67.【取り調べ1 枢密顧問官】
お待たせしました。物語が進みます。
一部残酷な表現があります。苦手な方はご注意ください。
翌日のお昼にクリスさんとナタリーさんと一緒にアナベーラ商会を訪れた。
俺達が着いた時、豪華な馬車が到着し、男性が2人降りてくる。馬車が到着したことに気付いたミッシェルさんが男性を出迎えた。
「遠路はるばるご苦労さんどす。アナベーラ商会会頭のミッシェル=アナベーラと申します」
「ご丁寧にありがとうございます。枢密顧問官のザック=オルフェスです」
「補佐役のダニル=ワンドです」
挨拶を終えたミッシェルさんが俺達に気付いた。
「ええタイミングやな。こちらが、今回の被害者、アレン=クランフォードはんとクリス=ブリスタ様。それから、参考人のナタリー=ヴァイスや」
「アレン=クランフォードです。よろしくお願いします」
「クリス=ブリスタと申します。よろしくお願いします」
「ナタリー=ヴァイスと申します。よろしくお願い致します」
俺達が挨拶をすると、ザックさんとダニルさんは『はっ』とした後、頭を下げた。
「この度はご迷惑をおかけしましてしまい、申し訳ない」
「サーシスの貴族にあるまじき行為。必ずや、白日の下にさらし、ふさわしい罰を与えると誓います」
予想以上に丁寧な対応にうろたえてしまう。
「あ、頭を上げてください。オルフェス様やワンド様が謝る必要はありません! 悪いのは全てサーシスです」
「お優しい言葉、感謝します。しかし、そのサーシスを監視し、貴族として正しい行いをさせるのが、我ら枢密院の仕事。貴族の罪は我らの罪なのです」
頭を下げ続ける2人を見て俺は思った。
(なんか……前世の公務員みたいだな)
前世で役所に行った時に、クレーム対応している公務員を思い出したのだ。
「……分かりました。謝罪を受け取ります。ですので、頭を上げてください」
俺が謝罪を受け取ったことで2人は頭を上げた。
「ほんなら皆はんを取調室に案内しますわ。アレンはん達は隣の控え室で待っててもらいやす」
ミッシェルさんに案内されてお店の地下に下りて行く。案内された控室はガラス張りの大きな窓がついていて、取調室の様子が見える作りになっていた。
「こちらからは見えるし、声も聞こえるけど、こちらの声や様子は向こうには聞こえへんし、見えへんようになっとるから安心しいや」
「いつもありがとうございます。皆さんにはここでサーシスの供述を聞いて頂き、嘘や不足事項があったら教えてください。ご気分が優れなくなったら、いつでも退席して頂いて大丈夫ですから、無理のない範囲でご協力をお願い致します」
そう言ってザックさんはダニエルさんを連れて取調室に入って行った。
「ほなら、わてはサーシスを呼んでくるわ。皆はんはここにいてや」
ミッシェルさんも控室を後にする。
少しすると、取調室の扉が開く。そこには少し痩せたサーシスの姿があった。
(ミッシェルさん、ちゃんともてなすって言ってたけど……思ったより変わってないな)
少し痩せても不遜な態度は相変わらずだ。今も、取調室の入り口から椅子まで赤い絨毯が敷かれるのを偉そうに待っている。
(そんな奴のために絨毯なんか敷いてやることないだろうに……)
絨毯が敷き終わると椅子の上にも赤いクッションが置かれ、ようやくサーシスが歩き出した。
サーシスが椅子に座ると取り調べが始まる。
「アーノルド=サーシス。シャル王女から貴様は貴族としてふさわしくないと嫌疑をかけられている。これより、資格剝奪法の定めにのっとり、貴様の貴族としての資格の是非を問う。異論はないな?」
「はっ! 貴様らごとき、下級貴族の、しかも嫡子でない者が我に資格を問うだと? 片腹痛いわ!」
「――本嫌疑はシャル王女からの物だと言ったはずだ。いまの発言は不敬罪に該当するがよろしいか?」
「ぐっ! …………ちっ、分かった。異論はない」
「結構。――まず初めに、クランフォード商会襲撃について。貴様はクリス=ブリスタ子爵令嬢を誘拐するために、クランフォード商会に押し入り、子爵令嬢をかばったアレン=クランフォードに暴行を加えた。間違いないか?」
「意義あり! 我とクリスは愛し合って――」
「――サーシス?」
サーシスの供述中にミッシェルさんが割り込んだ。何をしているかと思えば、ミッシェルさんは絨毯を指さして手で爆発するような仕草をする。
(何をしているんだろう?)
俺にはミッシェルさんの行動の意味が理解できなかったが、効果は抜群だった。サーシスが、供述の内容を認めたのだ。
「い、いや……その……ゴホンッ! 供述の内容に間違いはない……」
(え、なんで? ミッシェルさん何したの?)
その後もサーシスはザックさんが述べる供述の内容を認めて行く。時折サーシスが偉そうな態度を取ったり、理解不能な証言をしようとすると、ミッシェルさんが口をはさみ、先ほどと同じ動作をする。そのたびに、サーシスが大人しくなるのだ。
(何なんだろあれ? 後でミッシェルさんに聞いてみよう)
ザックさんが述べる供述が、サーシスの自領での行いの話になると、ミッシェルさんが『貴族令嬢が同席するようなもんやない』と言っていた理由が理解できた。
「貴様は、自領で暮らしていた罪のない女児を屋敷に誘拐した。間違いないか?」
「意義あり! 我は誘拐など行っていない! 屋敷に女児を招いただけだ!」
「……質問を変えよう。女児を強制的に屋敷に招き、親元に帰れなくした。間違いないか?」
「……あぁ、間違いない」
「そして、親元に帰りたいと泣く女児に鞭を打ち、痛いと泣とさらに鞭を打った。間違いないか?」
「……あぁ、間違いない」
「さらには、おままごとと称して日常的に女児の指を折ったり、爪を剥いだり、顔を焼いたりした。間違いないか?」
「……あぁ、間違いない」
「その女児の中には、貴様の体罰に耐えられず亡くなってしまった者もいる。間違いないか?」
「……あぁ、間違いない」
淡々と答えるサーシスに寒気を覚える。
(なんで……なんでそんな淡々と答えることができるんだ!? 罪の意識はないのか!!)
俺の隣では、クリスさんが目に涙を浮かべていた。ナタリーさんも神妙な面持ちで取り調べを見ている。
あまりの供述内容に憤りを感じていると、控室の扉の方から話し声が聞こえてきた。
「……ここか?」
「はい、そうです」
アナベーラ商会の従業員が扉を開けて入ってくる。その後ろにはミルキアーナ男爵が立っていた。