう。


「だからこそ、()()がクリスさんを守ると誓います」


 甘いと言われるかもしれないが、俺は本心を述べた。クリスさんの事だけじゃなく、俺の事まで心配してくれたブリスタ子爵への誠意を示したいと思ったのだ。


 ブリスタ子爵はじっと俺を見ている。


(自分一人でクリスさんを守れないから、言い訳している軟弱者と思われたかな……)


 だが、俺が言うべきことは言い切った。これ以上は蛇足というものだ。ブリスタ子爵の答えを黙って待った。


 どれくらいの時間が経っただろうか。緊張で喉が渇く。しばらくして、ブリスタ子爵がおもむろに口を開いた。


「……その年で()()()()人を使うことを知っているとはな。流石は今注目の商会の支店長といったところか。なぁマリア?」

「ええ。統治者としてふさわしい資質をお持ちのようね。鍛えれば貴族としてもやっていけるでしょう」


 ブリスタ子爵の表情が、再び暖かいものになる。


「誰しも自分一人で出来ることなど限られている。上に立つ者でもそれは変わらない。組織が大きくなればなるほど、一人ではどうにもならなくなってくる。上に立つ者は、周りの人の力を借りる事は必須だ。だが、人は傲慢でな。人から力を借りているくせに、それを自分の力だと思い込んでしまう。高い権力を持っている者ほど、その風潮が強い。サーシスなんかはその典型だな」


 サーシスは俺から見ても傲慢だった。なんでも自分の思い通りになると勘違いして、最後は身を滅ぼしたのだ。


「上に立つ者は、堂々としていて、かつ謙虚でなけらばならんのだ。組織の代表として堂々と、力を貸してもらっている者として謙虚にな。決して傲慢になってはいけない。アレン殿はそれを分かっているようだね」


 ブリスタ子爵が再び俺を見つめる。


「アレン殿。君になら娘を託せる。娘の事、よろしく頼むよ」

「――はい!」


 こうして俺は、クリスさんの婚約者として、ブリスタ子爵に認めてもらえたのだ。


上に立つ者の考え方はあくまで私の解釈です。ご了承ください。


ついに、2人の婚約が認められました!

ブリスタ子爵邸での物語も押し返し地点です。


次回もお楽しみに!

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