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44.【サーシス伯爵4 連行】

 その後、流れてきた音声でサーシスの行いは明らかになった。


「さあ! これでサーシスの罪状は明らかですね! シャル様」

「え、ええ、まぁ。そうですね」


 これで一件落着なはずなのだが、どこかしまらない。最初に流れてしまった音声がシリアスな空気を壊していた。俺とクリス様の顔が赤いままなのも一因だろう。


 何とか心を落ち着けようとするのだが、母さんとミッシェルさんがニヤニヤしていたり、クリス様と目が合ったりと、どうしても落ち着くことができなかった。


 パンッパンッ!


 弛緩しきった空気を引き締めるためにシャル様が手を叩いた。


「さて、この魔道具は証拠として、枢密院に提出します。枢密顧問官が派遣されてくるまで、10日間といったところでしょうか。それまで、サーシスの身柄はミッシェル様が預かって頂けますか?」

「承知しましたで。頼まれんかったら、わてからお願いしたくらいや。ちゃんともてなし(・・・・)たります」


 ミッシェルさんが嬉々として答えた。


「ま、待ってください! 今の時点で我の身柄を拘束する理由はないはずです! 我は屋敷に帰らせてもらいます!」


 ミッシェルさんのもてなしに恐怖を感じたのか、サーシスは慌てたように言った。


「先ほど、この魔道具を奪おうとしましたね? そのように証拠隠滅を図る者は、身柄を確保してかまわないことになっています。諦めなさい」

「そ、そんな……」


 この展開を狙ったわけではない。だが、サーシスの前で証拠を出したのは、結果的に良かったようだ。


「さて、ほならわての屋敷まで行きましょか。イリスはん。そいつ連れてきてくれるか?」

「ええ、かまいませんよ。ミッシェル様にはまだまだお話したいことがありますしね」

「ひっ! い、いやもう謝ったやないの! かんにんしてや!」

「何の話ですか!? 私にも教えてください! イリス様! 私も一緒に行きます!」


(え、今の声シャル様!? キャラ変わりすぎじゃない?)


「あ、あの……シャル様。1つよろしいでしょうか」


盛り上がっているシャル様にクリス様が恥ずかしそうに話しかけた。


「大丈夫ですよ。どうしましたか?」

「その……できましたら、先ほどの音声、私にも頂けないでしょうか」


 先ほどのって……俺のあのセリフが録音された魔道具が欲しいということだろうか。再び顔が赤くなってしまう。クリス様も顔を真っ赤にしている。それを見たサーシスがなぜか嬉しそうな表情を浮かべた。


「おぉー! クリスよ! やはり我の事を愛しているのだな! さぁ言ってやってくれ! 我らを引き裂かないでくれと! 我を捕まえるのは間違いだと!」


どこまでも自分に都合のいい事しか考えられない男だった。


「はぁー。せっかく若いもんの初々しい恋愛に癒されとったんにあんさんのせいで台無しやわ。シャル様、イリスはん。とっととこいつ連れてきましょか。」

「そうですね。アレン、クリス様とのこと、後で聞かせてね」

「イリス様! 先ほどの件、詳しく!」

「ま、待て! 痛っ! は、放せ! 放せー!!」


 ミッシェルさんを先頭に母さんとシャル様がお店を出て行く。サーシスは母さんに腕を背中側で捕まれたまま、連れていかれた。


「あ、忘れていました」


 お店を出て行ったシャル様が入口からひょっこりと顔を出した。


「私の弟が、一度アレン様に会ってみたいと申しております。本来はこちらから出向くべきなのですが、色々事情がありまして――ご足労をかけますが、今度、私の家(・・・)に来ていただけませんか?」

「かしこまりました。お伺いさせていただきます」


 これだけお世話になったのだ。こちらから出向くくらいどうってことない。


 そう思ったのだが――


「ありがとうございます。弟のモーリスも喜びます。1か月後の日程で調整をさせて頂きますので、よろしくお願いしますね」


 モーリス……第三王子と同じ名前……平民ならともかく、上流貴族で王子と名前が被ることなどありえない。つまり――


(え……俺、王子に謁見するの?)


 固まった俺をよそに、シャル様はお店を出て行った。





「シャル様はモーリス殿下の4番目のお姉様ですよ。ご存じなかったんですか?」


 皆が出て行ったあと、クリス様にシャル様の事を聞いたところ、そのような答えが返ってきた。


(いや……いやいやいやいや! なんで王女様がこんなところにいるの!? ってか俺、王女様に平民と同じ寮で暮らしてもらおうとしたのか。そりゃターニャさんも怒るわ)


「知りませんでした。――色々不敬を働いてしまった気がします……」


 住む場所、さん付け、働いてもらうこと、どれか1つでも不敬罪で首がどぶ。知らなかったでは済まされない。


「だ、大丈夫ですよ! シャル様は温厚な方ですし、怒っている様子もありませんでした。今後、気を付ければ大丈夫です!」


 クリス様が慰めてくれる。確かに、シャル様が怒っている様子はなかった。


「そう……ですね。今更後悔しても仕方ありません。それに、他に考えなければならないこともありますしね……」


 俺は周りを見渡した。あたりはドアの残骸やリバーシが散らばっていて、とても開店できる状態ではない。時計を見ると開店時間まで15分もなかった。


「一度、休憩室に戻りましょう。皆さん心配しているでしょうし」

「あっ! そ、そうですね……早くいきましょう」


 クリス様がなにやら焦っているように見えたが、今は時間がない。俺達は急いで休憩室に向かった。


この世界では、王位継承権は王子にしかなく、継承権のない、王女は一括りに王女と呼ばれます。

貴族の娘は、(王族も含めて)家を豊かにするための道具という考えが一般的な世界だと思ってください。


最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

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