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62.【ミルキアーナ男爵8 バミューダ=クランフォード】

少し長めです

 翌日、バミューダ君を連れて家に戻る。連絡せずに帰ってきたため、父さん達が外出している可能性もあったが、運よく家にいてくれた。


 家に帰るものはクリスさんとデートした時以来だ。父さん達も色々話したかったみたいだが、最初にミルキアーナ男爵の事を聞いてもらった。


「なるほどな。ミルキアーナ男爵か……まさか取得条件を改ざんするとはな」

「そういえば、家に特許申請の書類の控えとかってないの?」

「特許権が認められた証明書はあるけど、取得条件なんかは書かれてない。そういうのを管理しているのが、特許管理局だからな」


 本来であれば、特許権の管理は厳重に行われていて、貴族であっても簡単には手出しができない。しかし、今回はその特許管理局を管轄している人が相手なのだ。抜け道など熟知しているのだろう。


「そっか……悔しいけど、どうにもならないか」

「そうね……これが、もっと悪質な偽造なら、枢密院の捜査の対象になるかもしれないけど、条件が『ミルキアーナ男爵の娘を娶ること』だと『貴族の娘を娶れるのに何の問題があるんだ』って言われてしまうわね。ミルキアーナ男爵も、その辺、分かってやっているのね」


 貴族によって平民が理不尽な被害を被れば、サーシスのように枢密院の捜査対象になる。だから、一般的には(・・・・・)被害と言えない内容に改ざんしたのだろう。


「バミューダ君を養子にして、クランフォード家の息子になってもらい、ミルキアーナ様と結婚してもらえば、お前(アレン)が結婚しなくて済むのは分かった。だが――」


 父さんが鋭い視線で俺を見た後、バミューダ君を見る。


「――バミューダ君はそれでいいのかい? 男爵令嬢との結婚は君の一生に関わることだ。アレンに恩を感じているのかもしれないが、君が身代わりになる必要はないんだよ?」

「ミーナ様と結婚できるの嬉しい……です。身代わりなんて思ってない……です」


 父さんの視線におびえることなく、バミューダ君は答えた。


 そんなバミューダ君を父さんはじっと見つめていたが、少しすると笑みを見せて言う。


「……そっか。バミューダ君が本心で望んでいるならいいんだ。アレン、養子縁組の書類は用意してあるか?」

「あるよ。はいこれ。バミューダ君が書くところは埋めてあるから」

「おお、用意がいいな。………………ちょっと待て。これ誰が書いたんだ?」

「バミューダ君だよ」

「……バミューダ君って読み書きできないんじゃなかったっけ?」

「それがさ。一昨日から読み書きを教え始めたらその日のうちに半分はマスターしちゃって――」

「…………は?」

「――しかも昨日、バミューダ君はお休みだから好きな事していいよって言ったら、残りの文字も覚えちゃったみたい」

「………………」


 父さんは驚きのあまり声を出せずにいるようだ。


「凄いよね」

「そ、そうか……まぁそれなら問題ないか」

「問題?」

「ああ。『クランフォード商会の息子』なのに読み書きができないとなれば、問題になるからな。急いで教える必要があると思っていたが、まさかもうマスターしているとは……」


 そこまで考えていなかった。確かに商会の子なら読み書きはできて当たり前だ。


「ちなみに計算はできるのか?」

「それはまだ。これから教えるつもりだよ」

「……そうだな。10歳ならまだ計算できない子もいるから大丈夫だろう……よし、書けたぞ」


 父さんは養子縁組の書類を俺に手渡した。念のため俺も記載内容を確認してから、カバンにしまう。


「ありがとう! 明日、役所に提出してくるよ。明日からバミューダ君は『バミューダ=クランフォード』だ」

「はい! ……です!」


 バミューダ君は嬉しそうな笑顔を浮かべている。

 

「明後日の話し合いだが、俺も同席しよう。向こうが男爵自ら来てくださったならこちらも俺が行くのが礼儀だからな」


 言われてみれば、婚約は家と家の話だ。商会としても会頭である父さんが出るのが筋だろう。


「そうだね……それじゃ明後日の朝、支店に来てくれる?」

「おう、いいぞ。今日はまだ時間あるのか?」

「あるよ」

「それならのんびりしていけ。ブリスタ様とのことも聞きたいしな。それに……」


 父さんが母さんをちらりと見た。


「……さっきから母さんがバミューダ君と話したくてうずうずしているからな」

「あら? バレちゃった?」

「ああ。そういうわけだからアレン、お前はこっちでブリスタ様とのことを聞かせろ。バミューダ君は奥で母さんと話しておいで」

「ちょっと! なんで父さんにクリスさんの事を話さなきゃいけないのさ!」


 自分の父に恋バナを聞かせるとかどんな拷問だ。


「いやそうじゃ無くてな……お前、ブリスタ様と婚約したいんだろ?」

「そうだけど……」

「だったら、俺がブリスタ子爵に挨拶に行く必要があるだろ。そのために色々聞かせろって意味だ」


 そう言えばそうだった。シャル様に王宮に呼ばれた時に挨拶に行こうと思っていたが、その際には父さんがいないと話にならない。


「分かった。シャル様に呼ばれて王宮に行く時にブリスタ領に寄るつもりだから、父さんも一緒に来てくれる?」

「……は? シャル様ってお前……え? まさか、シャル=ルーヴァルデン王女に呼ばれているのか?」

「あれ? 母さんから聞いてない? モーリス第三王子が俺に会ってみたいって言ってるから王宮まで来て欲しいってシャル様に言われたんだけど――」

「――聞いていない! 聞いていないぞ! なんだそれ!? なんで第三王子がお前に会いたがってるんだ!?」

「い、いや……知らないけど……」

「いつだ? いつ謁見するんだ?」

「準備ができたら連絡するってシャル様が……」

「まじか……いやそうだよな……王族だもんな……」


 こんなにうろたえている父さんは初めて見た。


「大丈夫よ。シャル様なら悪いようにはしないわ」

「そりゃそうかもしれないが……って、母さんは知ってたのか!?」

「ええ。シャル様がアレンを誘った時、一緒にいたもの」

「だったら教えてくれればいいのに……」

「だってあの日はミッシェル様から頂いた栄養ドリンクで――」

「――だー!! 分かった。分かったから! バミューダ君と奥に行っててくれ」

「ふふふ、はーい。さ、バミューダ君。奥でお話ししましょう」


 母さんがバミューダ君を案内しようとしたが、バミューダ君は不安そうに俺を見上げている。


「大丈夫だよ。母さんがバミューダ君と話したいことがあるんだって」

「店長様のお母さん……です?」

「そうだよ。それに明日からはバミューダ君のお母さんだ」

「……僕のお母さん……」


 そう言うとバミューダ君は母さんを見た。母さんは優しいまなざしでバミューダ君を見ている。


「分かった……です。お話ししてくる……です」

「うん。行ってらっしゃい」


 そう言ってバミューダ君は母さんとお店の奥に向かった。


「まったく……アレンも王族と謁見することになったならすぐに教えてくれ」

「ごめんなさい……色々あって忘れてた」

「あー、サーシス伯爵と色々あったらしいな。その辺も含めて詳しく教えてくれ」

「分かった」


 父さんに言われて俺は、ここ数日の事を話した。父さんは黙って聞いていたが、バミューダ君の身体能力の高さについて話した時は、店の奥を見て『それでか……』とつぶやいていた。


 色々な話をしていると、店の奥から母さんとバミューダ君が戻ってくる。


「おかえり。母さんとお話しできた?」

「はい! ……です! 色々お話しできた! ……です!」

「そっか。良かったね」


 俺とバミューダ君が話している横で、父さんと母さんも話をしていた。


「話はできたのか?」

「ええ。とってもいい子よ」

「そうか。……アレンから色々聞いたが……そうなのか?」

「そうみたいね……本人も覚えていないみたいだけど」

「覚えていないって……そんなことあるのか?」

「子供の頃だとそういうこともあるみたいよ。私も記憶があいまいなところもあるしね」

「そうか……」


 バミューダ君についての話だとは思うがなんの話かは分からない。気になった俺はバミューダ君に聞いてみる。


「バミューダ君は母さんとどんな話をしたの?」

「えっと……魔法についての話をした……です。でも詳しいことは言っちゃダメって言われた……です」


 魔法についての話は母さんやシャムルさんも詳しく教えることだできないらしい。なら、これ以上聞くのは酷だろう。それにしても……。


(魔法について……か。やっぱりバミューダ君の身体能力って)


「アレン。ちょっといいかしら」


 考え事をしていたら母さんに話しかけられた。


「アレンも気付いていると思うけど、バミューダ君は身体強化魔法を使えるわ」

「あ、やっぱり?」


 予想はしていたが、その通りだった。


「ええ。才能もあるし、将来有望だわ」


 母さんが認めるという事はかなりの使い手なのだろう。


「でも、今は全くコントロールができていないわ。そもそも本人に身体強化魔法を使っている自覚がなかったみたいね」


 確かにバミューダ君から身体強化魔法について聞いたことはない。


「このままじゃ宝の持ち腐れだし、何より危険よ。だから、私がバミューダ君の身体強化魔法の師匠になることにしたわ」

「し、師匠?」

「これからは、週に一度、バミューダ君をこちらによこしなさい。ああ、アレンとユリちゃんも一緒に鍛えてあげるわよ?」

「え……」


 以前、一緒に運動(・・)した時の事を思い出す。


(翌日まで筋肉痛で動けなかったよな……)


「大丈夫よ。ちゃんと加減して翌日に残らないようにするから。この前も面談の前には動けるようになったでしょ?」


 そう言えば、朝は筋肉痛で動けそうになかったのに、面談が始まるころには痛みはあるものの、動けるようにはなっていた。


(あれ、狙ってやってたのか!?)


「バミューダ君はいいの?」


 俺がバミューダ君を見るとむしろ嬉しそうな顔をしている。


「お母様に強くしてもらえるの嬉しい……です。強くなってミーナ様守る……です」

「偉いわ。それでこそ男の子よ! さ、アレンはどうするの?」


 そう言われてやらないというわけにはいかない。


(俺だって何かあった時にクリスさんを守るくらいの力は身につけたい……)


「分かった。翌日の業務に支障がでない(・・・・・・・・・)範囲で鍛えて」

「任せなさい。翌日には動ける(・・・)範囲で鍛えてあげる」


(微妙に認識に齟齬がある気もするけど……やってみせる!)


「それじゃ、1週間後にユリちゃんとバミューダ君を連れてきなさい。楽しみね」


 ユリも一緒にやることが決まっていた。母さんの笑顔を見て少しだけ後悔したがやると決めた以上はやるしかない。


 その後は4人で雑談をして、日が暮れる前に支店に戻る。


 なお、ユリに母さんが鍛えてくれると言った事を伝えたら、絶望的な顔をしていた。

予想以上に長くなってしまった……申し訳ない。

ミルキアーナ男爵編、明日でラストです!

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