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48.【上流階級の恋愛事情2 恋愛結婚】

今日も遅くなってしまい申し訳ありません。

「何か悩み事?」


 休憩室に入ってきた母さんは、俺の向かいに座って言った。


「うん……まぁ……そんなとこ」

「ふーん……」


 母さんが俺の顔を覗き込んでくる。


「恋の悩み……かと思ったけどそれだけじゃないわね。もっと大きな……アレン、話してごらんなさい」

「……これからの事について悩んでた」

「これからの事?」

「……クリスさんと婚約したいけど、どうしたらいいのかなって」 


 自然と話すことができた。ただの恋愛話なら恥ずかしくて母さんには話せなかっただろう。俺の頭の中も、ただのお花畑ではなくなっているようだ。


「そっか……クリス様と婚約したいのね」

「うん」


 そこについて、迷いはない。


「なら話は簡単よ。ブリスタ子爵とお話しをしに行きましょう」

「え!?」

「なにを驚いているのよ? 子爵令嬢と婚約するには親と話しをしないとだめでしょ?」

「で、でも……今の俺じゃ……クリスさんの婚約者としてふさわしくないし……」

「んん? ……あー、なるほど。アレンの本当の悩みはニーニャさんとの関係かしら?」

「なっ!」


 図星だった。


「……なんでわかったの?」

「ふふふ。簡単な話よ。『クリスさんと婚約したい』『そのためには力が欲しい』『アナベーラ商会の後ろ盾は理想的だ』『でもニーニャさんを蔑ろにしているのに、アナベーラ商会を後ろ盾にするなんて許されるわけない』――こんなところかしら?」

「………………」

 

 訂正する箇所が1つもない。


「これでも騎士爵だったのよ? 貴族達との腹の読みあいに比べたら息子の考えを読むなんて朝飯前だわ」


 脳きn……武術のイメージが強すぎて忘れていた。相談するのにうってつけの人がこんなすぐ側にいたなんて。


「何か失礼なこと考えてない?」

「考えてないよ! えっと……聞きたいことがあるんだけど」

「ええ。話してごらんなさい」

「これからもアナベーラ商会に力を貸して欲しいけど、ニーニャさんと結婚はしたくないって不義理かな?」

「いいえ。そんなことないわ」


母さんはきっぱりと言い切ってくれた


「クランフォード商会とアナベーラ商会の関係は私達とミッシェル様との信頼関係で成り立っているのよ。アレンとニーニャさんの婚姻で成り立っているわけではないわ」


 確かにニーニャさんとの話は後から出てきた話だ。


「何かをしてもらうには当然対価は必要よ。だけど、それが婚姻である必要はないわ。それにアレン。貴方1つ勘違いしているわ」

「勘違い?」

「ええ。そもそもこの話はミッシェル様が婚約者のいないアレンにお礼のつもりで持ちかけた話よ。アレンが乗り気でないなら断ったってなんの問題もないわ」

「でも、ニーニャさんは本気だって」

「――ニーニャさんは本気かもしれないけど、ミッシェル様は本気じゃないわよ」

「え?」

「さっきミッシェル様と話したけれど、『ニーニャはアレンはんの好みやと思ったんやけど……クリス様みたいんが好みやったんやね。いやー残念』っておっしゃってたわ。多分ニーニャさんが個人的にアレンを狙ってるんじゃないかしら」

「――!?」

「もちろん、最初はミッシェル様から指示されていたでしょうし、ニーニャさんの女としてのプライドもあるでしょうけれど……本気というからにはそれだけじゃないでしょうね」

「で、でも……クリスさんと行くデートスポットをニーニャさんに聞いたら教えてくれたよ!」

「教えてあげた方が貴方の好感度を稼げるんだもの。教えない理由がないわ」


 確かに、俺はニーニャさんに対して感謝していたし好感度も上がっていた。


(嫉妬とかはないのか。そっか……それがニーニャさんの価値観なんだ)


「アレンが何を悩んでいるかは分かったわ。『クリス様と婚約すること』『これからもアナベーラ商会と友好的な関係を築いていくこと』は決定事項で、そのうえで『ニーニャさんの気持ちに応えていいのか』つまり『お世話になった人とは言え、クリス様の他に婚約者を作っていいのか』を悩んでる。そうよね?」

「う、うん……」


 俺の悩みを明確な言葉にしてくれた。


「だったら、クリス様と相談しなさいな」


(相談って……。本人に向かって『クリスさんの他に婚約者つくっていい?』なんて聞けるわけないじゃん!)


「……できないよ」

「アレン。貴方が何を決めていて、何を悩んでいるか。それをちゃんと伝えなさい。そうすれば、クリス様はちゃんと聞いて下さるわ。デリケートなことだからこそ、ちゃんと相談しないと、変にすれ違ってしまうわよ」

「う……」

「夫婦になるんでしょ? ならちゃんと話し合わないと。クリス様が困っている時、アレンに話してくれなかったら悲しいでしょ」

「……うん」

「なら、アレンが困っている時もクリス様に相談しなくちゃ!」 

「そう……だね。わかった」

「よろしい。他に悩みはある?」

「んー……あっ! そもそもデートスポットを探してたんだった」

「ああ、それなら――」


 母さんから、よく父さんに連れて行ってもらったデートスポットの話を聞いた。時折挟まれる母さんの惚気話を聞くのは辛かったが、おかげでいい情報を手に入れることができた。




 その日の閉店後、俺は店長室でクリスさんを待っていた。クリスさんには閉店後に店長室に来て欲しいと伝えてある。


 少しすると店長室のドアがノックされる。


「どうぞ」

「失礼します」


 クリスさんが店長室に入ってきた。


「お疲れ様です」

「お疲れ様です」


 挨拶して、お互いソファーに座る。


「今日は前より元気そうですね」

「そうですね。バミューダ君のおかげです」

「肉体労働が得意とは聞いていましたけどあそこまでとは思わなかったです。バミューダ君にボーナス出さなきゃってマグダンスさんと話してました」

「そうですね! わたくしも助けて頂いておりますし、良いと思います」


(……どうやって切り出そう)


 俺が本題を切り出せずにいると、クリスさんが聞いてくれた。


「アレンさん。何か話したいことがあるのでは?」

「……そうですね。これからの事で悩んでいました」


 俺の言葉を聞いたクリスさんが表情を硬くする。


「これからの事……ですか」

「ええ。私としては、婚約者はクリスさんだけだと考えていました」

「ふぇ? ……え、あ、えっと……はい」


 何か変な声が聞こえた気がするが、そのまま話し続ける。


「ですが、ニーニャさんが私の第二婦人になりたいと。冗談ではなく、本気だと言われました」

「そ、そうですね。お顔合わせの際にもおっしゃっていましたね」


 やはり、クリスさんはあの時からニーニャさんが本気だと分かっていたのだ。


「……私は、結婚とは愛し合う者同士が、生涯互いだけを支えあうことを誓い、家族になるものだと考えています」

「……恋愛結婚と言われるものですね」

「ええ。ですので、どうしても政略結婚や重婚に抵抗があるのです。甘い考えかもしれませんが、結婚によるつながりではなく、クランフォード商会の能力で有力者とコネクションを結んでいきたいと考えています」


 貴族であるクリスさんからすれば、甘い考えだろう。幼いころから家のために結婚するのだと教わってきたはずだ。夢見がちな奴だと幻滅されるかもしれない。


「なるほど。アレンさんのお考えはよくわかりました。それにしても……」


 クリスさんがもじもじしている。よく見ると顔も赤い。


「れ、恋愛結婚とは……これほど嬉しい物なのですね」

「……え? ……あ……ん? ……はい?」


 予想外の反応に戸惑ってしまった。


「1人の方にここまで求められることが、こんなにも嬉しい事だとは思いもしませんでした」


 自分の悩み事で頭がいっぱいだった俺は、クリスさんに言われて初めて、自分がどんなことを言っていたのかを理解した。


(『婚約者はクリスさんだけ』……『結婚とは愛し合う者同士が、生涯互いだけを支えあう』……めちゃくちゃ恥ずかしいことを言っている!?)


「ぅぇあ! いや、えっとその……」


 顔が赤くなるのを感じる。


「えっと……わ、わたくしとしては、アレンさんがニーニャ様や他の方と婚約されてもかまわないと思っています。むしろ、アナベーラ会頭の娘さんであるニーニャ様と婚約することは良い事だと思っています」


 貴族の娘としては、普通の考えなのだろう。嫉妬すらないのは少し寂しいが仕方ないと思う。


「アレンさんのお話を聞いて……その……とても嬉しかったです。ですが、一番に考えて頂きたいのはクランフォード商会の事です。アレンさんが必要だと思った際に政略結婚されることに、わたくしは反対しません。ニーニャ様でしたら歓迎しますよ」


 そう言ってクリスさんはにっこりとほほ笑んだ。その顔は無理をしているようにも強がっているようにも見えない。


「そうですか……そうですね。わかりました。私が必要だと思った時にはそうなるかもしれません」


 少なくとも今は政略結婚なんて考えられない。しかし、これからもそう言っていられるかは分からない。


「ええ。困った時には相談してください。ふ、夫婦になるんですから……」

「そ、そうですね……ありがとうございます」


 ちゃんと相談することができてよかった。俺が1人で悩んでいたら変にすれ違っていたかもしれない。


「それにしても……良かったです。これからの事で悩んでいるとおっしゃるので……てっきりわたくしとの婚約を悩んでいるのかと……本当に良かった……」


(しまった! 言葉選びを間違えた! クリスさんの立場ならそうおもうよな)


「だ、大丈夫です! そこで悩んだことはありません!」

「ぁぅ……あ、ありがとうございます……」


 クリスさんが可愛すぎて直視できない。顔がさらに熱くなっていくのを感じる。照れ隠しのため、2人分のお茶を淹れた。お互いあまり話さなかったが、幸せな時間が過ぎて行く。


 気が付くと大分遅い時間になっていた。最後にデートの待ち合わせについての話をする。


「あの、一緒に出掛けるという話ですが……次のお休みって明々後日ですよね? 良かったら私の実家の方に行きませんか? お見せしたいものがあります」

「あ、ありがとうございます! ぜひ行きたいです!」

「良かったです。それではお昼ごろ寮に迎えに行きますね」


 話したいことは全て話せたが、周りはすっかり暗くなっていた。俺とクリスさんはお店を出て寮まで一緒に歩く。クリスさんが寮に入るのを見送ってから、俺はお店に戻った。

クランフォード商会はホワイト企業です! ちゃんと休日はあります。


ニーニャ様の本気とは、政略結婚の相手として本気で狙っているという意味です。今の時点で、アレンに対して恋愛感情はありません。


明後日まで糖度高めです。もう少しお付き合い下さい。

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